■第513回■ 「liquid biopsy 2本

 

真部です。本年最後の抄読会報告です。今回は今、話題のliquid biopsyを取り上げました。

 

1)Cohen JD, et al.

Detection and localization of surgically resectable cancers with a multi-analyze blood test.

Science 2018;359:926-930.

 

2)Ueno-Yokohata H, Okita H, Nakasato K, Hishiki T, Shirai R, Tsujimoto S, Osumi T, Yoshimura S, Yamada Y, Shioda Y, Kiyotani C,  Terashima K, Miyazaki O, Matsumoto K, Kiyokawa N, Yoshioka T, Kato M. 

Preoperative diagnosis of clear cell sarcoma of the kidney by detection of BCOR internal tandem duplication in circulating tumor DNA.

Genes Chromosomes Cancer 2018;57:525-529.

 

担当は卒後2年目の岩井信之介先生です。岩井先生が作ってくれたまとめを添付します。

 

(真部解説)

liquid biopsyとは、一言で言えば、採血しただけで診断ができるシステムのことです。いわゆる腫瘍マーカーがこれに当たりますが、腫瘍細胞から出るDNA(ctDNA: circulating tumor DNA)をcfDNA(cell-free DNA)として検出する方法が開発されてきました。

一つ目の論文は今年2月にScienceに載ったもので、最新のものではありませんが、凄まじい数の患者検体を用いたもので、成人で多い8つのがんを対象にした検討。Johns Hopkinsのグループです。二つ目は小児の腎の明細胞肉腫(CCSK)をliquid biolsyで診断しようという試みです。我らが成育医療研究センターの加藤元博先生のグループです。興味深いというか、さすがは加藤先生と思わせられた論文です。今年10月に出ました。

さて一つ目ですが、これはCancerSEEKというプログラムです。対象は卵巣、肝、胃、膵臓、食道、大腸、肺、乳腺の8つのがんのステージ1-3(ステージ4は除く)の患者1005人です。ステージ2が最も多い患者群です。健常者の対照群は812人です。この論文の特徴は、結果はわかりやすいものの、数学的な話が多すぎてとても読みにくいことです。表はなく、わかりにくい図が3つだけ。岩井先生も一見して面食らったようです。普通は表や図から論文に取り組む、というものでしょう。ともあれ、岩井先生の作ったまとめはよくまとまっています。要は、数学的な解析を行ったところ、網羅的に検討する際の最適なアンプリコンの数は最大60個程度である。そこから16の遺伝子で61個のアンプリコンを決定しました。16遺伝子はNRAS, CTNNB1, PIK3CA, FBXW7, APC, EGFR, BRAF, CDKN2A, PTEN, FGFR2, HRAS, KRAS, AKT1, TP53, PPP2R1A, GNASです。TP53が最も多く31個のアンプリコンが選ばれました。さすが、がん関連遺伝子の王様ですね。EGFR, BRAF, AKT1などは1つです。論文には書かれていませんが、よく考えてみると、germlineのTP53変異も拾えてしまう可能性があるかもしれません。ところで、DNAだけの検索では臓器の特定が困難である。現在やはり流行りのオンコパネルを考えてみればわかりますよね。そこで8つの腫瘍マーカー(タンパク質)を選んで同時に検索することにしたのがこのCancerSEEKのみそです。すなわち、CA-125, CA19-9, CEA, HGF, Myeloperoxidase, OPN, Prolactin, TIMP-1です。選んだDNAが何か、タンパクは何かなどの大事な情報はsupplementにしかないのも面白いですね。というか、一体どうなってるのかと思います。それはさておき、成人がんも小児がんの考え方に近づいてきているかもしれませんね。お腹の神経芽腫も胸の神経芽腫もNSEは上がるし、同じような抗がん剤を使いますよ、ということです。

さて、結果ですが、正常コントロール812人中7人のみ陽性でした。すなわち1%以下です。これは相当低いと思います。健常人でもがんが隠れているケースはあると思われますので。卵巣で感度が98%と最大、乳腺は感度が33%と最低でした。これは、乳がんのDNA変異が多様であることを反映していると思います。興味深いのは膵臓で感度は70%くらいでした。静かなるがん、膵臓がんが見つかることの意義は大きいと思われます。153例で病理検体のDNAが得られ、90%程度で今回の結果と一致したと書いてあります。153例しかやってないのも驚きですし、100%でないのも驚きですが。。。全体の83%で2つの臓器に限定でき、。63%で1つの臓器に限定できたとあります。ですので、検査で陽性になってもまだ宝探しの要素はありますね。臓器特定が容易にだったのは大腸で、最も困難だったのは肺でした。腫瘍マーカーは消化器系に強いのでしょう。考察には特に目新しいことはありませんが、1テスト500ドル程度でできるようになっているそうです。安いですね。書いてありませんが、ダウン症候群のTAMにおける隠れTAMのような、発症前のステージゼロのようなものも検討されていく可能性があると思います。

この論文には解説がついていて、不安を煽るなどの問題点も議論されています(Kaiser J. Science 2018;359:259)。

もうスペースがあまりないのですが、二つ目の成育の論文はstraight forwardです。数年前に大喜多先生のグループがCCSKではBCORのITDが見られることを報告(Nat Genet 2015;47:861-863)していましたが、今回は3人の腎腫瘍の小児の末梢血でBCORの変異を検討しました。変異が検出された2例は実際にCCSKであったし、変異陰性の例はウイルムス腫瘍であった。CCSKの1例は大きく、大静脈に進展していたので手術なしで化学療法を行った。10週後に手術をしたら大部分壊死していたがごく一部でCCSKの構造があった。臨床応用への期待が高まりますね。

というわけで、liquid biopsyにも諸相あるようです。新しい言葉が出てきたときにしっかり理解しておくことは重要と思われ、取り上げました。

今年もお世話になりました。皆様、よいお年を!

 

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■加藤元博先生コメント■

 

真部先生、岩井先生

 

Liquid biopsyの拙著を取り上げてくださりありがとうございます。

学術的な内容については、いただいた資料と本文でほぼ網羅されていますが、

ご指名(?)ですので、その前後と研究の裏側などを含めてコメントいたします。

 

人の血漿中には、細胞から遊離したcell-free DNAが含まれていることが分かっておりましたが、

近年の技術の進歩で「血漿中のわずかなDNAでも回収率高く得られる」と「微量なDNAでも正確にゲノム配列を読む」ことが可能になりました。

 

妊婦のNIPTはこのことを応用しています。

胎盤はアポトーシスが盛んなため、妊婦の血漿中には胎盤由来のcfDNAが含まれ(10%ぐらいだそうです)、

コピー数測定することで、胎児のトリソミーを推定する検査です。

 

一方、腫瘍細胞も細胞回転が速いことから、正常細胞に比べて多くのcfDNAを放出します。

近年のがん診療におけるゲノム診断の重要性を踏まえ、ゲノム診断をcfDNAで行おう、というのがliquid biopsyです。

 

Liquid biopsyの利点は、何といっても侵襲が極めて少ないことです。

後述するように、手術できない(したくない)例への応用や、

スクリーニングやバイオマーカーとしても使うことができるのではないか、ということが試みられています。

 

さて、前置きが長くなりましたが、CCSKの論文の話に移ります。

・liquid biopsyという技術がある

・CCSKでは高率にBCORの一部が重複してITDになっている

この2点から、「BOCR-ITD specificなPCR系」を作れば、CCSKをliquid biopsyで診断できるのではないかと思いつきました。

添付のFigure 2Aのように、ITDのコンセンサス領域内に反対向きにprimerを作成すれば、ITDがあった時だけPCRがかかることになります。

(こういう、思いつく瞬間が楽しいですよね・・・)

 

さて、このPCR系ができた時点で(first authorの上野さんが頑張ってくれました)、あとは腎腫瘍の患者がくるのを待つだけです。

最も幸運だったのは、この系ができてから短期間で3人も腎腫瘍の患者が初発で現れ、さらには2例がCCSKだったことです!

できすぎたような話ですが、ホントなのです。

 

みごと、CCSKの2例はcfDNAでBCOR-ITDが検出され、Wilmsの1例は検出されませんでした。

 

ご存知の通り、腎腫瘍の治療にはふたつのアプローチがあります。

詳しくは、荒川歩先生企画の勉強会でとりあげられると思いますが、

COG方式:手術→組織型決定→(組織系に応じた)化学療法±放射線照射

SIOP方式:まずおおまかに化学療法→手術→(組織系に応じた)化学療法±放射線照射

です。

 

COG方式では、組織型に応じた最適な化学療法を早期から開始することができますが、一期的な手術が難しい場合には問題になります。

SIOP方式では、化学療法によるdown stagingを目指すことができますが、術前の化学療法は組織型によっては最適ではない可能性があります。

 

いずれも、生検することは被膜を破ってupstagingとなるため避けることが望ましいとされていますので、

もし診断時に非侵襲的かつ速やかに「これはCCSKですよ」とわかったら、

COG方式とSIOP方式の「いいとこどり」ができそうな気がします。

 

もちろん、感度・特異度についてはまだまだ検証が必要です。

特に「陰性=CCSKでない」という陰性的中率はあまりあてにならないかもしれません。

また、あくまでも品質保証していない段階の研究検査ですので、

このことのみで診療の判断をするのは避けるべきである、ということにご注意ください。

 

実はこの論文は、最初の投稿からGenes Chromosomes and Cancerでした。

3例の解析ですが、「liquid biopsyの可能性を示す」という意義を認めていただいたのだと思います。

 

最後になりましたが、ご協力いただいた成育医療研究センターの先生方に、

この場を勝手に借りてあらためてお礼申し上げます。

 

加藤先生コメント_Figure2A.pdf
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■真部淳先生コメント■

 

加藤先生

早速のコメント、ありがとうございます。

リサーチの面白さがわかるとてもよいお話です。やっぱりアイディアですよね。

私が申すまでもありませんが、加藤先生の今後ますますのご発展を祈念します。

 

 

■第511回■ 「MBD4変異を背景としたメチル化ダメージの蓄積が、若年AMLを引き起こす」

 

平林です。

取り上げました論文は

 

MBD4 guards against methylation damage and germ line deficiency predisposes to clonal hematopoiesis and early-onset AML.

Blood. 2018 Oct 4;132(14):1526-1534.

 

です。日赤医療センターから勉強に来てくれている5年目の若杉先生と一緒に読みました。

先日のASHで遺伝性(家族性)造血器腫瘍についてのシンポジウムが開かれていましたが、そこでも発表されていた論文になります。遺伝性造血器腫瘍はWHO2016分類でも新たな項目として取り上げられ、RUNX1やGATA2、DDX41などが有名と思います。その仲間に加わるものとしてMBD4欠損が今回報告されました。若年AML(30代発症)の3人の患者さんを通して、germlineのMBD4変異を背景としたメチル化ダメージの蓄積が、DNMT3Aなどの加齢により生じる変異を早期に誘発することで若年AMLの発症に至ったことが証明されました。

 3人の患者さんのうち2人は同胞です。網羅的解析において、その3人は通常のAMLに比較して33倍も変異数が多く、かつ高齢のAMLで良く見られるCG>TG変異が95%以上あるのが特徴的でした。Germlineを見てみるといずれもMBD4のホモまたはコンパウンドヘテロの変異があり、MBD4の発現、蛋白が欠損していることが判りました。

各種のがん患者を含む巨大データベースを検索すると9例のMBD4欠損が見つかりました。そのうち悪性黒色腫1例、膠芽腫1例が両アレルの変異を有し、前述の3人のAMLと同様に、変異数が多く、かつCG>TG変異が高頻度に見られる特徴を有していました。MBD4はメチル化DNA結合タンパク質として、シトシンがメチル化してチミンに置き換わるのを修復する役目を担っています。このメカニズムを塩基除去修復 (base excision repair: BER)と言います。これが破綻することでCG>TG変異が高頻度に見られることになったと考えられます。

 この3人のAMLをさらに深めていきます。CG>TG変異は多い一方、挿入や欠失は少なく、単一〜5塩基対程度の対合しない部位の修復を行うミスマッチ修復機構(mismatch repair: MMR)などは保たれており、メチル化されたシトシン(5mC)の存在が変異に影響を与えると考えられます。これを裏付けるようにもともとメチル化が少ないCpGアイランドやプロモーター領域の変異は少なく、エキソンやイントロン領域のメチル化が頻繁になされている部分で変異が多かったです。また3つの塩基配列単位でみると、ACGという並びで変異が生じやすく、これはMbd4ノックアウトマウスでも同様の傾向でした。また4つの塩基配列単位でみるとACGCという並びで変異が生じやすかったです。また細胞複製の後期の状態や低発現の遺伝子では変異が生じやすいといった特徴もあることがわかりました。

 3人のAMLはいずれも両アレルのDNMT3AとIDH1, IDH2の変異をCG>TG変異により来していました。通常のAMLでこれらは比較的まれであり、3人が同時にもつことは偶然とは考えられませんでした。複数の検体を比較すると、DNMT3Aが初めに生じており、かつ芽球ではない造血細胞にも存在していました。また、DNMT3A変異は1か所だけではなく、複数のDNMT3A変異があり、マルチプルクローンとして存在することが確認されました。DNMT3A変異は、これまでの研究で正常造血の加齢性変化のなかで獲得されることが知られています。患者検体のシングル細胞由来シーケンスも行い、詳細に変異を把握し、寛解期検体でもDNMT3Aを含むTET2などの加齢に伴う遺伝子変異が検出されました。

患者で同定されているtrisomy11やmonosomy7などの巨大な染色体異常はどのような影響を与えているのかという疑問が話題になりましたが、そこは言及されていません。

 以上、結果を記載しましたが、30代発症のAMLを通して新たなcancer predispositionが解明されました。もちろん通常のAMLの中でレアケースとは思いますが、小児AMLの中にもまだいろいろ隠れているかもしれません。なお残念ながらMBD4は、現在進行中のJPLSG-Cseq17のパネルにまだ搭載されていない模様です。長々と有難うございました。

 

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■第509回■ 「小児の多重がんについて」

 

真部です。明日からASHですね。今年はどんな話題が登場するか、楽しみです。

今回はまたしてもSt. Judeからですが、小児の多重がんについての重要な論文を取り上げました。

 

Wang Z, et al.

Genetic risk for subsequent neoplasms among long-term survivors of childhood cancer.

J Clin Oncol 2018;36:2078-2087.

 

担当は卒後1年目の小柳采良先生です。小柳先生が作ってくれたまとめを添付します。

 

(真部解説)

St Judeのgermlineといえば、皆さん、Downing JRらによるNEJMのペーパーを思い起こすことでしょう(Zhang J. N Engl J Med 2015;373:2336-2346)。そのペーパーでは1120人の小児がん患者の発症時の検体を用いてcancer predispositionと関連するgermline遺伝子変異(と当時は呼んでいた)が調べられました。結果は95人(8.5% )で変異があり、多い順にTP53(半数は副腎皮質腫瘍)、APC、BRCA2、NF1、PMS2、RB1、RUNX1などが含まれました。白血病でも4%、脳腫瘍では8%、ユーイング肉腫では10%で変異がみられたという結果は衝撃的でした。ただし、そのペーパーでは二次がん、あるいは多重がんについては述べらていませんでした。

今回は、趣を変えて、5年以上生存している小児がん患者3006人から新たにDNAを採取し、WGSを行いました。解析時の年齢の中央値は35.8歳(7-69歳)と高く、さすがSt. Judeです。ただ、白人が83%と大部分を占め、疾患も白血病が32%、脳腫瘍は11%、リンパ腫は19%(うちホジキンが13%)と、現在のアメリカの患者の人種構成とは異なっています。また日本に比べてホジキンが多く、そのホジキンに二次がんが多いのは有名だったりで、かなり特徴のある集団ではあります。

結果は3006人中、439人(14.6%)で 多重がんが.みられました。興味深いのは、多重がんのことをsubsequent neoplasms (SN)と言っています。二次がんはよくsecond malignant neoplasms (SNM) と訳され、紛らわしいですが、要は二次のみならず、三次などの多重がんという概念なのでしょう。家族性がんを引き起こす、あるいは引き起こしそうな(pathogenic or likely pathigenic: P/LP)遺伝子変異(60種類に限定した)は3006人中、175人(5.8%)でみられ、多い順にRB1、NF1、BRCA2、BRCA1、TP53など、32種類ありました。

このあと、どんな腫瘍がSNとして起こったか、放射線照射の影響があったかなどが述べられています。大雑把に言うと、乳がん、皮膚がん(メラノーマ以外)、甲状腺がんが多かった。全体としては照射有りの場合には遺伝子変異の影響はなく、照射無しの場合には遺伝子変異の影響が大きい。乳がんでは照射の影響が大きい(ホジキンを思い浮かべてください)。肉腫(大きなくくり!)でも照射の影響が大きいが、甲状腺がんではどちらとも言えない、など。薬剤としては乳がんはアンスラサイクリン系、肉腫はアルキル化剤の使用と関連がありました。

なお最後のFig 4に円グラフが6つありますが、総数3で円グラを描くなど、素人的です。この辺、いつもながらJCOは通すと決めたペーパーには甘いですね。

とはいえ、極めて重要なペーパーではありますが、皆さんは、「ちょっと待ってくれ。St. Judeのお家芸、MDS/AMLはどうなっているのか」という疑問を持たれると思います。それはSupplementのTable A3にあるのですが、なんと、SMの中で、AMLはわずか1例、MDSは0です。つまり、二次性MDS/AMLはあまりにも予後が悪かったということなのでしょう。それがこの論文の大きな限界だと思います。

先日のSIOPに際して熊本班の会議があり、アジア地区でgermline問題をどのように扱うかが議論されました。日本国内の研究もまだ始まったばかりです。民族差は当然あるでしょう。みんなで考える時期に来たのだと思います。熊本先生、石田先生、コメントをお願いします。

 

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■石田也寸志先生からのコメント■

 

愛媛県立中央病院小児科の石田です。
真部先生、貴重な情報をありがとうございます。
まだこの論文を読んでいないので詳細なコメントは避けますが、今回の対象症例が5年以上生存していた小児がん症例であることに注意して下さい。二次性のAML/MDSは我々が調べたコホートでも、ほとんどの症例が原発がんの診断後5年以内に発症し早期に死亡してしまいます。その意味では、5年以上生存していた(特にEFS)だと、ほとんどの二次性のAML/MDSは抜け落ちてしまいます。
その意味ではCCSS研究のように、5年以上生存していた症例を対照としたサバイバー研究では、二次がんの全貌はとらえていないという点を知っておいて欲しいと思います。
我々のコホートでは、その点を補うため二か月以上生存した症例を対照に検討しています。
その上で5年以上生存した症例と比較したりしています。下記論文のdiscussionの第3パラグラフです。参考になれば幸いです。より詳細にはsupplemental appendixに示しています。参考になれば幸いです。
Ishida Y, et al. Secondary cancers after a childhood cancer diagnosis: a nationwide hospital‑based retrospective cohort study in Japan. Int J Clin Oncol (2016) 21:506–516
■真部淳先生コメント■
石田先生
ありがとうございます。
今更ですが、この先生のIJCOの論文はとても重要だと思います。
次は日本における大規模な前向きコホート研究ですね。

■恒松由記子先生からのコメント■

真部先生
JCOの論文と解説有難うございました。
熊本班小児の遺伝性腫瘍の班でお世話になっている恒松です。
St Judegermline 解析今度は二次性腫瘍版ですね。 
膨大なデータをサプリメントを含めてざっと見ました。間違っていたらご指摘ください。
放射線照射群が、特に乳がんの発生で、特にP/LPを持つ者に早期に出ていることが注目されます。照射して最も早期に発症した乳がんは2例のTP53 バリアントの保有者だったのか知りたいところです。
Meningioma もほとんどが照射群からでていること我々も実感しますね。また日本人にはあまりありませんが非メラノーマ性皮膚がんも照射群からでていて、とくにP/LP群からでています。
サプリメントの表SJCPG60Survivor のサンプルからP/LPが認められものが遺伝子毎に分けて、最初の小児がん腫が出てます。RB1では大部分がRBから、APCの4サンプルのうち二つがhepatoblastoma 、NF1の22サンプルのうちほとんでがCNSであったことは納得がいきます。ミスマッチ修復遺伝子のうち、MSH6では6のうち4が血液腫瘍、PMS2の4つのうち全部が血液腫瘍であることは注目に値します。
SIOPの前日に熊本先生が招集した Cancer Predisposition meeting のときに 例のNEJMの論文の話が出て、Sharon Plon 先生はあれはバイアスだらけ、Garret Brodeur先生はそれらのgermline mutation が各小児がんの発生にどうやって寄与しているのかはわかってない。といってました。
ちなみに、私事ですが、昔の症例ですが、ユーイング肉腫のあとAMLで血縁者間BMTを行った後、長期生存して、今は放射線科医として働いている方がいます。遺伝検査については、TP53も調べていませんが。
St Jude のコホートからはまだ成人のがんが乳がんのほかほとんど見られて内容ですが、本文にあるように今後末長いフォローアップが大切ですし、家族歴のフォローアップ中にも再度とることが重要ですね。
■真部淳先生コメント■
恒松先生
ご意見をありがとうございます。
先生のおっしゃることに同感です。
私も熊本先生の会議にいました。ただ、このSt. Judeの結果をバイアスというのもどうかと思います。
現代より照射が多いとか、白人に偏っているとか、早期に二次がんを起こした例が入っていないとかは問題かもしれませんが、症例数も多く、直ちに否定すべきペーパーとは思えません。他のグループから結果がでてcomnfirmされるかどうかが重要だと思います。
■恒松由紀子先生コメント■
真部先生
お返事ありがとうございます
Plon 先生が言ってたのは、NEJMに2015年の論文のことで、これはたまたま副腎皮質がんとlow hypodiploid ALL が多く入っていたので、「小児がんの8.5%に認められたというサマリはちょっとね」といってました。というわけででバイアスといってもこれは正しいと思いますが、この論文ではきちんとSEERとの比較を図にしてこの点も論じています。もちろん今回のSt. JudeのJCOの論文では、このような偏りははいっていないと思います。
■真部淳先生コメント■
恒松先生
了解です。
■真部淳先生コメント■
皆様
ASHから戻りました。
St. JudeのKim Nicholsが講演していました。
その中で、2015年のNEJMのレポートについてはややバイアスのかかった集団であると自ら言っていました。
私は、今回のペーパーにはSt. Judeでかつてたくさん出た二次性のMDS/AMLが入っていないことを指摘したところ、その通りで、その分野は入っていない。よいアイデアなので、今後調べたいとの答えでした。

■第508回■ 「インヒビター非保有血友病Aに対するエミシズマブ」「

 

長谷川です。取り上げたのは画期的血友病治療薬でお馴染みのエミシズマブについての論文です。

外科系初期研修医の後藤正博先生が担当&資料作成してくれました。

 

Mahlangu J, Oldenburg J, Paz-Priel I, Negrier C, Niggli M, Mancuso ME, Schmitt C, Jiménez-Yuste V, Kempton C, Dhalluin C, Callaghan MU, Bujan W, Shima M, Adamkewicz JI, Asikanius E, Levy GG, Kruse-Jarres R.

Emicizumab Prophylaxis in Patients Who Have Hemophilia A without Inhibitors.

N Engl J Med. 2018 Aug 30;379(9):811-822. doi: 10.1056/NEJMoa1803550. PMID: 30157389

 

エミシズマブについてはいまさら門外漢である私があれこれ説明する必要はないと思いますが、実は当抄読会でも要所要所で取り上げております。

中外+奈良医大からNature Medicineに発表されたpreclinical study(第236回抄読会)、日本で行われたphase1/2(になるのでしょうか?dose-findingかつ有効性もみた試験;第396回抄読会)、グローバルで行われたインヒビター例に対するphase 3(第453回抄読会)と、素晴らしい内容に毎回驚かされてきました。

 

今回はインヒビターなしの既治療・成人(12歳以上)血友病Aに対するエミシズマブ予防投与についてのphase 3です。

これまで予防投与をされていない(オンデマンド投与のみ)症例を1.5mg/kg/w(A群):3.0mg/kg/2w(B群):予防なし(C群)= 2:2:1に割り付けています(後藤資料スライド5)。

さらにF8製剤で予防投与されている成人例をD群としてエミシズマブの週1回予防に切り替えて、変更前後の患者内比較が行われました。

エミシズマブは3mg/kg/w x4回をローディングとして投与します。

上記デザインはインヒビター症例に対するphase 3とおおむね同様のものです。

 

結果はエミシズマブの圧勝でした。

論文のTable 2をまとめますと…

 

                A群               B群               C群

               1.5mg/kg/w  3.0mg/kg/2w     予防なし

年間出血頻度  1.5             1.3               38.2

出血ゼロ症例     56%           60%              0%

出血0-3回症例   92%           94%                 6%

治療を要した

標的関節出血     0.6             0.7                   13.0

 

なんというかC群に割り付けられるのは不運という気もしますが、24週の試験後はエミシズマブ投与を受け、有害事象評価の対象に入れられています。

 

患者内比較を行ったD群でもF8製剤での予防よりエミシズマブ予防の方が出血が少なく、インヒビター非保有症例における有効性が示されました。

 

                  エミシズマブ    F8     

年間出血頻度    1.5               4.8

出血ゼロ症例    54%              40%

出血0-3回症例  92%              73%

 

有害事象は皮下注部位の局所反応がほとんどで、危惧されていたエミシズマブに対する中和抗体は認められていません。

 

インヒビター症例ではaPCC製剤と併用した際に重症血栓症・TMAが報告されていますが、この試験ではブレイクスルー出血に対してF8製剤を投与するようにしており、血栓症は報告されていません。

F8の方がaF9とF10に対するアフィニティが高いので、エミシズマブに対して相乗的に作用しないそうです(aPCCとエミシズマブはsynergisticとのこと)。

 

PKも評価されていますが1.5mg/kg週1回と3.0mg/kg週2回でトラフ濃度の差はほとんどありませんでした(後藤資料スライド13)。

このグラフをみるとローディングの重要性がなんとなく伝わってきます。

 

まいどおなじみ製薬会社主導で作成されており、COIリストも長大な高級宣伝記事みたいな論文ですが、結果のクリアさには反論のしようもありません。

週2回の皮下注で出血ゼロが得られるのであれば、小児や高齢者にこそ福音になりますし。

 

先日の小児血液・がん学会で行われていた血友病のシンポジウムでは、インヒビター症例にはエミシズマブを使っていくのか、ITIでインヒビターを消すのか、という点で議論になっていましたが、インヒビター非保有例でエミシズマブの出血予防効果がF8製剤と比べて高く、中和抗体もできないのであれば、F8製剤でインヒビターができる前にエミシズマブにした方がよいのでは、ということになっていくのでしょう。

 

 

今後、小児例の結果も出てくると思いますが、さらに未治療例でも有効性・安全性が示されると完全に血友病治療が変わるかもしれませんね。

 

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■第506回■ 「ALL細胞がどのようにCNSに入るのか」

 

真部です。今日は(Natureには珍しく?)ストーリー性に溢れた素晴らしい論文を読みました。

 

Leukemia hijacks a neural mechanism to invade the central nervous system.

Yao H, et al. Nature 2018;560:55-60

 

担当は卒後5年目の水城和義先生です。産業医大から勉強に来られていますが、文字通り、この論文を楽しんだとのこと!水城先生の作った完璧なまとめを添付します。ファイルのサイズが大きいですが、何とか皆様のお手元に届くことを期待します。なんせ、元のペーパーは61MBもありますので。。。

 

(真部解説)

ALLの細胞はCNSに入りやすいというのは定説、CNSはALLにとっての聖域、というのはまさにALLの掟のようなものですが、細胞がどのようにCNSに入るのかはわかっていませんでした。この論文はそのメカニズムに迫ったというものです。

PI3Kdeltaは広く免疫細胞や神経細胞に発現していますが、その阻害剤であるidelalisibはリンパ腫の治療薬として承認されています。

GS-649443は同様にPI3Kdeltaを阻害する薬剤ですが、SCIDマウスにALL細胞株Nalm-6を静注し、GS-649443を投与したところ、マウスの生存期間は延長しました。そして面白いことにCNS病変が減少しました。というか、骨髄と脾臓ではALL細胞の減少はなく、脳のくも膜下腔のALL細胞が減少しました。これはCNSに入りやすい他の細胞株であるRCH-ACVでも患者検体でも同様でした。ただ、GS-649443のCSFにおける濃度は血清に比べて極めて低く、この薬剤がCNSでALL細胞を殺しているわけではなさそうでした。ここで研究の方向を転じてPI3Kの作用を考えることにしました。

PI3KはRhoやFAK経路により actomyosinに作用し、細胞の遊走をコントロールします。Transwellを用いてこの遊走能への影響を調べたところ、その通り、 idelalisibでもGS-649443でもALL細胞の遊走能は低下しましたが、AKT阻害剤ではその作用は減じませんでした。さて、GS-649443で処理したNalm-6細胞で発現が下がった遺伝子の一つにITGA6がありました。この遺伝子はα6インテグリンをコードし、α6インテグリンは細胞外基質(ECM)のlamininに結合します。ITGA6ノックアウトマウスでは神経系の発生異常が起こります。また神経幹細胞(Neural stem/precursor cell: NSPCs)はlamininに沿ってα6インテグリン依存性に遊走します。そのことからALL細胞もNSPCsと同様のメカニズムより、CNSに遊走するとの仮説が立てられました。そこで、微小血管から脳実質に浸潤するか、軟膜から入るのか、脈絡叢からか、などマウスに顕微鏡を組み込んで観察(videoも付いている)しましたが、すべて否定的でした。

ここで著者らはまたも研究の方向を転じて脳の導出静脈に目をつけました。すると、驚いたことに骨髄から骨を貫いてくも膜下腔に達する導出静脈の外側のlamininに沿ってALL細胞が大量に遊走する様が見られました。これは付属のvideoをご覧になる価値があります。

SCIDマウスにALL 細胞を静注し、α6 インテグリンの中和抗体を投与するとCNS病変が著明に抑制されました。また主に成人ALL 患者の細胞のα6 インテグリンの発現(なんと病理標本での染色)が高いほどCNS白血病が多いことも示されました。

この論文の筆頭著者の八尾尚幸先生はこの研究が行われたDuke大学から国立広島西病院に移り、3週間前の日本血液学会の初日にこの仕事の成果を発表しましたので、聞かれた先生も多いかと思います。とても感動的な発表だったようです。私は生憎、5分の差で聞けませんでしたが。

実は私も28年前にSt. JudeでALL細胞の研究をしていましたが、ALL細胞はα4インテグリンを発現しており、ECMにあるfibronectinとの相互作用により骨髄ストローマと接着することを発表しました(Manabe A. Blood 1994)。今回と似たモデルです。また帰国後、国立小児病院の藤本純一郎先生のラボで激しい骨浸潤をきたした患者さんのALL細胞をSCIDマウスに移植したところ、マウスにも骨病変が再現され、またマウスには四肢と尻尾に麻痺が起こり、病理では頭蓋骨の骨髄からくも膜下腔にALL細胞が大量に浸潤していました。結果は1995年のASHに送ったのですが誌上発表になってしまい、そのまま打っちゃっていました。今思うと、結構いい線いってたかもしれません。藤本先生には申し訳ないことをしたと、今日改めて反省したのでした。

とはいえ、この論文のストーリー性、いいですね。読後感が爽やかでした。

 

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■第505回■ 「TAMに対する低用量キロサイドでML-DSは防げるのか?」

 

長谷川です。今回取り上げたのはTAMについての臨床的な論文です。

外科系初期研修医の鄭和卿先生が担当&資料作成してくれました。

 

Flasinski M, Scheibke K, Zimmermann M, Creutzig U, Reinhardt K, Verwer F, de Haas V, van der Velden VHJ, von Neuhoff C, Zwaan CM, Reinhardt D, Klusmann JH.

Low-dose cytarabine to prevent myeloid leukemia in children with Down syndrome: TMD Prevention 2007 study.

Blood Adv. 2018 Jul 10;2(13):1532-1540. doi: 10.1182/bloodadvances.2018018945. PMID: 29959152

 

 

 

これまでの後方視的解析から少量キロサイド (LDCA)は重症TAMの生存率を改善させることが知られています。

本研究は前方視的にLDCAを評価していますが、プライマリエンドポイントはなんとML-DS (myeloid leukemia associated with Down syndrome)の発生率、つまりLDCAによってTAMからML-DSへの進展を防げるかという意欲的なデザインです。

 

対象は2007年4月から2015年2月の間にドイツとオランダで診断されたTAMの全症例で、TAMの定義はBM or PBでの骨髄芽球>5%ないしGATA1変異を呈する生後3ヶ月未満のトリソミー21です。そのうち、TAM重症化に関連する所見(= WBC>10万、腹水、肝腫大+肝酵素上昇/胆汁うっ滞、胎児水腫)を認める例をLDCAの適応としています。

それに加え、全症例でMRDが測定され、診断後8週時点でMRD陽性の場合は上記症状がなくてもLDCAの適応となります。

MRDはPBで測定され、FCM≧0.1%ないし患者特異的GATA1s qPCR≧0.01%が陽性の定義だそうですが、FCMとqPCRでカットオフが異なってよいのかはよくわかりません。

LDCAは1.5mg/kgをIVまたはscで7日間投与し、反応不十分(芽球 or MRD遷延)の場合は1週間ずつ間隔をあけて3コースまで追加してよいことになっています。

LDCAの有効性をみたくても重症TAMにRCTを行うのは難しいので、ヒストリカルコントロールとの比較を行い、LDCAによってML-DSの発症を22%から7%に減少させられるか、という仮説を検証する形で症例数が設定されています。

 

全部で102例のTAMが登録され、うち前述の症状を呈していたのが43例、症状なしのうちMRD陽性@8wkが14例、陰性が29例でした(残りの16例は、11例でMRD得られず、5例が介入辞退;鄭資料スライド10)。

症状でLDCAの適応となった43例のうち実際にLDCAを投与されたのは28例 (65%)で、最重症例などでは治療が行えなかったものと推測されますが、MRDでLDCAの適応となる14例中11例 (79%)で投与されているのは、意外と遵守率が高いように感じました(遵守されないと研究が成り立ちませんが…)。

102例の5年OSは91%、5年EFSは72%とヒストリカルと同等でしたが(鄭資料スライド12-13)、早期死亡率は減少しました(5% vs. 14%;鄭資料スライド14)。

特に重症例の早期死亡は有意に減っており(12% vs. 33%; p=0.02)、重症例におけるLDCAの有効性が前方視的研究でも証明されました(ちなみにLDCA適応となる症状がない症例では早期死亡はいませんでした)。

 

肝心のML-DSは17例に生じており(発症時月齢average 15.3mo、累積発生率19%)、ヒストリカルの22%と差はなく、診断時の臨床・検査所見でML-DSの発症を予測できるものはありませんでした(鄭資料スライド18)。

有症状例だけみても、有症状でLDCA受けたものだけみてもML-DSの発生に差はなく(それぞれ21%、20% ⇔ ヒストリカルのうち有症状例のML-DS発生率は23%)、無症状でMRD@8wk陽性の14例とMRD陰性のML-DSの頻度にも差はなく(それぞれ31%、14%)、LDCAによるML-DSへの進展予防は証明されませんでした(鄭資料スライド19)。

 

というわけでLDCAによる介入ではML-DSの発症は減少しませんでしたが、重症例の早期死亡は減少しており、重症例には機を逸さずにLDCAを行うことの意義が改めて示されました。

本研究ではLDCAを3コースまでに限定しており、MRDが消えるまで徹底的に投与すれば消えるのかも?という疑問も残ります。

実際にMRD@12wkが陽性だとML-DS発症率は46%まで上昇しており(鄭資料スライド20)、残存TAMクローンがML-DSの発症に関与していることが伺えます。

一方でLDCAにより薬剤耐性クローンが残ってML-DS時の治療に難渋するのでは、という危惧もなくはありません。

私はJPLSG TAM委員でもあるのですが、現在準備中のTAM-18ではLDCAの投与基準・投与方法を統一し、MRDで病勢をフォローする予定です。

12月の班会議でキックオフがありますので宜しくお願い致します。

 

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■第504回■ 「BFMでのGO使用の後方視的解析」

 

平林です。取り上げました論文は

 

Gemtuzumab Ozogamicin in children with relapsed or refractory acute myeloid leukemia: a report of Berlin-Frankfurt-Münster study group. Haematologica. 2018 Aug 9.

 

になります。研修医2年目の久司先生と読みました。

 

AMLに対する新薬がいくつか登場したようですが、再発性、難治性のAMLの壁はまだまだ高いのが現状です。AMLに対して有望な新薬として登場したGemtuzumab ozogamicin(GO)は撤退という憂き目に遭った後、再び現在多くの臨床試験が行われています。その中で小児の再発・難治AMLに対するものもありますが、まだ結果を得るまでには時間がかかります。まずは後方視的にCompassionate useとしてBFM内で治療されたデータが集められた論文がこの結果になります。

 1995年から2014年までの2601例の小児AMLがBFM内で治療されました。217例が化学療法不応、654例が再発を来し、それらのうち98例でGOが使用され、評価可能な76例が対象となります。GOを投与された症例は個々の判断で、当然selection biasがある後方視的研究です。

 結果です。患者背景はFAB-M4,M5が多いですがM7なども含みます。前治療の多くはFLAG+リポ化ダウノルビシンで、14例が移植をされたのちのGO投与になります。GOが投与された患者の状態としては、早期の第1再発を来し寛解に入らない状況が41例と半数でした。GO単独投与が36例、シタラビンとの併用療法が同数の36例でした。1サイクルだけの投与が多く、投与量3mg/m2以下が多いですが、単独投与では高用量も用いられていました。

 有害事象ですが、Grade3/4の感染やFNが69%に見られ、胃腸症状が6%、infusion reactionが7%でした。VODは3例に発症し、いずれも予防的defibrotideは投与されていた症例で、GO投与量はそれぞれ6, 7.5, 9 mg/m2と高用量でした。VODが直接死因となった症例はありませんでした。

 全体の成績としてGO投与後からの4年OSは18%、サブグループでみると、早期第一再発が12%、後期第一再発が48%、第2再発以降が10%という4年OSの結果です。GO投与のサイクル数や単独投与や併用投与で予後に差はありません。27例がGO投与後に移植を受けるに至らず、全例死亡しています。49例(64%)はGO投与から平均41日後に移植を受け、25例では寛解の状態で移植され、4年OSは27%です。

 このように後方視的検討で結果が羅列され、比較するような群があるわけではありません。濃厚な治療をされた後の小児再発、難治AMLで、GO投与後、大きな有害事象なく、64%が移植に辿り着き、27%の長期生存を得ていることが確認されました。

何れにしろGO投与の前向きの結果が待たれるのですが、本論文においても細谷先生が第452回抄読会で報告した多型の結果が気になります。また3mg/m2の投与ではVODは生じていませんが、どれぐらいdefibrotideが予防投与されていたのかはわかりません。またCD33の発現の程度とGOの治療効果なども気になります。ぜひコメントなど頂けますと幸いです。

 

 

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■第503回■「小児急性白血病治療と造血細胞移植でのレボフロキサシン予防投与RCT」

 

細谷です。今回は先月のJAMAに掲載された、小児急性白血病と造血細胞移植症例に対してのレボフロキサシン予防投与の有効性についての論文を取り上げました。一緒に読んでくれたのは、日赤医療センター小児科から聖路加に研修に来てくれている中井亮佑先生です。中井先生が作成してくれた資料を添付します。

 

Alexander S, Fisher BT, Gaur AH, Dvorak CC, Villa Luna D, Dang H, Chen L, Green M, Nieder ML, Fisher B, Bailey LC, Wiernikowski J, Sung L, for the Children’s Oncology Group.

Effect of Levofloxacin Prophylaxis on Bacteremia in Children With Acute Leukemia or Undergoing Hematopoietic Stem Cell Transplantation: A Randomized Clinical Trial.

JAMA. 2018 Sep 11;320(10):995-1004.

 

悪性腫瘍に対する化学療法や造血幹細胞移植を行う中で、菌血症は大変重要な治療合併症であり、治療関連死亡の主たる原因の一つです。

成人領域では、化学療法による好中球減少に対する抗生剤の予防投薬は、死亡リスクを低下させることがメタアナリシスなどで支持されています。しかし小児のデータは少数例の報告しかなく、まだ十分とは言えません。また、Clostridium difficile関連下痢症の発症や、耐性菌の増加が心配されたり、ニューキノロン系の使用による筋骨格系毒性への懸念から、予防投薬が躊躇されるということもあります。

そんな背景がある中で筆者らは、小児急性白血病の治療を受けている、あるいは造血幹細胞移植を受けている患者さんたちにとってレボフロキサシン(LVFX)予防投与が有効なのかどうか、予防投薬のリスクはどの程度かを検証するため、ランダム化比較試験を行いました。多施設共同オープンラベルランダム化第三相試験で、2011年から2016年に行われました。対象は、急性骨髄性白血病(AML)、再発急性リンパ性白血病(ALL)、造血幹細胞移植の患者さんです。カリニ肺炎予防薬は投与が許可されています。また、一度この試験に参加した患者さんは、再度参加することはできません。LVFXは経口または経静脈的に投与されます。投与量は、6ヵ月以上5歳未満は10mg/kg 1日2回、5歳以上は10mg/kg 1日1回(最大750mg/day)としました。これは米国でのLVFXの治療量と一緒です。急性白血病では化学療法開始day3からLVFX投与を開始し、2コース連続で投与します。移植の場合はday-2からLVFX投与を開始します。Primary outcomeは菌血症です。皮膚常在菌が1回だけ陽性だった場合はコンタミネーションとみなします。2回以上培養陽性の場合は菌血症と判断します。ただし、S.viridansは1回で菌血症と判断します。Secondary outcomeとして、好中球現象時の発熱、重症細菌感染、侵襲性真菌感染、CD腸炎、筋骨格系の副作用、起因菌の抗菌薬感受性、予防投与による腸内細菌耐性化をあげました。また、事後解析として、発熱期間、入院日数、真菌感染の治療日数、C.difficile 検査、使用した抗菌薬と投与期間を調査しています。

米国とカナダの76施設が参加し、2017年にフォローアップが完了しました。

624人の患者さんの内、200人が急性白血病で、424人が移植症例でした。急性白血病の内、AMLが65%、再発ALLが35%程度でした。一方移植例は、自家移植が40%、同種移植が60%程度でした。急性白血病患者さんは化学療法2コース連続で予防投与を受ける群100人と、予防投与を受けない群100人の二つに分けられ、移植患者さんは移植一回予防投薬を受ける群210人と予防投与を受けない群214人の二つに分けられました。charactarisiticsはランダム化された各群で差がありません。興味深いのは、急性白血病群で予防的に2-3割の患者さんでG-CSFが使われています。さらに移植群では6割以上の患者さんでG-CSFが使われています。あまり躊躇なくG-CSF投与を行なっているということでしょうか。

急性白血病症例では、LVFX予防投薬の効果が認められ、予防投薬を行うと有意に菌血症が起きにくくなるようです(予防投薬あり:21.9%, なし:43.4%;p=0.01)。一方で、418人の移植例では、LVFX予防投薬の有無で菌血症発症に有意な差はつきませんでした(予防投薬あり:11.0%, なし:17.3%;p=0.06)。とはいえ、p=0.06です。好中球減少時の発熱は予防投薬ありで少なく(予防投薬あり:71.2%, なし:82.1%;p=0.02)、その他の重症感染、深在性真菌症、C.difficile関連下痢症、筋骨格系毒性には、有意な差はありませんでした。菌血症として検出された菌で最多はS.viridansでした。一部の症例で、便中細菌の薬剤感受性を検討していますが、この予防投薬で耐性菌増加は認められませんでした。

プラセボを用いずopen labelで行われたことが、実際のケアに影響した可能性はあるとはいえ、RCTで小児のAMLと再発ALLにおいて予防投薬のエビデンスが得られたことになります。今後の日常診療を変える重要な結果だったと思います。

 

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■太田節夫先生コメント■

 

 

JAMAの、素晴らしい論文のご紹介ありがとうございました。

成人では標準的予防法となっていて久しいニューキノロンが、「小児に関してはエビデンスが無い」という状況をまずは打破してくれる、貴重な論文であると思います。間違いなく、次の小児白血病・リンパ腫ガイドラインに引用されることになるのではないでしょうか?

 

我が国にあてはめるのに問題になるのは、一つはご存知のとおりレボフロキサシンに小児適応が無いことです。小児適応があるのは、ノルフロキサシンと、トスフロキサシンのみで、特に後者で同様の効果がでることを期待しますが、残念ながらエビデンスは・・ということです。

また、現状でも腸内細菌の代表である大腸菌は、キノロン耐性が3割(ESBLではほとんど)となってしまっていることも、今後問題になるところかと思います。

 

しかしながら、最初にも書きましたようにガイドライン的にも非常に重要な論文だと思います。ありがとうございました。

 

 

■福島啓太郎先生コメント■

 

ご報告ありがとうございます。

昨日開催のJCCGのAML委員会の討議でもこの論文のことが言及されました。

AML、再発ALL、SCTなどでは治療後の菌血症は治療関連死亡になり得る重篤な治療合併症です。

わが国の小児において、予防的抗菌薬の投与をどうするかは重要な課題だと思います。

 

今後、「JCCG臨床研究における支持療法の手引き(仮)」や小児血液・がん学会の次期診療ガイドラインなどの作成にあたって、

重要な参考文献になると思います。ありがとうございました。

 

■小川千登世先生コメント■

 

うしろに学問的なレスが続いているところを途中のメールへのあまり学問的でないレスで恐縮ですが、

保険適応の問題点と対応につき、よい機会なので情報提供です。

 

適応がないからガイドラインに乗せられない ⇔ ガイドラインに記載されれば適応追加になる

 

この両者は常に、にわとりと卵のような関係にあり、しかもメビウスの輪状態にあります。

公知申請しようとすると未初認薬適応外薬検討会議からは、

公知であることを示せ = 広く日本中で使用されているという実態を調査して出せ

と言われます。

適応外であるので使わないようにしていると、ほら使ってないでしょ、というようなことになり、

まるで適応外使用をたくさんやっておいてね、と言わんばかりの要求に、矛盾を感じてもいます。

 

今回のように、一定のエビデンスが出た場合は、次回ガイドラインに乗せるのはもちろんですが、

会社側にもエビデンスが出たので、公知申請してほしい、と依頼してみるのが一つの方法です。

薬剤によっては会社は費用を掛けたくないので、対応不能と回答されることもありますが、

状況によってはOKが出る場合もあります(再審査期間が切れていない場合ですが)。

難しい場合は使用実態を添えて、未承認薬適応外薬検討会議に開発要望を上げれば、企業向けに開発要請がかかり、

企業から公知申請してもらえるようになります。

支持療法委員会から会社に働きかけ、一気の公知申請、それが無理なら、検討会議に要望をあげる、はいかがでしょう。

 

この手法で、長い年月をかけ、小児血液がん学会保険診療委員会で、

ユーイング肉腫に対し、テモゾロミド(+イリノテカン)が公知申請、7月に薬事承認となりました。

今は臨床研究法がらみで、未承認薬検討会議の動きが加速化していますので、これまでよりは早く進むのではないかと思います。

 

どうやって適応拡大をしたらよいか、と、お問い合わせを受けることが結構あるので、情報提供させていただきました。

 

■福島啓太郎先生コメント■

 

たいへん参考になりました。

コメントありがとうございます。

 

■真部淳先生コメント■

 

これは重要な論文です。

 

また、注目すべきはCOGの研究を、アメリカではなくカナダのトロントのSungが中心となって行なっていることです。おそらく、支持療法委員会のようなところが担当していると思われますが、実際にどのように計画し、提案し、お金を得ているかを調べてみる価値があると思います。JCCGでも参考にすべきです。

 

■富澤大輔先生コメント■

 

COGはアメリカだけではなく北米の臨床研究グループですので、当然カナダも入っており、トロントのSick KidsもCOG施設のひとつです。

 

COGの支持療法委員会は「Cancer Control -Supportive Care (CCL) Committee」といい、現在のChairはChristopher Dvorakといってカリフォルニア大学のBenioff Children’s Hospitalの人で、このJAMA論文の第4著者になっていますね。ちなみに副委員長はAdam Esbenshadeという人で、Lilian Sung(←ちなみに私仲良しです)はAssociate vice chair (PublicationとCareer development担当)ですが、これまでも特に支持療法関連の重要な論文を多数publishしています。なお、COGのCCL委員会には感染症/粘膜障害、神経毒性、栄養/嘔気、症状マネージメントの4つのsub-committeeがあります。

 

CCL委員会のもっとも重要な仕事はCOGの支持療法ガイドラインを作成することにありますが、支持療法関連の臨床試験も多数実施しています。COGの支持療法臨床試験は「ACCLxxxx」という名前がつきますが、このJAMA論文の試験はACCL0934試験という名前がついていますね。これ以外にも、感染症関連だけでも、移植患者を対象とした抗真菌剤のRCT(ACCL1131: Caspo vs azole)、AMLに対する抗真菌剤のRCT (ACCL0933: Caspo vs Fluco)などが進行中です。FNに対する長期vs短期抗菌薬投与の試験や、移植患者に対するletemovir(最近日本でも発売になったプレバイミスです)の試験などが今後計画されているようです。

 

お金については、基本的にはNCIなどの公的研究費を獲得したり、北米内の様々な民間基金のfundingを主なリソースとしているようですが、昔と違って最近のCOGは製薬企業との結びつきも強くなってきていますので、企業との協同試験とかだとそちらからの資金提供もあるのかもしれません。

 

■真部淳先生コメント■

 

やっぱりそうなんですね。

Sungは僕もよく知っていて、前回St. Judeに行った時も支持療法の講演をしていました。もともとScott Howardのグループとも言えます。

そう言えば、ScottはSIOPの副理事長?のようですが、来月の京都のSIOPに来ますね。支持療法の臨床試験の進め方なども議論できるとよいかもしれません。

 

 

■第502回■

 

真部です。今日は珍しくITPを取り上げました。

 

Intravenous immunoglobulin vs observation in childhood immune thrombocytopenia: a  randomized controlled trial.

Heitink-Polle KMJ, et al. Blood 2018;132:883-891

 

担当は卒後1年目の平沼茉純先生です。平沼先生の作ったまとめを添付します。

 

(真部解説)

ITPのIは昔はIdiopathic、今はImmuneの略だそうですが、日常によくみる疾患です。皆さんの印象としては、小児の80%以上は急性である、頭蓋内出血は初発時に多いが、その頻度は極めて小さい、大量γ-globulinはほとんどの患者で一過性ではあっても血小板数を危険でないレベルまで引き上げる、鼻出血などのいわゆるwet purpuraは皮膚の点状出血よりも危険である、ステロイドは不要である、というようなところでしょうか。しかし、ITPの治療方針は意外に定まっていないかもしれません。この論文ではかなり稀な、ITPに対する前向きランダマイゼーション研究が行われました。

対象は血小板数2万以下、重篤な出血のない3ヶ月から16歳の新発症のITPです。オランダの60施設で行われました。登録は2009年から2015年までの6年間です。ランダマイゼーションで半数はガンマグロブリン(IVIg)0.8g/kgの投与を受け、残りの半数は薬剤なしの観察群です。盲検ではありません。また発症時に末梢血を採取し、Fcガンマ受容体遺伝子であるFCGRの各タイプの遺伝子多型をMLPA法(さすがオランダ!)で調べました。エンドポイントは慢性ITP(6ヶ月後に血小板数が15万に達しない)への移行の割合です。各アーム100名ずつの患者が登録されました。

結果は、IVIg群で慢性化したのは18.6%、観察群では28.9%で有意差なし、これを12ヶ月後に血小板数10万をカットオフで慢性ITPと定義する新しい基準でみても、IVIg群で慢性化したのは10%、観察群では12%で有意差はありませんでした。ただし、継時的にみると、発症後1週間後と1ヶ月後の血小板数はIVIg群で有意に高値でした。1週間後の反応性は12ヶ月後の慢性化と相関しました。ただし、1週間後に血小板数10万以上になったのはIVIg群で68%でしたが、観察群でも23%ありました。FCGR2Bの遺伝子多型(232II、232IT、232TT、なぜかアミノ酸で表示)でみると、IVIg群で3例いたTTタイプは全例で1週間後の反応が不良、一方、観察群では反応良好例17例全例がIIタイプでした。なお、年少児、診断までの症状持続が短い、診断時に粘膜出血有り、診断時のリンパ球数が多い例では12ヶ月後の慢性化率が低かったです。

有害事象ではIVIg群では5例にIVIgによる吐き気/頭痛やアレルギーがあり、観察群では1例で診断後16日に頭蓋内出血がありましたが、その例はIVIg/ステロイド/血小板輸血が行われれて回復しました。観察群全体では15%で出血症状の悪化が認められました。

興味深い結果ですが、大体、皆さんの思っていたような結果が得られたと言えるのではないでしょうか。ここから導き出される結論があるのかどうか。転倒しやすい年少児と月経過多の思春期女子はIVIgを行ってよいと考えられます。観察群の15%で出血の悪化があったこと、しかし頭蓋内出血は1例しかなかったこと、慢性化率は介入の有無で変わらなかったことなどは、今後、患者と家族への説明に使えそうです。遺伝子多型も興味深いです。国内例ではどうなのか。

とはいえ、この研究は6年もかかっています。おそらくモチベーションが上がらず、患者登録が不良だったのだろうと思います。日本を含めて今後、同種の研究ができるかどうか、考えさせられました。その意味ではこのオランダの研究の意義は大きいと思われます。

 

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■第501回■「MPAL徹底解析」

 

長谷川です。よせばいいのにまたもNatureです。

担当は内科系研修医1年目の野林 大幹 (のばやし ひろき)先生でした。

 

The genetic basis and cell of origin of mixed phenotype acute leukaemia.

Alexander TB, Gu Z, Iacobucci I, Dickerson K, Choi JK, Xu B, Payne-Turner D, Yoshihara H, Loh ML, Horan J, Buldini B, Basso G, Elitzur S, de Haas V, Zwaan CM, Yeoh A, Reinhardt D, Tomizawa D, Kiyokawa N, Lammens T, De Moerloose B, Catchpoole D, Hori H, Moorman A, Moore AS, Hrusak O, Meshinchi S, Orgel E, Devidas M, Borowitz M, Wood B, Heerema NA, Carrol A, Yang YL, Smith MA, Davidsen TM, Hermida LC, Gesuwan P, Marra MA, Ma Y, Mungall AJ, Moore RA, Jones SJM, Valentine M, Janke LJ, Rubnitz JE, Pui CH, Ding L, Liu Y, Zhang J, Nichols KE, Downing JR, Cao X, Shi L, Pounds S, Newman S, Pei D, Guidry Auvil JM, Gerhard DS, Hunger SP, Inaba H, Mullighan CG.

Nature. 2018 Sep 12.

 

相も変わらず共著者が多くて目がチカチカしますが、イラリアさんやカーステンさんなどのマリガンガールズ(&吉原先生!)に混じって、富澤先生、清河先生、三重大の堀先生など我々と馴染み深いお名前が並んでいます。

責任著者はマリガンと稲葉先生が務めておられます。

 

今回のお題のmixed phenotype acute leukemia (MPAL)はWHO分類で「分化系統不明瞭な急性白血病(acute leukemias of ambiguous lineage; ALAL)」に含まれ、ALL的性質とAML的性質をあわせ持つまれな急性白血病です。

まれとは言っても小児白血病の2-3%とのことですから、診断のみならず治療方針の決定に難渋された経験をもつ先生も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

 

そのMPAL検体を世界中から集めて解析し倒した論文です。

115例をWHO分類に当てはめると、T+Myeloid (T/M) 49例、B+Myeloid (B/M) 35例、KMT2A再構成 16例、BCR-ABL陽性 2例、その他 8例、急性分類不能型白血病 (AUL) 5例という内訳でした。

 

MPAL全体では転写調節因子やシグナリング経路の遺伝子異常が多く、T/MではWT1、ETV6、CEBPA、RUNX1、FLT3などの、B/MではETV6、VPREB、NRASなどの異常を高頻度に認めたのに対して、KMT2A再構成例では変異遺伝子の数は少なかったとのこと。KMT2A再構成陽性乳児 ALLでも同様の結果でしたね。

 

上で述べたようなT/M MPALの変異プロファイルはT-ALLよりもETP-ALLに近く、発現プロファイルも同様であることから、T/M MPALとETP-ALLは表面マーカーのパターンこそ多少違うものの類似した病型と考えられました。

RNA seqをうけたT/M MPAL 40例中15例で何らかの融合遺伝子が検出され、ETV6を含むものが多い印象です。

 

一方、B/M MPALの約半数でZNF384再構成を認めました。

ZNF384再構成B-ALLはCD10発現低下と骨髄系抗原の発現が特徴的とされます。

ZNF384についての詳細な解析は本論文の共著者である清河先生たちが精力的に行ってきました (Gocho Y. Leukemia 2015, Hirabayashi S. Haematologica 2017)が、これらは引用されていないあたりにマリガンの性根が伺い知れます。

それはさておき、ZNF384キメラ遺伝子は免疫系分化や転写調節に重要な遺伝子のプロモーター領域との結合が増加し、転写調節障害を来すことが病態のようです。

ZNF384再構成陽性のB-ALLとMPALはゲノムランドスケープや発現プロファイルが似通っており、ZNF384再構成陽性白血病はさまざまな表面マーカー所見をとる一病型であると考えられます。

その他のB/M MPALにはPh-likeやhyperdiploidなどがいたようです。

 

ここまででも十分興味深いのですが、ここからさらに気合の入った解析が行われます。

MPAL症例内でみられる多様なマーカー所見が、単に遺伝子異常の組み合わせによるのか、または遺伝子異常によって造血前駆細胞の血球系統分化に異常が生じることによるのか、多面的に検討されています。

 

まず複数のサブポピュレーションが存在する症例(例えばCD3陽性集団とMPO陽性集団など。このような症例をbilinealと呼びます ⇔ 1つの白血病細胞が複数の系統の抗原を共発現しているものはbiphenotypic)のそれぞれの分画をソートして変異を調べたところ、マーカー所見が異なっていても遺伝子変異の内容はほとんど同じでした。

 

次いで、ソートしたMPALのサブポピュレーション細胞をNSGマウスに移植すると、移植した分画の細胞のみならず、もともとのMPALでみられた多様なマーカー所見が再現されました。

マウスに連続移植を行った際には、T/MからB/Mへの表現型シフトも観察されました。

 

これらのサブポピュレーション解析およびマウスへの移植実験から、MPALでは各サブポピュレーション細胞が多系統に分化するポテンシャルを秘めていることが推測され、造血前駆細胞レベルで獲得した遺伝子異常により多様なマーカー所見(≒血球系統分化の異常)が生じているものと考えられます。

実際にMPAL症例から造血幹細胞/前駆細胞をソートして調べると、遺伝子変異は造血幹細胞〜多能性造血前駆細胞レベルから認められました。

診断時-再発時のペア解析では変異プロファイルが変化してもマーカー所見が変わらない症例が多く、白血病発生早期に造血幹細胞/前駆細胞レベルで生じたファーストヒットの重要性が示唆されます。

 

今回の結果をうけ、著者らはMPALをZNF384関連、Ph-like関連、WT1変異関連T/M(ETPと同様のものを指すものと思われます)など遺伝子解析結果をもとに細分類することを提案しています。

治療に関してはゲノムランドスケープがALLに近いB/M MPAL もETPに近い性質を有するT/M MPALもまずはALL型治療が推奨されています。

今後はFLT3やキナーゼ、シグナル経路を標的とした治療も組み込まれていくのでしょうね。

 

以上、まとめますと、

T/M MPAL ≒ ETP-ALL

B/M MPALの半数はZNF384

病態は造血幹細胞〜多能性造血前駆細胞レベルで転写調節因子の遺伝子変異が生じたために血球系統分化に異常を来して多様な免疫表現型を呈する

ということでした。

 

■第499回■「髄芽腫のgermline」

 

真部です。

記念すべき第500回!に1回足らない第499回をお送りします。

 

今回は思い切って脳腫瘍に切り込みました。小児の脳腫瘍といえば髄芽腫ですが、その髄芽腫のgermlineを調べた論文です。

 

Waszak SM, et al. Spectrum  and prevalence of genetic predisposition in medulloblastoma: a retrospective genetic study and prospective validation in a clinical cohort.

Lancet Oncol 2018;19:785-798 

 

担当は卒後4年目の源川結先生です。都立墨東病院から勉強に来られています。源川先生の作った完璧なまとめを添付します(ファイルが巨大なので一部省略)。

 

(真部解説)

 

髄芽腫は小児で最も多い脳腫瘍ですが、近年、分子遺伝学的な診断が普及し、臨床的に有用な4つの亜群に分けられています。すなわち、WNT、SHH、Group 3、とGroup 4です。それぞれの特徴は源川先生の3枚目のスライドをご覧ください。さて、スライド4にあるように古くからWNTシグナルの下流にあるAPCに異常を有するTurcot症候群(大腸腺腫性ポリポーシスに髄芽腫を合併)、SHH (sonic hedgehog)の受容体であるPTCH1に異常を有するGorlin症候群(大頭症などの奇形と髄芽腫の合併)、Li Fraumeni症候群(TP53異常を有する代表的な家族性がん、SHHの髄芽腫を発症することあり)が知られていますが、今回はこれらを網羅的に調べ、今後の遺伝カウンセリングに繋げようという研究です。

 

対象はドイツとカナダとアメリカの髄芽腫患者で、後方視的(n=673)と前方視的(n=349)と合わせて 1022という膨大な数の患者を解析しました。上記の4つのタイプはメチレーションで決定しました。Whole exome解析などにより、110のcancer predisposition遺伝子を解析しましたが、そのほかChromothripsisなども調べました。

 

結果は後方視的コホートで6%、前方視的コホートの5%の患者にgermline変化があり、髄芽腫と関連する遺伝子が6つ同定されました。すなわち、APC、BRCA2、PALB2、PTCH1、SUFU、TP53です。以下、これらの遺伝子変化の詳細が延々と述べられます。すなわち、亜群によってこれらの遺伝子の変化は異なり、また予後にも大きな差がみられました。詳細は源川先生のまとめをご覧いただきたいのですが、簡単に述べると、APCの変化は7人にみられ、WNTに多く、予後は良好。なお、WNTでAPC変化のなかった患者はほとんどがβ-カテニン(CTNNB1)の変化を有していました。TP53の変化は14人にみられ、全例SHHであり、家族歴があったのは5人で予後はきわめて不良でした。WGSを行われた8人全員でchromothripsisがみられました。TP53、やはり恐るべしですね。SUFU とPTCH1は共にSHHのシグナル伝達に関連しますが、これらの遺伝子の変化は20人でみられ、SHHでみられました。予後は比較的良好でした。BRCA2は11人でみられ、多くがGroup 3かGroup 4でした。4人はcompound heterozygosity(ヘテロ複合体)でした。片アリル変化の患者の生存率は100%であり、一方で、ヘテロ複合体の患者の予後は不良でした。BRCA2とFANCD1は同じ遺伝子ですので、前者はHBO、後者はFanconi貧血と考えられます。PALB2はPartner and localizer of BRCA2の略です。PALB2の変化は5人で、SHHとGroup 3とGroup 4でみられました。5人とも片アリル変化で予後は良好でした。PALB2もまたFANCNとして知られていますが、今回はFanconi貧血患者はいませんでした。最後に、体細胞変異のパターンを調べたところ、BRCA2とPALB2の変異を持つ腫瘍はHRD (homologous recombination repair deficiency)のシグナチャーを呈していました。これらの患者にはPARP阻害剤が効果を有する可能性があります。

 

ここからカウンセリングについての提言がなされています(Figure 5)。WNTの97%はCTNNB1変化である。CTNNB1が陰性のときにはAPCを調べる。SHHではAPCを除く5つの遺伝子の変化がみられる。3歳以下ではSUFUとPTCH1、3歳以上ではTP53を調べる。それらが陰性だった場合にはPALB2とBRCA2 を調べる。Group 3とGroup 4ではBRCA2が関連するがんの家族歴(卵巣がんと乳がんでしょうね)があるか、HRD が疑われる場合にPALB2とBRCA2 を調べる。

 

以上ですが、恐るべき論文と言えます。St. JudeのZhangらの論文(Zhang J. N Engl J Med 2015;373:2336-2346)ではCNS腫瘍の8%に家族性腫瘍関連の遺伝子変異があるということでしたが、1000例以上の髄芽腫を調べたら5−6%程度でそのような変化がみつかり、様々な意義を見出したということです。逆にいうと、90%以上は陰性だったということですが、それを安心するととるか、さらにまだまだgermlineの変化が隠れているととるのか。いずれにせよ、脳腫瘍も白血病も遺伝性素因はかなり似ているのは驚きでした。

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■第498回■「iPS細胞由来の血小板製造」

 

平林です。取り上げました論文は

 

Turbulence Activates Platelet Biogenesis to Enable Clinical Scale Ex Vivo Production. Cell. 2018 Jul 26;174(3):636-648.

 

です。京都大学、江藤浩之教授らの論文です。研修医1年目の田中淳仁先生と読みました。2010年頃だっと思いますが、iPS細胞由来の血小板についてASHの plenary sessionで日本人研究者が発表していたのを印象的に覚えています。その後、京都でメガカリオンという会社が設立されて実用化に向けた研究がなされていました。私は、再生不良性貧血の患者さんからしばしば質問を受け、会社のホームページをチェックしていました。ついに血小板の大量生産技術が確立され、この論文として発表されました。先日の8月20日には治験開始予定との報道が新聞やテレビでなされたばかりです。

 まず前提として1回の輸血に必要な血小板数は2000~3000億個となります。実際に日赤の血小板製剤10単位には2000億個以上含まれています。なお血小板の正常値は20万/μLとすると、血液1mlには2億個、血液400mlには800億個ある計算になりますね。

 京大の先生方は2010年に皮膚細胞由来のiPS細胞から培養皿で10億個の血小板の作製を発表、その段階では輸血に必要な血小板を得るまでに25日間かかる計算でした。2014年に自己複製し不死化した巨核球を開発、理論上では5日間まで短縮できることになりました。しかし、実際には巨大な培養皿を用いて単純にスケールアップすることは不可能でした。

 まず、これまでiPS細胞など幹細胞を培養するに、feeder細胞といって増殖や分化を起こさせようとする目的の細胞の培養条件を整えるために用いる、補助役を果たす他の細胞を用いた共培養が必要となっていました。これではコストがかかり、大量生産にはやはり浮遊培養が必須です。まず著者らはフィーダー細胞を用いずに培養するシステムを開発していました。その過程において静置された培養皿よりもフラスコ内での血小板産生量が多いことに気づいたのでした。

 物理的な動的な因子が血小板産生に関わると考え、培養環境における物理速度、せん断応力、渦度、せん断ひずみ速度、乱流エネルギーなどのパラメータを測定し工夫しました。しかし、直接的に生体内での血小板産生の条件を観察することが一番と考え、2光子顕微鏡と粒子画像流速測定法を用いてマウスの生体内観察を行いました。そうすると骨髄の血流中で乱流が発生するときに巨核球から血小板が生成されることが分かったのです。

 そこで乱流を発生させることができる縦型培養装置を開発しました(スライド参照)。条件を検討し、乱流エネルギー、せん断応力の物理パラメータの最適化がカギであることを見出しました。8リットルの容器でついに1000億個の血小板を産生できることが可能となりました。

 実際に出来上がったiPS由来の血小板がきちんと機能するかを検証する実験です。献血由来の血小板と凝集能に差はなく、マウス、ウサギの出血モデルでもきちんと止血能を有する結果が得られました。

 最後になぜ乱流では巨核球からの血小板産生が高まるのかを調べるため、培養皿と縦型培養装置それぞれのサイトカインや酵素タンパクを検討しました。乱流によって巨核球から多く放出される6つの可溶性因子を絞り込み、その中でIGFBP2、MIF、NRDCという3つが特に重要であることを突き止めました。IGFBP2とMIFについては巨核球の接着に関して働き、巨核球から偽足が伸びていく形態をとるのに働くと考えられます。またNRDCはHDAC6と共同してやはり偽足を伸ばし、血小板がちぎれていくのに働くと考えられました。

 以上、基礎研究から大量生産技術が発展し、工業化となる過程を見させて頂きました。簡単にしか解説することが出来ておりませんので、ぜひ原著をご覧ください。日本発の将来の医療を変える画期的な研究を目の当たりにでき感動します。有難うございました。

 

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■第497回■「RARB再構成APL」

 

毎度おなじみ抄読会報告です。

今回はTCCSGの仲間うちから発表された素晴らしい論文をとり上げました。

担当は初期研修1年目の吉川宏先生です。

がんばってまとめてくれたのですが、なんと抄読会当日は発熱のためお休みしてしまい、私が緊張のなか久しぶりに発表を行いました。

 

Osumi T, Tsujimoto SI, Tamura M, Uchiyama M, Nakabayashi K, Okamura K, Yoshida M, Tomizawa D, Watanabe A, Takahashi H, Hori T, Yamamoto S, Hamamoto K, Migita M, Ogata-Kawata H, Uchiyama T, Kizawa H, Ueno-Yokohata H, Shirai R, Seki M, Ohki K, Takita J, Inukai T, Ogawa S, Kitamura T, Matsumoto K, Hata K, Kiyokawa N, Goyama S, Kato M.

Recurrent RARB Translocations in Acute Promyelocytic Leukemia Lacking RARA Translocation.

Cancer Res. 2018 Aug 15;78(16):4452-4458.

 

すでに昨年のASHや今年のI-BFMなどでも発表され、内容をご存知の先生も多いのではないかと思いますが、PML-RARA陰性APLの新規分子異常について機能解析を積み重ねて証明を試みた力作です。

 

APLの95-98%はPML-RARAを有しており、遺伝子に肩入れしているWHO分類ではAPL with PML-RARAという用語が採用されています。

残りの2-5%はPLZF-RARAなどPML以外の融合遺伝子を有しており、最近ではPML-RARGなどのRARG再構成も報告されております(このあたりは以下の総説もご参照下さい;麻生範雄. 臨床血液 59(2018):6:725-734)。

さらには、ごく一部にRARA再構成もRARG再構成も検出されない症例がいることもわかっております。

 

本論文は形態学的(ファゴットが目立たなかったようですが)にも免疫表現型的にもAPLに合致する症例に対してATRAを用いたものの反応が得られず、PML-RARAも検出されなかったことに端を発しています。この症例の全ゲノム解析から新規融合遺伝子であるTBL1XR1-RARBが発見されました。

RARBはレチノイン酸受容体β鎖です(ちなみにRARAはα鎖、RARGはγ鎖)。

一方のTBL1XR1という長くて覚えにくい分子はレチノイン酸経路を調節する分子の1つと考えられているようで、RARAのフュージョンパートナーとしても報告されています。

同様のRARA再構成陰性APLを4例集めて解析したところ、2例にTBL1XR1-RARB融合遺伝子を、1例にパートナー不明のRARB転座を認めました。

残りの1例はRARAもRARBもRARGも再構成が証明できませんでした。

 

私のような凡人はRARA陰性APLの5例中4例にRARB再構成が認められただけで小躍りして論文にしようと舞い上がってしまいそうですが、本論文では前述の通りTBL1XR1-RARBの機能解析が行われています。

 

かいつまんで申し上げますと、TBL1XR1-RARBはホモダイマーを形成し、RARBのもつレチノイン酸依存の転写活性をドミナントネガティブに抑制することによって骨髄単球系細胞の分化を阻害します。これはPML-RARAの分化阻害機序と同様ですが、PML-RARAではATRAによりホモダイマー化の抑制や細胞分化の回復がみられるのに対して、TBL1XR1-RARBではATRAに対する反応は不十分でした。

さらにTBL1XR1-RARBを導入したマウス骨髄細胞を用いてコロニー解析を行い、自己複製能も確認されました。

コロニー形成細胞の形態や免疫表現型はPML-RARA導入細胞のコロニーと同様でした。

 

というわけでRARAおよびRARG再構成に続き、RARB再構成が細胞分化停止+自己複製能亢進を介してAPLの発生に関与していることが示されました。

PML-RARA以外のAPLではATOが効かず、また一部ではATRAも無効であることが報告されています。RARB再構成APLもおそらくATRA/ATO不応であるため、今後新たな治療戦略の開発が必要と考えられます。

また、WHO分類を始めとした「APL =PML-RARA異常」という定義を「APL = レチノイン酸受容体経路異常」と改めるべきなのかもしれません。

そのためにも本論文の1例のような何も分子異常が見つからない症例の解析がますます重要となりそうですね。

 

さて、今回は私が適当なことを書き連ねるよりは著者の先生方に思いのたけを書いてもらったほうがよいかと思い、短めの解説にしてみました。

大隅先生、加藤先生、辻本先生。あとはよろしくお願いいたします。

 

■大隅先生コメント■

 

抄読会にわたくしどもの論文を取り上げていただき、ありがとうございます。

Scientificなお話は、記載していただいた解説で必要十分と感じましたので、この論文が形になるまでの“ものがたり”をさせていただければと思います。非常に私的かつ感傷的な内容ですので、お忙しい方は一笑に付してゴミ箱に入れていただいてかまわない内容であることを最初にお断りします。

 

本研究はいわば成育清河研 加藤分室のひとつめの集大成、と言える仕事といえます。加藤分室は2015年、成育に黒船のようにやってきた加藤元博先生の一言から始まります。

「大隅せんせ、研究しようよ」

当時の私は富澤先生、清河先生、大木先生と定期的にBedside-to-Bench meetingを開き、次から次へとやってくる症例の検体をなんとか保存することは続けていたものの、不思議な症例、面白そうな症例の数々が目の前を過ぎていく状況でした。基本純粋な臨床医である私に加藤先生の言葉は魅力的で、富澤先生のご理解もあり週1回の研究日をもらうことを決断しました。当時の私はピペットマンを握るのも7年ぶりくらい、PCRってどんな原理だっけ、というレベルでした。でも私の頭の中には、たくさんの気になる患者さん情報とそれらの検体のありか、がありました。

その中でも、特別気になる患者さんが二人いて一人はT細胞性のPh陽性ALL(minor/major BCR-ABL PCR陰性、FISH陽性)、もう一人がAPLなのにRARA陰性、この論文のこどもでした。

 

今回、全く関係ないのですが流れ上、前者のお話もさせていただきます。その患者さんは忘れられない経過を辿ったこともあり、私の心に大きな疑問として残っていました。最初にその疑問を解決したいと加藤先生に相談しました。

清河先生のご支援と大木先生の丁寧なご指導のおかげもあり、今週はDNAを抽出してみよう、house-keeping geneのPCRをかけてみよう、から始まり、RNAをとってみよう、RT-PCRをやってみよう。。。所詮週1回の半日です。できることは限られていました。それでもいよいよPh+T-ALLの患者さんの謎が解決する日が来たのです。様々なBCR-ABLを検出するmulti-primerを立てた実験で(テンプレートのRNAは筑波大学の福島敬先生から返却していただきました、ありがとうございます)、その患者さんが”nano”-BCR-ABLという非常に稀なPhであったことが判明したのです。当時の電気泳動写真は今もパウチして私のデスクに貼ってありますが、その感動は今でも忘れられません。

とても小さな発見ですが、私にはずっと気になっていたことを解決できた、という大きな喜びでした。

 

本題であるもう一人のAPLの症例に対しては、主治医として一緒に治療に当たっていた富澤先生も非常に興味を持たれていて、APLの専門家である東邦の高橋浩之先生に臨床上の相談をして、ほかにも似たような症例はいるようだ、加藤先生がきたら真っ先に相談してみようと話していたところでした。その症例に対する加藤先生のアプローチも少なくとも私には衝撃でした。一言「全ゲノム読みに行く」と言ったのです。もしかしたらRNAシークエンスでも我々の見つけたキメラは見つかることができたかもしれません。しかし大事なことは、加藤先生は「この症例には必ずRARA以外のレチノイン酸関連のキメラがあるはずだ」「最短距離で突っ込む価値がある」「金より時間」と当初から言っていました。本当か?と思われるかもしれませんが、加藤先生はその症例のことを話した直後から上記仮説を喋り出したのです。私のこころのなかでは「ほんとうか?」と思っていたことを白状します。しかしその仮説が証明される日がきたのです。数か月して成育のbioinformaticianの岡村先生からRARBとTBLXR1のキメラの可能性があるという連絡が来ました。この日のこのメールを開いた瞬間のことも忘れられません。RARAではなくRARB、そしてRARAのパートナーとして報告のあるTBL1XR1との融合であり、本物だ、という感覚でした。そのうえ驚くべきことに、高橋先生と富澤先生のお力添えにより全国の施設からいただいたRARA転座陰性APLでもほかに3例RARBのキメラ陽性例(うち2例でTBL1XR1-RARB)がみつかったのです。

 

それからは、加藤先生とふたりだったときには亀のようなスピードだった研究を、車のようなスピードにかえて強力にひっぱってくれた内山芽里先生、失敗してもめげずに結果が出るまでやりきってくれた辻本信一先生、二人の力とそして医科研の合山進先生との共同研究により、研究は着実に進んでいきました。新規キメラがPML-RARAと同様にleukemia発症に関与することが明らかとなっていったわけですが、私はそのドラマチックな展開を横で指をくわえて眺めていればよかった、と言えます。

 

世に出るまでにも、いろいろなことがありました。本研究の晴れの舞台だったASH2017に加藤先生とふたり意気揚々と向かい、大雪の影響でシカゴに足止めされ、発表に間に合わず富澤先生に話してもらった件、NEJMでもしかしたら!?のような妄想が膨らんだ件、いろいろなことを経て、今回ありがたくCancer researchにacceptされるに至りました。

おそらくこの”ものがたり”は、症例に恵まれ、タイミングとひとに恵まれた、私の人生最大のビギナーズラックと思います。どう考えても出来過ぎな話です。

ただ、小児がんに関わる若い先生がたにとって、いくつかのTake home messageがあると思っています。

 

- 思い出に残る症例、とくに変わっているなと思った症例(outlier)のことをたいせつにしましょう

- いそがしい初発こそ、検体保存をしておきましょう

- 仮説をもって、それを証明する方法を知っているかもしれないひとに相談しましょう

 

そんなことに気をつけていると、エキサイティングな発見に関わる経験ができるかもしれません。

つまらないはなしを長々としてしまいました。お恥ずかしい限りですが、せっかくなので送らせていただきます。

最後に、お名前を挙げられなかった本研究に関わってくださった全ての方々に深く感謝申し上げます。

今後ともよろしくお願い致します。

 

国立成育医療研究センター小児がんセンター/小児血液・腫瘍研究部

大隅朋生

 

 

■長谷川先生コメント■

 

大隅先生

お返事が遅くなり大変申し訳ありません。

 

本論文が世に出るまでについての詳細なコメントを下さいまして有難うございます。

まさにプロジェクトXというか世田谷ロケットというか、ふだんクールな先生の熱い一面も含めて大変興味深く拝読いたしました。

 

ヘマトロジカ誌にmolecular variant APLのケースシリーズが掲載されていました。

このシリーズでもPML-RARA陰性APLはたったの1.2%だったようで、RARB症例を小児で3例も同定したのは改めてすごいことだと感じます。

予想通り多くはATRA/ATO耐性で寛解率 53%、OS 26.7%と予後不良で、移植でレスキューされそうだと論じられてはいますが、やはり新規の標的治療が待たれますね。

http://www.haematologica.org/content/early/2018/09/17/haematol.2018.205369.full.pdf+html

 

上記論文にはASHのabstractが引用されていました。

世界でも注目論文ですね。

 

ついでですが、RARBのパートナーとして同定されたTBL1XR1は、名古屋大の村上先生が発表したALK/ROS再構成JMMLでROS1とfusionを作っていたみたいですね。

https://www.med.nagoya-u.ac.jp/medical_J/research/pdf/Blood_20180205.pdf

 

APLとJMML。

あまり接点なさそうですが、興味深いです。

 

■第495回■「IKZF1はdominant negativeに働いて免疫不全を生じる」

 

真部です。今回はまたIKAROSを取り上げました。といっても、免疫不全です。

担当はジュニアレジデント1年目の別役翼先生です。別役先生の作ったまとめを添付します。

 

Boutboul D. et al. Dominant-negative IKZF1 mutations cause a T, B,  and myeloid cell combined immunodeficiency. J Clin Invest 2018;128:3071-3087.   

 

(真部解説)

IKAROSについては、今年何度も取り上げており、またか、と思われるかもしれませんが、これはIKAROS集大成とも言えるペーパーでした。

まずは、以下に第483回のまとめを再掲します。

IKZF1についてはみなさんも耳タコでしょうね。第481回(第477回)抄読会でもIKZF1plus ALLは予後が悪いというBFMの論文が取り上げられていました。

IKZF1はリンパ系の分化に関わる転写因子であるIKAROSをコードします。今までの知見としては、

1)IKZF1のsomatic mutation (deletion)を有するALLは予後が悪い。Ph+ALLの80%以上でIKZFのsomaticな変異がみられる。

2)ALLのsusceptibilityを調べるとARID5BなどとともにIKZF1のSNPはALLの発症と関連がある。KevinらのTCCSGの研究でも示されました(第473回抄読会)。

3)原発性免疫不全(PID)の中のCommon variable immunodeficiency (CVID)でIKZF1の変異を有する患者が報告され始めた。昔St. JudeにいたConleyのNEJMの2016年の論文は第388回抄読会で取り上げました。その中に2例、ALLになった症例がいました。ついで2017年に東京医科歯科大の金兼弘和先生のグループがIKZF1のgermline変異がさまざまな免疫異常(B細胞の欠損から膠原病まで)をきたすことを報告しました(Hoshino A. J Allergy Clin Immunol 2017;140:223-231)。

以上より、IKZF1がからんだ家族性ALLがいてもおかしくない、とはみんなが思っていたことです。

 

さて、この第483回のまとめに対して東京医科歯科大の金兼弘和先生が新たによりIKZF1がdominant negativeに働く免疫不全を記載した論文が近いうちに出ると紹介されましたが、それが今回のJCIの論文です。

詳細は別役先生のまとめをお読みいただければわかると思います。これはパリとNIHと東京医科歯科大(金兼弘和先生、星野顕宏先生)、名古屋グループ(吉田奈央先生、小島勢二先生)による仕事です。もともと吉田先生がIKZF1変異のあるT-ALLを報告していました(Yoshida N. Leukemia 2017;31:1221-1223, letter)。その患者さんは原発性免疫不全(PID)もあったのです。先見の明あり。今回は7例のPID患者が報告されていますが、そのうち6例目のF1がその吉田先生の症例と思われます。いずれもニューモシスティス肺炎にかかるなど、重い免疫不全を呈しました。7例中6例はc.476A>G(p.N159S)、1例はc.476A>C(p.N159T)を示しました。最後の1例は免疫不全の程度が相対的に軽かったようです。好中球減少、好酸球減少、単球減少、T細胞減少、NK細胞減少、B細胞減少、DC減少などが症例によって異なりますが、様々にみられました。全例が孤発例でした。ただし、診断年齢は様々で、1歳から26歳まで!以下、延々と解析結果が示されますが、それは別役先生のまとめをご覧ください。免疫不全を起こすメカニズムはdominant negativeによるloss of functionでした。IKZF1のdimerがうまく作れなくなってDNA結合に問題が起こります。

DiscussionではT-ALLになりやすいことが何度も述べられていますが、7例中わずか1例の話であり強調しすぎかもしれません。なお、もう一方のCVIDはhaploinsufficiencyであり、BCP-ALLが2例起こったことが報告されていました。

以上、かなり力の入った論文でしたが、卒後1年目の別役先生はこれを楽々と読み込んで来たので不思議だと思ったら、なんと、彼は医学部に行く前に京大であのDC研究で有名な稲葉カヨ先生の教室に属していたとのこと。参りました(早く言って欲しかったです)。ともあれ、別役先生のおかげでこの長い論文を読み切れたのはラッキーです。なお、この論文には重大な欠点があり、文献番号が無茶苦茶です。直そうとしたのですが、あまりに無茶苦茶なので諦めました。共著者の金兼先生か吉田先生、正しい順番を教えてください。まずもって、先生たちの論文の番号が間違ってますよ!

 

#495抄読会スライド.pdf
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■金兼先生からのコメント■

真部先生へ

早々に論文を取り上げていただきありがとうございます。

もともとこのプロジェクトの始まりはSylvainら(XIAP欠損症の発見者)のグループがIKZF1のN159変異の2例でPCP肺炎を伴う複合免疫不全症を呈すると2年前のESIDでポスター発表していたことにはじまります。

その学会(会期中にacceptの連絡あり)で星野先生が昨年JACIに掲載された日本のコホートを報告しました。

私たちは9例の患者を報告していますが、実はその1例(患者B.1)がPCP肺炎の既往があり、一緒に低ガンマグロブリン血症ということで論文でまとめて報告したものの、何か違和感を持っていました。

彼らの2例の報告を見て、自分たちのB.1と臨床症状がよく似ていて、変異をみると同じN159変異でした。

以前からの知り合いでしたので、その場で共同研究の提案がありました。

最初はパリと私たちだけで始めていたのですが、その後名古屋大学の症例の発表があったので、データが加えられ、最後にNIHのグループ(IKAROS欠損症をNEJMに報告)が加わった次第です。NIHのコホートが大きかったので、Sylvainはcorresponding authorではありますが、last authorを譲ったのだと思います。それでもDavidは1st authorに残してもらってよかったです。ちなみに2nd authorのHye Sue Kuehnはlast authoreのSergio Rozenzweigの秘蔵っ子でCTLA4ハプロ不全などを報告しています。

文献については申し訳ございません。reviseの段階で入れ替えてずれてしまったのではないかと思います。

Sylvainとの縁もあって現在星野先生はパリに留学中です。

IKZF1についてはまだまだ話が続いていくようです。1-2年後を楽しみにしていてください。

 

■真部先生コメント■

 

臨場感のあるコメントです。

ありがとうございます。

先生方、素晴らしいです。

 

■第494回■ 「Dasatinibを加えたPh+ALL治療」

 

平林です。取り上げました論文は

 

Slayton WB, et al.

Dasatinib Plus Intensive Chemotherapy in Children, Adolescents, and Young Adults With Philadelphia Chromosome-Positive Acute Lymphoblastic Leukemia: Results of Children's Oncology Group Trial AALL0622.

J Clin Oncol. 2018 May 2

 

です。初期研修2年目の中谷諒先生と読みました。

ご存知の通りPh+ALLは小児では珍しいですが、予後不良でありました。TKIの登場で移植せずとも治すことが可能となってきております。JPLSGではImatinib併用化学療法の臨床研究が終わったところですが、第2世代TKIであるDasatinib併用の結果が気になる所でありますが、結果が発表されました。

COGのAALL0622研究、別名というか本名はブリストル·マイヤーズ スクイブ社の研究CA180-204の結果になります。基礎データでダサチニブはイマチニブに比べ300倍の活性があり、中枢神経移行性もよいとされます。AA0031研究のイマチニブから、今回AA0622研究ではダサチニブに置き換えてみたわけですが、種々の条件は異なります。研究の全体像のFigureを少なくともAA0622については載せてほしいところですが本文中にはありません。Day15よりダサチニブの併用を開始し、MRDによって高リスクHRと標準リスクSRに分けられます。HRとSRのHLA一致同胞がいる場合は移植、それ以外のSRは120週までダサチニブ併用化学療法を行います。ダサチニブは(60mg/m2)、コホート1は寛解導入のDay15からと各ブロック強化療法で2週間ずつ投与され、安全性に問題なければ、コホート2は連続投与になる手順です。あとはIKZF1欠失の有無も調べられています。

 2008年から2012年まで47施設から63例が参加。3例が除外。60例のうち34例がDasa併用化学療法を完遂、19例が移植、7例が合併症などで脱落しています。60例のうちDasa間欠投与であるコホート1が39例、連続投与であるコホート2が21例になりました。なお4例がT細胞マーカーを示しました。Dasa併用による有害事象については非常に大事だと思うのですが、なんと全てsupplementです。死亡例はありませんでした。Dasaを寛解導入のDay15から加えることで予想通り寛解導入率は向上し、MRD陽性率は低下しました。全体の5年OSは86%、EFSは60%です。SRは87%、61%、HRは89%、67%でした。実際のSRのEFSのカーブをみると、だらだらと下がってしまいプラトーに達しません。これを見てしまうとちょっと不安でたまりませんね。なお再発後には移植でレスキューされOSは保たれてはいます。そしてAALL0031との比較、すなわちイマチニブとの比較が示されておりますが、有意差がないデータが示されます。両者の条件は全く同一でないはずで、説明不足感があります。またDasa間欠投与とDasa連続投与のそれぞれの結果も示されておらず同様のもどかしさです。AALL0622ではCNS3のみ頭蓋照射の適応となっていますが、頭蓋照射なしの症例でCNS再発は6例(15.4%)とありました。AA0031は全例で頭蓋照射を行い、2例(6.6%)のみのCNS再発でした。単純には比較できないので、Dasaの中枢神経移行性は臨床的に意味があるのかないのかわかりません。IKZF1欠失については、やはりIKZF1欠失ありで有意に予後不良でした。

 Discussionです。EsPhALLなどの比較データが示されていますが、なぜDasaを加えたことで早期治療反応性が良好であったのにEFSが改善されないのかという疑問が提示されています。それにはダサが間欠投与の症例が多いせいと言いつつ、ダサの連続投与の症例が十分得られる前に次期研究のためにこの研究を終了してしまったと嘆いています。結局、イマチニブより良いとは結論できず、少なくとも劣らないという結論になってしまいました。標準リスクでは第1寛解で適応ではないが、IKZF1がある場合は予後不良ということは分かりました。

 

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■第491回■「ALLの遺伝性」

 

真部です。今回はまたGWASを取り上げました。担当は小児科のシニアレジデントで卒後4年目の鈴木悠貴先生です。鈴木先生の作ったまとめを添付します。

 

Vijayakrishnan J. et al. Nat Commun 2018;9:1340    

Genome-wide association study identifies susceptibility loci for B-cell childhood acute lymphoblastic leukemia.

 

(真部解説)

小児ALLになりやすいSNPを探そう、というわけで世界中でGWASが行われ、今までに8つの感受性遺伝子が同定されました。

IKZF1, CDKN2A, PIP4K2A, LHPP, ELK3, GATA3, ARID5B, CEBPEです。このうちさらに、ARID5BはHigh hyperdiploid ALLで意味があり、GATA3はPh-like ALLで意味がありました。

これを受けて日本でもTCCSGがGWASを行い、今年論文が出版された(Urayama K, et al. Sci Rep 2018;8:789)ことはみなさんもよくご存知でしょうし、第473回抄読会でも取り上げました。結果は、ARID5BとPIP4K2Aはそのままの解析で日本人でも意味がありましたが、IKZF1はLD (linkage dysequilibrium:連鎖不均衡)を考慮してalternate SNPを調べたら意味があった。すなわち、LDが民族により異なるため、民族により同じ遺伝子でもSNP部位は異なるので注意が必要、ということでした。

今回は、UKとドイツのすでに出版されているcohortに、新たに行われたUKのcohortを加えてメタ解析が行われました。それぞれのcohortは約800例でしたので、全体で2,442例のBCP-ALL患者と14,609人のコントロールの全6,755,715SNPが解析されました。よく考えると文字通り、膨大なデータです。なお、患者はすべてヨーロッパ人です。

その結果、上記の8つのSNPはすべて再現されました。最もP値の低かったARID5BのP値は実に、1.98x10e-73です!73乗というと、無量大数を超えます。

新たに見つかったSNPは2つあり、8q24.21と2q22.3でした。前者はBCP-ALL全体と関連あり、後者はETV6-RUNX1陽性ALLと関連がありました。また前者はMYCと関連し、後者はGTDC1と関連しそうでした。MYCはみなさんよくご存知、Burkittリンパ腫ほかで有名。GTDC1はMLLの転座パートナーが報告されている、と書かれていましたが証拠は見つかりませんでした。

さまざまなデータベース(lymphoblastid cellとES cell)からこのSNPの影響を調べたところ、クロマチンループに変化が起きそうでした。

このほか、6p21領域を見て疾患特異的なHLAの変化を探りましたが、結果は陰性でした。

既知の9つのSNP(8つの遺伝子ですがCDKN2Aは2箇所のSNPあり)と今回見つかった2つのSNPがALLの遺伝性要因のどれくらいを占めるかをGCTA(genome-wide complex trait analysis)を用いて計算したところ、ALLの遺伝性は0.16でした。またさらに難しい方法で解析したところ(よく理解しておらず、すみません)、これらの11のSNPだけで、全遺伝素因の34%を占めました。なお、今回は患者の予後と関連するSNPは見いだせませんでした。ALLのなりやすさは見つかっても疾患のaggressivenessはわからなかったということです。

きわめて興味深いとも言えますし、結構わけがわからないともいえます。ただ、面白いのは今回の論文の著者です。分子疫学者のみならず、Harrison , Moorman, Vora, Stanulla, Schrappe, Zimmermanら私たちのなじみのIBFMメンバーが入っています。そして筆頭著者はUKのSuttonのInstitute of Cancer Researchの人たちでMel Greaves(UKの免疫学者、小児ALLのetiologyの第一人者)と同じ施設です。誰がGWASをやるのか?長年の疑問が解けてきました。答えは、小児血液腫瘍医も含めてみんなで結果をあれこれ解析する時代が来たようです。

KevinまたはUK留学中の吉田健一先生、コメントよろしく!お元気ですか?

 

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■吉田健一先生コメント■

 

いつもお世話になっております。3月から京大を離れて英国のWellcome Trust Sanger研究所に留学しております吉田健一と申します。Cancer, Ageing and Somatic Mutationという部署におり、もっぱらシーケンスデータの解析をしているのでGWASはあまり専門ではないのですが(St. Judeの森山先生が適任でしょうか…)、気づいた点をコメントさせていただきます。

 

まず、今回の論文は2017年に同じ著者らのpublishした論文(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27694927)の続報にあたるようで、この時はUKとドイツのすでに出版されているcohortのメタアナリシスのみですが、10q26.13 (rs35837782, LHPP) and 12q23.1 (rs4762284, ELK3)を同定して報告していました。今回は追加のGWASを行い、コントロールも増やした結果ということになるようです。

 

同定した新規のうちもっともらしそうなのはMYCに近い8q24.21の方だと思われましたが、調べたところ少し前に同じNature communincationsにCOGなどの症例を解析した別のGWASの論文が出ていて(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29348612)、

最も有意なSNPの場所は少し違いますが、同様にLINC00977の周囲のSNPが検出されていて、同じ結果であるようです(rs28665337も有意であったSNPとしてsupplementary tableには記載されています)。なお、今回の論文でもデータが使用されているGM12878という細胞株のHi-Cのデータで検出されたSNPがMYCが相互作用するゲノム上のブロックにあることを示しています。この論文も合わせて読むとさらに理解が深まるような気がします。

 

人種が異なっていてSNPの分布は違っていても(例えばMYCの周辺のSNPなど)重要なものは再現されてくると考えられますので、アジアや日本の症例でも引き続き症例を増やしてGWASをするのは意味があるのではないかと思いました。

 

■第490回■「小児AMLランドスケープ」

 

 

長谷川です。今回もなんとかタイムラグなくお送りしております。

 

Bolouri H, Farrar JE, Triche T Jr, Ries RE, Lim EL, Alonzo TA, Ma Y, Moore R, Mungall AJ, Marra MA, Zhang J, Ma X, Liu Y, Liu Y, Auvil JMG, Davidsen TM, Gesuwan P, Hermida LC, Salhia B, Capone S, Ramsingh G, Zwaan CM, Noort S, Piccolo SR, Kolb EA, Gamis AS, Smith MA, Gerhard DS, Meshinchi S.

The molecular landscape of pediatric acute myeloid leukemia reveals recurrent structural alterations and age-specific mutational interactions.

Nat Med. 2018 Jan;24(1):103-112.

 

今回のお題は小児AMLの分子的ランドスケープなのです。

いい加減「ランドスケープ」も食傷気味、という方も多いかもしれません。

振り返れば10年ほど前にマリガンらがBCP-ALLをSNPアレイで網羅的解析をしたころから様々な疾患が白日のもとに曝され、いつのまにやら多岐にわたるゲノム・エピゲノム異常の複雑な相互関係が「ランドスケープ」と称されるようになっていました。

本抄読会で初めて「ランドスケープ」が登場したのは2011年5月の第154回 (The genetic landscape of the childhood cancer medulloblastoma. Science. 2011)で、これは吉原先生の初担当回だったようでなかなか感慨深いです。

そこから様々なランドスケープが次から次へと現れ、先日はついに小児がんのランドスケープまで見せつけられ (第478回抄読会)、もはやあとには既視感以外の何も残らないような気がする中での小児AMLのランドスケープです。

レファレンスとなる成人AMLデータはすでに5年前に発表されており(the cancer genome atlas = TCGAのデータ; NEJM 2013;368; 2059)、DNMT3AやNPM1、CEBPA, IDH1/2、TET2など様々な遺伝子の異常が明らかになっています。

小児 AMLではCBF-AML(第415回抄読会)とAMKL(第427回抄読会)がランドスケープされていましたが、小児AML全体では今回が初披露のようです。

 

本論文はCOGに登録された約1000検体を対象に毎度おなじみTARGETプロジェクトの一環で解析を行っています。

infant (0-3歳;←AML業界ではしばしば2歳までinfant扱いされますが、どうやら3歳で区切るとデータが一番きれいに分かれた様子です。GAPでいえばtoddlerでしょうか)、children (3-14歳)、AYA (15-39歳)、adult (40歳以上)で比較を行うとinfant + childrenは染色体の構造異常(MLL転座、t(8;21)、inv(16)など)が多く遺伝子変異は少ないのに対し、年齢があがるごとに遺伝子変異が増え、adultでは構造異常はごくわずかでした。

 

特にCBFA2T3-GLIS2、MLL再構成、NUP98再構成を有する症例はリカレントな染色体異常が少なく、これら融合遺伝子のインパクトが大きいことが推測されます(既報のAMKLランドスケープや乳児ALLランドスケープも同様の結果)。

一方、CBF再構成例は年齢から予想されるよりも変異は多かったようで、St. Judeグループがinv (16)は変異が少ないが、t(8;21)は多かったと報告したものとは異なる結果でした。

inv (16)の予後はほぼ一様によいと言えるのに対して、t(8;21)が多様な経過を呈することの理由だと感じられた私にとって、今回の結果は少し意外です。

 

遺伝子変異の種類も予想通り小児と成人で異なり、成人で高頻度に認められるDNMT3A、IDH1/2、RUNX1、TP53は小児ではきわめてまれでした。

小児で多いのはN/KRAS、KIT、WT1、CBL、PTPN11、GATA2、MYCなどで、さらにMYC-ITDやFLT3の小児特異的変異などが同定されています。

成人におけるDNMT3A変異やTP53変異は加齢に伴って生じる病的意義がよくわからないクローン性造血 (Clonal Hematopoiesis of Indeterminate Potential; CHIP)で認められる変異なので、小児で少ないのは当然かもしれません。

MLL再構成やCBF再構成など染色体構造異常の影響が大きい小児AMLと加齢に伴うCHIPを基盤に発生する成人AMLは全く異なる背景を有する疾患であることが改めてわかります。

 

染色体構造異常は転座・逆位ばかりでなく、MBNL1(スプライス調節因子)やZEB2(正常&白血病の造血の調節因子)、ELF1 (ETS familyの転写因子)などのfocal deletionなども見つかり、特にMBNL1とZEB2はMLL-AF9例でともに欠失していることが多いそうです。

これらの意義についてはそのうち明かされるのでしょう。

 

エピゲノムもしっかり調べられており、メチル化パターンで31のグループに分けられたそうです。

このメチル化によるグルーピングは既知の染色体/遺伝子異常でほぼ説明ができるのですが、まったく説明がつかないグループが2つあり、ともに予後が悪かったそうです。今後のvalidationが必要ですね。

エピゲノムに影響すると考えられる分子異常として、成人ではDNMT3AやTET2、IDH1/2変異などの頻度が高いのに対して、小児ではMLL再構成、WT1変異が多く、エピゲノムランドスケープも小児と成人は異なりそうです。

 

miRNA解析ではmiR-330が小児でより発現亢進していたようです。

一方、蛋白合成を調節するlet-7bの発現は小児で低下していて、let-7b発現低下例は予後がよいそうでした。本当にいろいろありますね。

 

というわけでランドスケープ論文特有のまとまりのない情報量の多さに圧倒されますが、なかなか味わい深い点もある論文です。

特に加齢に関連して蓄積する遺伝子変異を基盤に発生する成人AMLと染色体構造異常の影響が大きい小児AMLの対比はなかなか興味深いところです。

 

実は先日フランクフルトで行われたEWOG-MDS会議で「advanced MDSとAML with low blast countは鑑別できるのか(そもそも別疾患なのか)」という趣旨のセッションがあり、そこで複数のグループが引用していて本論文を知りました。

この論文を見ると転座が確認されれば芽球<20%でもAMLと考えてよいように思えてしまいます。本邦でもデータを集めていきたいところです。

 

さて、今回このようなまとまりがなく難解で読みにくい論文に挑戦してくれたのは初期研修1年目の吉田司先生でした。

彼は産婦人科コースレジデントで婦人科希望とのことですので、将来がんを専門としたときにこの抄読会の経験がよぎるかもしれません。

 

■第489回■「GPC2は高リスク神経芽腫の治療ターゲット」

 

細谷です。今回取り上げた論文は、高リスク神経芽腫の表面にはGPC2が発現しており、がん免疫療法の標的となりうるという報告です。一本の論文で治療ターゲットの同定から抗体薬物複合体作成、さらに治療効果の確認まで進んでいます。実にパワフルです。複雑な話を読み解いてくれたのは研修医1年目の横須賀亮介先生です。

 

Bosse KR, Raman P, Zhu Z, Dimitrov DS, Mackall CL, Maris JM, et al.

Identification of GPC2 as an oncoprotein and candidate immunotherapeutic target in high-risk neuroblastoma.

Cancer Cell. 2017 Sep 11;32(3):295-309.

 

 高リスク神経芽腫は未だ予後不良な疾患で、5年生存率はわずか約50%です。通常用いられる化学療法の工夫でこれ以上治療成績を向上させるのは難しく、新しい治療手段が必要です。遺伝子解析結果を踏まえたテーラーメイドがん治療が脚光を浴びる時代になってきましたが、神経芽腫をはじめとする小児がんは、がんを引き起こす遺伝子変異が成人がんと比べて少なく、治療標的を探すのは容易ではありません。ただ、その中にあって神経芽腫は、免疫治療の開発が期待される疾患でもあります。神経芽腫に自己免疫疾患と考えられるオプソクローヌスミオクローヌス症候群を伴う症例が見られたり、神経芽腫が自然縮退する症例があったりすることから、神経芽腫の増大縮小に何らかの免疫システムが関与している可能性が示唆されることも、その論拠の一つです。神経芽腫に関しては近年、抗GD2抗体が予後改善効果を示しましたが、副作用や再発の問題がありました。その一方、GD2以外の細胞表面抗原はなかなか明らかにならず、腫瘍細胞だけを特異的に攻撃する免疫療法の開発は進んでいませんでした。

 このような背景のある中、筆者らはまず、腫瘍細胞のデータベースであるTARGET (https://ocg.cancer.gov/programs/target) と正常組織細胞データベースのGTEx (https://www.gtexportal.org) のRNA sequence databaseを用いて、神経芽腫により多く発現している細胞表面蛋白を探しました。いくつか候補が見つかりましたがその中からGPC2に着目しました。GPC2は神経芽腫細胞表面によく発現している一方、正常組織の神経細胞あるいは神経堤からの細胞には発現していませんでした。TARGETの臨床情報を用いて予後を調べると、GPC2の高発現は予後の悪さと関連しており、MYCN増幅のない神経芽腫でその傾向は顕著でした。

 GPC2は7qに乗っているのですが、7q gainはGPC2の発現量増加と有意に関連しました。また実はGPC2のプロモーターにはMYCNが結合するE-Boxモチーフがあり、MYCN増幅はGPC2の発現を有意に促し、MYCNの減少はRNAレベルでも蛋白レベルでもGPC2発現量を減少させました。

 神経芽腫のcell lineを免疫組織染色すると、GPC2は膜状パターンで高密度に染まりました。cell lineのフローサイトメトリー分析でも過剰発現したGPC2が細胞表面に局在していることを確認しました。免疫蛍光法でGPC2はカドヘリンと共に発現していました。神経芽腫細胞と、他の悪性腫瘍細胞由来であるPDXを免疫組織染色すると、神経芽腫の93%、PDXの94%にGPC2発現が認められました。一方で、神経堤細胞や副腎細胞では、GPC2の発現は制限されており、蛋白レベルでは正常組織細胞では、GPC2の発現は制限されていました。

 ここまでで、GPC2が神経芽腫の治療標的となりうることが示されました。しかし、このような治療の目印を持った腫瘍細胞というのは、その目印をdown regulateすることで、特異的な免疫療法から逃れる仕組みを獲得することが知られています。ですが、もしこの目印が神経芽腫増殖に必要な機能を持っていたとしたら、神経芽腫細胞はたやすくこの目印をdown regulateすることはできません。そこで、筆者らは、神経芽腫細胞の増殖がGPC2に依存していることも報告しています。高いGPC2発現を有する神経芽腫細胞の大部分が、GPC2をレンチウィルスsh RNAでノックダウンすることで、増殖が低下しアポトーシスが誘導されました。また、もともとGPC2が発現していなかった神経芽腫細胞にGPC2を過剰発現させることで、細胞増殖が高まることも示されました。TARGETとSEQCのコホートデータを、MetaCoreアルゴリズムを用いて経路解析してみると、GPC2はWNTシグナル経路において重要な役割を果たしている可能性が示唆されます。

 TARGET、セントジュード小児病院のデータベース(PeCan;  https://pecan.stjude.org)、the Genomics Analysis and Visualization Platform (R2; [http://r2.amc.nl)を用いて解析範囲を広げると、GPC2は他の小児がんでも高発現していることがわかりました。髄芽腫、網膜芽細胞腫は比較的GPC2を多く発現していますし、急性リンパ性白血病、高グレードグリオーマ、横紋筋肉腫でも高発現しています。髄芽腫においては、group 4で明らかにGPC2が高発現しており、MYCNや7番染色体の増加と相乗効果が見られましたが、その上昇は神経芽腫と比べて緩やかでした。髄芽腫の90%は細胞膜表面にGPC2を発現しており、転移をしてもGPC2の発現量は保たれていました。網膜芽腫でもGPC2の発現は見られ、随伴する強膜、網膜、視神経にGPC2の発現は見られませんでした。網膜芽腫ではMYCNの増幅も見られました。

 ここまででも十分な成果が得られている気がしますが、筆者らはさらにGPC2の抗体薬物複合体(antibody-drug conjugate; ADC)を開発し、その効果を確かめます。まず、D3-GPC2-scFv、D3-GPC2-IgG1を作成したところ、どちらも神経芽腫表面のGPC2に高い特異性を持っていました。D3-GPC2-IgG1は膜表面のGPC2と結合し内在化され、ヒトおよびマウスGPC2に等しく結合します。次に、D3-GPC2-IgG1に抗腫瘍薬であるpyrrolobenzodiazepine(PBD)二量体を結合させ、 GPC2誘導ADCを作成しました。各種細胞を0.064pMから1nMのADCで治療したところ、D3-GPC2-PBDは用量に依存すると同時に、GPC2の細胞表面密度と関連した細胞毒性を持つことがわかりました。また、cell lineにおいて、D3-GPC2-PBD を一定量加えた状態でD3-GPC2-IgG1を増加させていくと、D3-GPC2-IgG1量が増加するに従いD3-GPC2-PBDの細胞毒性が減少することから、抗体とADCが競合していることがわかります。また、cell lineにfree PBD二量体を投与しても、それだけでは細胞毒性が発揮されないことも確かめました。

 D3-GPC2-PBDを与えた神経芽腫細胞ではアポトーシスのマーカーであるカスパーゼ-3/-7活性の有意な上昇が見られ、Western blotでもPARPおよびカスパーゼ-3の上昇、γH2AXの増加が見られました。

 最後に、マウスの実験もしています。GPC2陽性・MYCN増幅あり・ALK変異あり神経芽腫マウスにD3-GPC2-PBD を投与すると、27匹のマウスのうち26匹において腫瘍退縮を伴い、全生存期間が延長しました。

 今後の、GPC2に関連した免疫療法の広がりに期待が高まります。

 

 

■第488回■「NUDT15最新版」

 

 

長谷川です。毎度おなじみ、と言いつつ最近滞りがちな私の抄読会報告ですが、今回は気合いでタイムリーに報告したいと思います。

 

Nishii R, Moriyama T, Janke LJ, Yang W, Suiter CC, Lin TN, Li L, Kihira K, Toyoda H, Hofmann U, Schwab M, Takagi M, Morio T, Manabe A, Kham S, Jiang N, Rabin KR, Kato M, Koh K, Yeoh AE, Hori H, Yang JJ.

Preclinical evaluation of NUDT15-guided thiopurine therapy and its effects on toxicity and antileukemic efficacy.

Blood. 2018 May 31;131(22):2466-2474.

 

お題目はNUDT15で、担当は当院に来て3年目になる山本俊亮先生です。

 

NUDT15については何度も当抄読会で取り上げてまいりました。

もとはTPMTバリアントが少ないアジア人におけるチオプリン高感受性遺伝子として韓国人のクローン病患者の解析から発見され(第312回抄読会)、当然のこととして小児ALLにおけるチオプリン高感受性遺伝子としてSt. Jude (第331回抄読会)とTCCSG (Tanaka. BJH 2015) のコホートでほぼ同時に確認されました。

NUDT15はTGTPをTGMPに脱リン酸化することでDNAへの6MP代謝物の取り込みを低減させているため、その機能が低下するバリアントをもつ個体では活性代謝物である6-TGNのDNAへの取り込みが増えて骨髄抑制をきたすものと考えられています(第384回抄読会)。

これらの知見よりNUDT15バリアントを有する患者において6MPを投与する際は減量が必要であることが理解できますが、どのくらい減らすべきなのか、減量によって白血病に対する治療効果は減弱しないのか、などの疑問が残されていました。

今回は医科歯科からJun Yangラボに留学されている西井先生(+森山先生)がモデルマウスを用いてNUDT15バリアントが及ぼす様々な影響について改めて丁寧に検証しています。

 

CRISPR-Cas9を用いて作ったNudt15蛋白への翻訳がおきないLOF変異をもつNudt15-/-マウスは、20mg/kg(=ヒトの60 mg/m2)のメルカプトプリン(MP)にて急激な体重減少と高度な骨髄抑制(リンパ球は保たれるようです)と消化管粘膜障害を来し、早期死亡に至ります。

 

Nudt15+/+マウスでもMP 20mg/kgによる体重減少&骨髄抑制は見られますが、死亡時期はNudt15-/-マウスよりも遅れていました。

MPを5 mg/kg(=ヒトの15 mg/m2)に減量すると体重減少&骨髄抑制が軽減し、生存期間が延長します。

さらに1 mg/kg(=ヒトの3 mg/m2)まで減らしてしまうとほとんどなにも起きません。

 

Nudt15-/-マウスでもMP減量により体重減少&骨髄抑制は軽減するもののMPによる毒性は同量を投与されたNudt15+/+よりも常に強く、1mg/kgまで減量したところで、ようやく20 mg/kgを投与されたNudt+/+マウスと同等の毒性プロファイルおよび生存曲線を示しました。

 

DNA-TGの蓄積も同様の傾向を示し、Nudt15-/-マウスでは高値で、1mg/kg投与下でNudt15+/+マウスが20mg/kgを投与された際と同等のDNA-TGレベルでした。

これはNUDT15バリアント例に対する6MP投与量をWBCにて調整すると、だいたい規定量の5-10%になるという臨床的知見(Yang JCO 2015, Tanaka BJH 2015, 木村 臨血 2016)を裏付ける結果です。

 

この論文ではB12登録症例の臨床検体の解析も平行して行っています。

マウスの結果と同様に、NUDT15リスクバリアントの増加とともにDNA-TGの増加が確認されました。

 

前述したNUDT15バリアントに対する6MP減量が治療効果を減弱しているのではないか、という点についてBCR-ABLを導入したマウスを用いて解析されています。

MPが投与されないとNudt15+/+マウスもNudt15-/-マウスも芽球が増加して死んでしまいますが、Nudt15+/+では20mg/kgのMPにより良好な芽球コントロール&生存期間が得られます。1mg/kgでは不十分で最終的には芽球が増加し、死亡してしまいます。一方、1mg/kgのMPを投与されたNudt15-/-マウスは芽球の増加が抑えられ、良好な生存が得られました。

すなわち、Nudt15-/-マウスにおいてMPを減量することは単に毒性を軽減するだけではなく、治療に必要な活性代謝物を得ることができるため治療効果が維持されることが示されました。

 

NUDT15バリアント症例の治療に当たる際に非常に心の支えになる論文ですね。

1/20量まで減らしてからタイトレーションを試みるのが現実的でしょうか。

抄読会では担当した山本先生がわかりやすい解説スライドを作っていますが、容量が大きそうなので添付しておりません。

ご希望の方がいらっしゃいましたら私までお知らせいただければ手配いたします。

 

私の不十分な解説に見かねた森山大先生が、裏話も交えたわかりやすい解説をしてくださるのではないかという淡い予感とともに今回の抄読会報告を終わりたいと思います。

 

■森山先生コメント■

 

 

森山です。この度は本論文について取り上げていただきまして、誠にありがとうございます。

論文の内容につきましては、不十分どころか余すところなく長谷川先生に解説していただけており、感謝いたしております。

 

NUDT15についてはこれまでチオプリン毒性との文脈で語られることが多かったのですが、

マウスモデルを用いて、治療効果を論じることができたのが売りのひとつかなと思います。

(事実、諸事情により、毒性のみで投稿していた時にはリジェクトも複数回経験し、

ホームレスになるのではないかと不安にかられたこともあります)

 

せっかくですので、内容についてというよりも、論文投稿までのいきさつを少し紹介させていただけたらと存じます。

 

本論文の構想については、2015年のNUDT15関連の報告前(Yang JCO)にまで遡ります。

当該論文においてNUDT15とチオプリンの関係性が指摘されたことで、マウスモデルのセットアップを考慮することは自然な流れでした。

しかし、当時のYangラボはとても人も少なく、それこそ猫の手でも借りたいという状況であり、

「誰か留学に興味ある人がいないか」ということを、三重大学小児科の岩本先生に相談させていただいたことがあります。

 

これに対して、岩本先生は、ご自身がStJudeに留学されていた時の人的なつながり(2005年前後@Dr. Dario)を最大限に活用して下さり、

最終的に、本論文筆頭著者である西井さん(医科歯科大学の高木先生のお弟子さん)が手を挙げてくれました。

 

今回の論文が報告できた背景には、彼女の決断が大きくものを言っていると感じますし、

さらにはそうしたつながりを作っていただけた岩本先生、高木先生にも深く感謝している次第です。

 

今回の報告が人的な交流をきっかけに発展した側面も看過すべきではないと思いますし、

今後も流動性を持って研究が続けていけたらなと思っています。

実際、加藤元博先生のお弟子さんの一人である吉田仁典先生(@成育)も短期間ではありますがちょうど今Yangラボに来ており、

実験系の立ち上げに尽力してくれているところです。

 

ぜひ、今後とも先生方とのつながりを大切にしつつ、さらなる小児医療の発展に自分もお役に立てたらと考えている次第です。

本論文からはNUDT15の内容そのものはもちろん、何卒そうした面も汲み取っていただけたら幸甚に存じます。

 

■第487回■「CD22に対するCAR T cell治療」

 

真部です。

ヘルシンキのIBFMに行って来ました。そのIBFMに引き続き、Childhood Leukemia and Lymphoma Symposium (CLS)があり、そこでUniversity of VirginiaのDaniel LeeがNCIのCD22に対するCAR T cell治療の話をしていました。今回はそれを取り上げます。Leeはこの論文の著者の一人です。担当は小児科志望のジュニアレジデント2年目の江口脩先生です。江口君の作ったまとめを添付します。

 

Fry TJ, et al.

CD22-targetd CAR T cells induce remission in B-ALL that is naïve or resistant to CD19-targetd CAR immunotherapy.

Nat Med 2018;24:20-28

 

 

(真部解説)

 

B前駆細胞型(BCP-)ALLの対するCARTなどのいわゆる免疫療法の勃興はすさまじいですね。ちょっとまとめてみます。

 

0)Rituximab:CD20に対する抗体。これはプロトタイプです。CD20陽性リンパ腫に用いられますが、その用途は広がり、溶血性貧血などの自己免疫疾患にも用いられます。さすがにBCP-ALLにはあまり用いられていません。ただ、St. Judeでは寛解導入に入れてALLに対する治療効果とAsparaginaseに対する抗体産生抑制効果を検討しているようです。恐るべし、St. Jude!

 

1)Blinatumomab:CD3とCD19に対するbispecific抗体。off the shelfなので、CARTより容易に投与できる。

 

2)Inotuzumab ozagamicin:CD22に対する抗体に抗がん剤がくっついている。AMLに対するMylotarg(CD33抗体とozogamicinの複合体)に似たアイデア。VODを起こすことがあるので、移植との相性はよくないかもしれない。

 

3)CAR T細胞:CD19CAR:おなじみのCHOP/Novartis製品の効果のすさまじさはみなさんもよくご存知でしょう。

 

4)CAR T細胞:CD22CAR:上記3)と同様。CD19の代わりにCD22を用いた。

 

今回は、この4)のCD22 CARのお話です。

 

まず、この論文は二つのパートに分かれています。前半はCD22 CARの臨床試験結果、後半はCD19とCD22の両方を標的にしたCARの前臨床実験結果です。

 

患者は7歳から30歳までの21人のBCP-ALL患者です。うち、前治療としてCD19 CAR治療を受けたのは15人、blinatumomab投与を受けたのは2人、inotuzumab投与を受けたのは5人ですが、その5人は全員CAR19 CAR治療も受けていました。というような重要な情報はSupple,ental Table1にしかありません。不思議ですね。21人中10人では白血病細胞のCD19の発現は低下または消失していました。その10人はCD19 CARかBlinatumomabの治療を受けていました。これこそがまさに、CD19を標的にした免疫療法が失敗するメカニズムです。

 

毒性はCRS (cytokine release syndrome)も含めて重くはなく、神経毒性もありませんでした。この辺がCD19 CARと異なります。

 

CD22 CAR T細胞は患者の体内で増殖し、調べた17人の患者のうち12人で髄液中にも検出されました。1x10e6/kg以上のCAR T細胞を用いた15人の患者のうち11人で完全寛解が得られ、そのうち5人はCD19が低下または陰性例でした。8人の患者が再発しましたが、うち7人で白血病細胞のCD22の発現が低下していました。

 

次にNALM6細胞株にさまざまな程度でCD22を発現させ、CD22 CAR T細胞を共培養させたところ、CD22の発現が高いほどIFN-gammaとIL-2が多く産生されました。この細胞株を免疫不全マウスに移植し、CART細胞治療を行ったところ、CD22発現の高い細胞株を移植されたマウスがもっとも生存がよかったです。当然ですが。患者検体でCD22の発現が下がるメカニズムを調べたところ、DNAレベルでのCD22遺伝子のコピー数に異常はなく、CD22のmRNAの量にも異常はありませんでした。何らかの転写後の異常が起きているとしか言えない結果でした。

 

最後に、CD19とCD22の2つの抗原を認識するCAR T細胞を作成しました。遺伝子改変NALM6を用いてCART細胞との共培養後のIFN-gammaを測定したところ、このbispecific CAR T細胞は、CD19欠損細胞株とCD22欠損細胞株の両方に対する反応性を有しており、その程度は改変していないNALM6細胞株と同等でした。また、同様にkillingも認められました。改変していないNALM6細胞株を免疫不全マウスに移植してin vivoにおけるこのbispecificなCAR T細胞の効果をみたところ、CD19CAR、CD22CAR同様、マウスは生存しました。

 

すごいペーパーです。日本でCAR T細胞治療が開始される前に、すでに米国ではCAR T細胞治療の問題点が指摘され、それに対する対策までが幾重にも試みられています。なんと、最後のbispecific CAR治療もすでに臨床試験が行われているとのこと。もう、何周遅れているかわからないですね。なお、今回のCAR Tは、値段が天文学的に高くて話題になっているNovartisなど、製薬企業ではなく、NCIが作っているものです。いわば、公的資金というかアカデミア主導のものなので、費用は低く抑えられる可能性があります。

 

さて、どうするか。我々はもう、アメリカの成果のつまみ食いをしている場合ではないのかもしれません。本当に困りました。

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第486回「monosomy 7を有するAMLには、L-Asparaginaseが効くかもしれない」

 

細谷です。今回取り上げた論文は、monosomy 7を有するAMLには、L-Asparaginaseが効くかもしれないという、イタリアのボローニャ大学とパドヴァ大学からの報告です。一緒に読んでくれたのは研修医1年目の佐藤登夢先生です。佐藤先生の作成してくれた資料を添付します。原著へのリンクも貼っておきます。

 

Salvatore Nicola Bertuccio, Salvatore Serravalle, Annalisa Astolfi, Annalisa Lonetti, Valentina Indio, Anna Leszl, Andrea Pession and Fraia Melchionda

Identification of a cytogenetic and molecular subgroup of acute myeloid leukemias showing sensitivity to L-Asparaginase

Oncotarget. 2017 June 19;8(66):109915-109923.

https://doi.org/10.18632/oncotarget.18565

 

 小児急性骨髄性白血病(AML)の治療成績は化学療法の進歩、支持療法の進歩により向上してきていますが、それでもなお全生存率は8割には達していません。AMLにおいて7番染色体のモノソミーは、重要な予後不良因子として知られています。

 ところで、L-アスパラギナーゼ(L-Asp)は、急性リンパ性白血病(ALL)治療に重要な薬剤です。L-AspはL-アスパラギン酸の加水分解酵素で、L-アスパラギン酸を枯渇させることで、ALL細胞の細胞死を導きます。正常細胞にはL-アスパラギン酸の生合成を触媒する酵素であるL-アスパラギン合成酵素(ASNS)が備わっているため、L-Aspの効果は及びませんが、ALL細胞には増殖に必要なL-アスパラギン酸を大量に必要とする一方、ASNS遺伝子発現が乏しいため、抗白血病効果が出るわけです。正常細胞と同様、AML細胞にはASNSが備わっているため、L-Aspは効果がないことになっております。しかし実はこれまでも、L-AspのAMLへの適応についてはin vitroでは検討されたことがあります。FAB分類のM1, M4, M5などは、L-Asp感受性があるのではないかと言われており、そしてASNS発現が低いようです。(Okada, et al. Br J Haematol. 2003 Dec;123(5):802-9.)(Zwaan CM, et al. Blood. 2000 Oct 15;96(8):2879-86.)(Kaspers GJ, et al. Klin Padiatr. 1999 Jul-Aug;211(4):239-44.)

 さて、L-Asp感受性に重要な役割を果たすASNS遺伝子に注目すると、7番染色体の7q21.3上に位置しています。また、ALLにおいて、ASNS遺伝子発現が増加していると、L-Aspへの耐性を示します。そこで筆者らは、7番染色体モノソミー(-7)が、7番染色体上にある遺伝子のdown regulationを引き起こし、ASNS遺伝子発現の低下が起きているのではないか、さらには-7をもつAMLはL-Aspへの感受性を持つのではないかと考えました。

 -7を有するAML細胞株3種と患者のAML細胞1種は、-7のないAML細胞株8種及び患者のAML細胞2種と比べてASNS遺伝子発現量が少なく、ASNS蛋白量も著しく減少していることが示されました。NCI-COGのTARGET AMLデータベースで検索しても、-7を有するAMLではASNS発現量が有意に低いようです。L-Aspの感受性試験を行ってみると、-7を有するAML細胞株は-7を有しないAML細胞株よりもL-Aspへの感受性が高いことが示されました。AML患者の細胞でも-7を有するAML細胞の方が、より低いL-Asp濃度で阻害されました。-7によるASNS遺伝子発現量の低下がAMLにおけるL-Aspに対する感受性を誘導し得ると考えられます。

 ALLの場合、ASNSプロモーターのメチル化がASNS発現低下に寄与しているそうで、メチル化を有するALLはL-Asp感受性が高いと言われております。こちらについてもL-Asp感受性試験を行ったところ、メチル化有りALLと-7を有するAMLは、同じ程度のL-Asp感受性を備えていることが示されました。

 -7を有しないAML細胞株においてASNSのsiRNAノックダウンを行い、L-Asp感受性試験を行うと、ASNSノックダウンがL-Asp細胞毒性を有意に増加させることが観察されました。

 結論として、-7を有する AML細胞はASNSの低発現のためにL-Asp治療に対して高い感受性を示し、L-Aspは、高リスクAMLである-7を有するAMLの治療に有効である可能性が示されたと言えるでしょう。

 すぐに-7有りAML治療に適応できるわけでは有りませんが、興味深い論文でした。

 

 

 ALL細胞に関してはASNSのメチル化の有無がL-Asp感受性につながるというのはよく知られた話なのでしょうか。L-Aspの感受性については山梨大学小児科の犬飼先生がお詳しいのではないかと伺いました。何かコメントがあれば是非お寄せください。

 

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■第485回■「急性白血病におけるMLL再構成」

 

平林です。第485回聖路加抄読会です。取り上げました論文は

 

The recombinome of acute leukemia in 2017, Leukemia 2018, 32, 273-284

 

です。初期研修医1年目の中込雅人先生と読みました。

 MLL再構成のあるALLとAMLがそれぞれ入院したのもあって取り上げてみました。MLLはKMT2Aとも呼ばれていますが、MLLの方がやはり馴染みがありますよね。多数のMLL再構成白血病を集め特徴を探した論文ですが、叙述的な展開で長文になっております。予後と関連したデータは直接触れられていません。なお2013年にも同様の内容で発表されており、そのアップデートになります。

 2003年~2016年の臨床データを有する2345例のMLL再構成が集められました。

 まず年齢構成の検討です。ご存知の通りMLL再構成ALLは乳児に多く、MLL再構成AMLは好発年齢のPeakはありません。パートナー遺伝子を見ていくと、ALLではAF4(57%)、ENL(18%)、AF9(13%)でした。一方AMLではAF9(30%)、AF10(16%)、ELL(11%)でした。AMLのFAB分類別では例えばM0ではELLが全く見られないなどの偏りもありましたが、そもそものMLLをもつAMLの発症数はM5, M4が多く、それ以外については比較的まれでした。

 続いてはMLL切断点の検討です。2192例(94%)の症例ではMLLエクソン9~11の間に切断点がありますが、全体では特定の決まったホットスポットが存在するわけではありません。しかし臨床データ別にみると、たとえばAF6とのfusionでは、MLL intron9の切断点が多く、乳児ALLのAF4、ENLとのfusionでは、MLL intron11での切断点が多いといった特徴がありました。それぞれの融合タンパクが持つ特異的な機能があるからこそ、このように病型ごとに好発する切断点が異なってくると考えられます。また年齢でみても切断点の偏りがあることが判りました。この後、MLL融合タンパク質が転写を活性化するメカニズムは複数あり、その点について紹介されておりますが難しいです、、。MLL融合タンパクの機能的な面については、臨床血液に日本語の総説もありますのでご参照頂ければ幸いです。

 テーブルにはこれまでに報告された合計135種類のMLL fusion全体像がまとめられています。そのうち84種類はfusionによってコドンのずれが生じないin frameパターンでした。10種類はfusionでコドンがずれて翻訳される out of frameパターン、6種類はパートナー遺伝子が見つからないものがあり、これらのMLL fusionによる病的意義は未知数です。残りの35種類は染色体レベルにとどまり、まだ分子レベルでの詳細な検討は成されていません。

 小集団としてT-ALLに注目するとAF6, ENLが多く見られたこと、治療関連白血病ではAF9が多く、他の病型ではみられないMLLが多かったなどとあります。

 Discussionです。2005年のPNASで発表されているlong-distance inverse PCRの手法を用いており、これを用いるとDNA上の切断点まで特定することができます。NGSによるRNA seq全盛期ですが、この手法でDNAの切断点まで求めることでMRDとしても使用できるメリットを強調しています。約100種類にも及ぶMLL fusionをその機能も含めて適切に分類し、新たな治療標的と出来ることが今後の目標であると結ばれています。

 ところで聖路加の自験例(非登録例)なのですが、Ig/TCRのMRDは陰性になったのですが、融合遺伝子のmRNAコピー数は陽性が続いています。やはりDNA切断点のMRDも見てみたくなりますね。

 以上有難うございました。

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■第483回■「germlineのIKZF1変異と小児ALLに対するリスク

 

 

真部です。今回はわが友Mullighan(抄読会の上での友で、実際はさほど親しくはありません)の十八番、IKAROSの新しい研究を取り上げました。担当は医学部を卒業したばかりの内科系1年目レジデントの山原直紀先生です。聖路加にとっての山原君は日ハムにとっての清宮、エンゼンルスにとっての大谷のような。。。いずれにせよ、この若い先生がみごと、この長い長いCancer Cellの論文(12ページもある)を読み解いてくれました。今時の若者は優秀ですね。まとめを添付します。

なお、嬉しいことに、3月のTCCSGの例会で講演してくれたわが友、吉原宏樹先生もco-authorに名を連ねています。このペーパーはfacebookへのMullighanの投稿で知りました。そういう時代なのですね。

 

Churchman ML, et al.

Germline genetic IKZF1 variation and predisposition to childhood acute lymphoblastic leukemia.

Cancer Cell, in press

 

(真部解説)

IKZF1についてはみなさんも耳タコでしょうね。前回の第481回(第477回)抄読会でもIKZF1plus ALLは予後が悪いというBFMの論文が取り上げられていました。

 

IKZF1はリンパ系の分化に関わる転写因子であるIKAROSをコードします。今までの知見としては、

1)IKZF1のsomatic mutation (deletion)を有するALLは予後が悪い。Ph+ALLの80%以上でIKZFのsomaticな変異がみられる。

2)ALLのsusceptibilityを調べるとARID5BなどとともにIKZF1のSNPはALLの発症と関連がある。KevinらのTCCSGの研究でも示されました(第473回抄読会)。

3)原発性免疫不全(PID)の中のCommon variable immunodeficiency (CVID)でIKZF1の変異を有する患者が報告され始めた。昔St. JudeにいたConleyのNEJMの2016年の論文は第388回抄読会で取り上げました。その中に2例、ALLになった症例がいました。ついで2017年に東京医科歯科大の金兼弘和先生のグループがIKZF1のgermline変異がさまざまな免疫異常(B細胞の欠損から膠原病まで)をきたすことを報告しました(Hoshino A. J Allergy Clin Immunol 2017;140:223-231)。

以上より、IKZF1がからんだ家族性ALLがいてもおかしくない、とはみんなが思っていたことです。

 

さて、この論文ですが、まず、ドイツの家族性ALLの1家系においてIKZF1のgermline variantaionが同定されました。患者さんは5歳発症のPh+ALL。そのおじが4歳時にALLになって死亡したが詳細は不明。残りの4人の親族で同じvariationがみられたが、リンパ球の減少や免疫グロブリンの異常はあったが臨床的な問題は起きていない。がんとしての浸透率は低いといえる。

 

ついで、膨大な患者で網羅的な解析が行われました。

COGのハイリスクB-ALLの2225例、COGのハイリスクと標準リスクB-ALLの1634例、COGの標準リスクB-ALLの274例、そしてSt. Judeの全タイプのALLの830例の計4963例の解析。これらの患者集団にはもちろん偏りはあります。たとえば、T-ALLが少ないとか、ローリスクが少ないとか。でも、5000例あまりの小児ALLのgermline検体が網羅的解析に回っているというのは恐るべきことです。

結果は0.9%の43例でIKZF1のcoding領域のvariationが見つかりました!なお、今回の論文ではmutationということばは徹底的に排除され、すべてvariationとされています。

各variationは正常コントロールでは0%または最大でも0.001ということで、これらはSNPではなく、いわゆる稀な変異(失礼!)として扱ってよいと思われます。

Variationは27箇所でみられ、25はミスセンス、2はナンセンスでした。ホットスポットと言われるような部位はありません。患者のプロフィールには特別なものはありません。本文(5ページ目の30行目くらい)にはhigh hyperdploidが多い(21例中8例、38%)とありますが、付録の表(Table S2)をみると圧倒的に多いのはB-otherです(添付しましたが、小さくて読めないかもしれません)。

というわけで相変わらず、このような雑誌では見たい情報は付録に入っていますね。そのかわり、実験結果は詳しく記載されています。

1)今回のvariation部位は多岐にわたるが、いずれもheterozygousであり、homozygousのものはなかった。

2)IKZF1の構造上、DNA結合に関わるN末端側のzinc fingerとdimer形成に関わるC末端側のzinc fingerに作用は分かれるが、今回のvariantsはその部位から想像されるような異常が起こっていた。

3)IKZF1のvariationがあるとIKAROSの局在に変化が起こり、核内でなく、細胞質に存在することが多くなる。なんか、TP53に似ていますね。

4)IKZF1にvariationがあると細胞接着が亢進し、またマウスの実験では骨髄のnicheへの接着能も亢進する。

5)variationをもつ細胞株を用いて薬剤感受性試を行った。dasatinibとdexamethasoneに対する抵抗性が上昇するvariantがあった。またマウスへの移植実験でも生存に差がみられました。ただ、in vivoでのdasatinibの作用はよくわからず。

とにかく、莫大なエネルギーがつぎ込まれた仕事です。

 

以上から、これら27種類の部位の、うち22種類は機能解析で意味のありそうなdamagingなもの、残り6(5+家族例の1例)種類はbenignなものと考えられたが、実際、臨床的にはその両群には差はありませんでした(Table S3)。またGWASによるさまざまなSNPデータをみたがそれも特定の所見はありませんでした(Table S4)。なお、COGもSt. Judeも実際の患者の家族歴などは不明でした。

 

とにかく、大きな研究です。MulliganとJun YangらSt. Judeの面々が総力を挙げています。各症例のRNA seqのデータなども惜しみなく出しています。この論文の面白いところ、あるいは限界は、もちろんIKZF1のgermline variationの持つ意味です。家族例は1家系しかないのでなんともいえませんが、たとえばTP53のような、germlineはhetro、somaticにはhomoというようながん抑制遺伝子とは異なります。BRCA(FANC)のような役割なのかもしれません。これをpredispositionと呼ぶかどうか。おそらくpredisposeの概念もどんどん広がっているので、現状ではそう呼ぶのかもしれません。一方で、これらのvarriationにより、IKAROSの作用は減弱します。今回の機能解析では、DNA結合が障害される、IKAROSの局在が変わる、骨髄内でのhomingに影響が出る、薬剤耐性になる、などの機序が示されました。そうなると実際のところ、それらは予後に影響するような気はしますが、ALLが起こりやすくなることを説明しているとは思えません。このあたりは矛盾しないのか。

 

ともあれ、あまりにも大きなペーパーなので、私たちの読みも十分でない、あるいは、まちがって解釈している可能性も高いです。吉原先生、解説をお願いします。

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■吉原宏樹先生からのコメント■

 

真部先生、TCCSGの皆様、

 いつも大変お世話になっています。今回の論文を取り上げて頂き、感謝申し上げます。真部先生の詳細な解説の後で恐縮ですが、ご指名ですので僭越ながら、議論になりそうな部分を中心に、少しだけ書かせていただきたく存じます。

 今回の論文は、Yang先生のラボのgermline解析技術と、Mullighanラボの機能解析のタッグから生まれました。筆頭著者のMichelle Churchmanは、Mullighanラボのスタッフマネージャーで、研究に関して実に博識であり、女性研究者のロールモデルの様な方です。これまでに、IKZF1に関するペーパーをいくつか出していますが、その続編になります。

Churchman ML et al., Efficacy of Retinoids in IKZF1-Mutated BCR-ABL1 Acute Lymphoblastic Leukemia. 2015 Cancer Cell.

Churchman ML et al., Synergism of FAK and tyrosine kinase inhibition in Ph+ B-ALL. 2016 JCI Insight.

 真部先生のご指摘の通り、今回の論文で焦点になるのは、IKZF1をtumor predisposition geneと呼んでいいものか、という事だと思います。今回のIKZF1は、GWASを通して見つかったものではありません。またTP53の様に、既知で家族性発がん症候群として知られているわけでもありません。

 そこで、tumor predispositionについて、Michelleに伺いました。それを考える上で、IKZF1のgermline variantと同じ変異を293T細胞やpre-B細胞に導入し、機能が失われていることに、注目して頂きたいです(Table 1の最右列)。論文では、みられたgermline variantによって生じるIKAROSの機能異常を詳細に紹介しています。Germline variantだけでは発症しないことは、分かっており、更なる多段階を経て白血病に至ると考えられます。さらにCharlesにも尋ねたところ、次のように回答されました。

“我々のみつけた家系、および過去の論文(Kuehn HS. Loss of B cells in patients with heterozygous mutations in IKAROS. N Engl J Med 2016;374:1032-1043、第388回抄読会)を参照する限り、IKZF1のgermline variantは、白血病、免疫不全症へのpredispositionを有する。Exome Aggregation Consortium databaseでは、germline variantが予想より頻回にみられた。また、PAX5のgermline mutationは、散発例はなく2家系においてのみ見られた。以上から、IKZF1にtumor predispositionがあると考えてよいであろう。”

真部先生の仰る通り、TP53などと同等に扱うことには躊躇してしまいます。仮に、ある患者家系に今回のIKZF1 germline variantの方が見つかったとして、どのように説明すべきなのか悩ましいです。ただMichelleによる、膨大な各variantの機能解析の結果を照らしあわせてみると、腫瘍発症にはやはり関わっているのではないのか、と想像してしまいます。

 Germline variationが正常コントロールでは0%~0.001%ということから、これをSNVとして扱うか、稀な変異として扱うか、という議論がありました。こちらもCharlesに尋ねたところ、区別することに重要性はあまりないと思われ、“変異”では一般的に機能異常を暗示することから、今回は慎重に“variation”という言葉を使ったとのことです。ちなみに、normal controlでのmaximum allele frequencyが0.0012であったG337Sのvariantについては、コンピュータの予測ではbenignに分類されたことから、正常variantか否か議論になりました。しかし、機能が失われていることを確認できたため、以後も詳細な解析を行いました。

 サブタイプとの関連についてですが、variationのあった症例ではB-othersが多かったのですが( Table S2 )、特徴的な変異等との関連はまだ分かっていないそうです。

 In vivo studyでdasatinibを用いていますが、IKZF1欠失におけるin vivoでの作用については、作用機序を完全には示しているわけではないのですが、選考論文があります(Churchman et al., Cancer Cell. 2015)。IK6 deletionがあると、dasatinib投与の効果が減弱し、IKZF1 haploinsufficiencyがそれを増長します。これらの阻害は、STAT5やCRKLのリン酸化には影響していないことから、ABL1を通して生じたものではなく、dasatinibが直接的に阻害したと考えられます。

 以上、簡単ではありますが、追記させて頂きました。稚拙な解説ですが、どうかご容赦ください。

 

 

■真部淳先生からのコメント■
吉原先生
早速のお返事をありがとうございます。
Mullighanの説明が完璧にはわかりませんでしたが、新たなタイプのpredispositionと考えてよさそうですね。
先生が担当したのはcell adhesionのあたりですか?
■吉原宏樹先生からのコメント■
お返事ありがとうございます。
Mullighan先生のpredispositionである主張は、ALL患者検体の機能解析に基づく部分が強く、正常集団の裏付けが不十分かもしれません。
理想としてはGWASを用いて、IKZF1 variant/mutationがSCID, ALLの発生につながることを証明する必要があるのだと思います。
今回、寛解時骨髄の検体があったため、clonal hematopoiesisを否定するためにもstromal 細胞のみを培養で増やしgermline DNAを抽出し解析する、という事を担当しました。
私としてはcell adhesionにも興味があり、その手法をMichelleに教わっています。
■真部淳先生からのコメント■
ありがとうございます。
やっぱり新たな理論を作っていく現場はexcitingな雰囲気があってよいですね。
先生もこれからも頑張ってください。

 

 

■金兼弘和先生からのコメント■

 

真部先生とは少しだけdiscussionしていたのですが、皆様にもお知らせします。

私たちはIZKF1のgermline mutationがCVIDをきたすことをNIHのグループに遅れて発表しましたが、基本的には彼らと同様にhaploinsufficiencyで生じることを証明したつもりでした。

実はその中の1例はカリニ肺炎の既往があり、臨床的にはCVIDとは異なることに気づいてはいましたが、実験的には他の症例とほぼ同じ結果であったため、そのままhaploinsufficiencyとして報告しています。

その後ESIDでネッケルのグループがIKZF1でカリニ肺炎を合併した私たちの1例とよく似た2例を報告しており、遺伝子変異部位が同じであることに気づき、症例を集めて解析しようという話になりました。

その後ネッケルだけでなく、NIHでも同様の症例があることがわかり、最終的にはIKZF1がdominant negativeに働いて複合免疫不全症をきたすという結果にたどり着きました。先日JCIにacceptされたとの連絡をいただきました。

機能解析がいかに重要かということですね。WESで簡単に変異が見つかる時代になりましたが、機能解析をきちんとできるラボでないとtop journalには届かないということです。

■真部淳先生からのコメント■

 

金兼先生

すごい発見ですね。

やはり、SCIDになる遺伝子variantは、本物の「変異」と呼べそうですね。


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