■第506回■ 「ALL細胞がどのようにCNSに入るのか」

 

真部です。今日は(Natureには珍しく?)ストーリー性に溢れた素晴らしい論文を読みました。

 

Leukemia hijacks a neural mechanism to invade the central nervous system.

Yao H, et al. Nature 2018;560:55-60

 

担当は卒後5年目の水城和義先生です。産業医大から勉強に来られていますが、文字通り、この論文を楽しんだとのこと!水城先生の作った完璧なまとめを添付します。ファイルのサイズが大きいですが、何とか皆様のお手元に届くことを期待します。なんせ、元のペーパーは61MBもありますので。。。

 

(真部解説)

ALLの細胞はCNSに入りやすいというのは定説、CNSはALLにとっての聖域、というのはまさにALLの掟のようなものですが、細胞がどのようにCNSに入るのかはわかっていませんでした。この論文はそのメカニズムに迫ったというものです。

PI3Kdeltaは広く免疫細胞や神経細胞に発現していますが、その阻害剤であるidelalisibはリンパ腫の治療薬として承認されています。

GS-649443は同様にPI3Kdeltaを阻害する薬剤ですが、SCIDマウスにALL細胞株Nalm-6を静注し、GS-649443を投与したところ、マウスの生存期間は延長しました。そして面白いことにCNS病変が減少しました。というか、骨髄と脾臓ではALL細胞の減少はなく、脳のくも膜下腔のALL細胞が減少しました。これはCNSに入りやすい他の細胞株であるRCH-ACVでも患者検体でも同様でした。ただ、GS-649443のCSFにおける濃度は血清に比べて極めて低く、この薬剤がCNSでALL細胞を殺しているわけではなさそうでした。ここで研究の方向を転じてPI3Kの作用を考えることにしました。

PI3KはRhoやFAK経路により actomyosinに作用し、細胞の遊走をコントロールします。Transwellを用いてこの遊走能への影響を調べたところ、その通り、 idelalisibでもGS-649443でもALL細胞の遊走能は低下しましたが、AKT阻害剤ではその作用は減じませんでした。さて、GS-649443で処理したNalm-6細胞で発現が下がった遺伝子の一つにITGA6がありました。この遺伝子はα6インテグリンをコードし、α6インテグリンは細胞外基質(ECM)のlamininに結合します。ITGA6ノックアウトマウスでは神経系の発生異常が起こります。また神経幹細胞(Neural stem/precursor cell: NSPCs)はlamininに沿ってα6インテグリン依存性に遊走します。そのことからALL細胞もNSPCsと同様のメカニズムより、CNSに遊走するとの仮説が立てられました。そこで、微小血管から脳実質に浸潤するか、軟膜から入るのか、脈絡叢からか、などマウスに顕微鏡を組み込んで観察(videoも付いている)しましたが、すべて否定的でした。

ここで著者らはまたも研究の方向を転じて脳の導出静脈に目をつけました。すると、驚いたことに骨髄から骨を貫いてくも膜下腔に達する導出静脈の外側のlamininに沿ってALL細胞が大量に遊走する様が見られました。これは付属のvideoをご覧になる価値があります。

SCIDマウスにALL 細胞を静注し、α6 インテグリンの中和抗体を投与するとCNS病変が著明に抑制されました。また主に成人ALL 患者の細胞のα6 インテグリンの発現(なんと病理標本での染色)が高いほどCNS白血病が多いことも示されました。

この論文の筆頭著者の八尾尚幸先生はこの研究が行われたDuke大学から国立広島西病院に移り、3週間前の日本血液学会の初日にこの仕事の成果を発表しましたので、聞かれた先生も多いかと思います。とても感動的な発表だったようです。私は生憎、5分の差で聞けませんでしたが。

実は私も28年前にSt. JudeでALL細胞の研究をしていましたが、ALL細胞はα4インテグリンを発現しており、ECMにあるfibronectinとの相互作用により骨髄ストローマと接着することを発表しました(Manabe A. Blood 1994)。今回と似たモデルです。また帰国後、国立小児病院の藤本純一郎先生のラボで激しい骨浸潤をきたした患者さんのALL細胞をSCIDマウスに移植したところ、マウスにも骨病変が再現され、またマウスには四肢と尻尾に麻痺が起こり、病理では頭蓋骨の骨髄からくも膜下腔にALL細胞が大量に浸潤していました。結果は1995年のASHに送ったのですが誌上発表になってしまい、そのまま打っちゃっていました。今思うと、結構いい線いってたかもしれません。藤本先生には申し訳ないことをしたと、今日改めて反省したのでした。

とはいえ、この論文のストーリー性、いいですね。読後感が爽やかでした。

 

#506抄読会スライド.pdf
PDFファイル 1.4 MB

■第509回■ 「小児の多重がんについて」

 

真部です。明日からASHですね。今年はどんな話題が登場するか、楽しみです。

今回はまたしてもSt. Judeからですが、小児の多重がんについての重要な論文を取り上げました。

 

Wang Z, et al.

Genetic risk for subsequent neoplasms among long-term survivors of childhood cancer.

J Clin Oncol 2018;36:2078-2087.

 

担当は卒後1年目の小柳采良先生です。小柳先生が作ってくれたまとめを添付します。

 

(真部解説)

St Judeのgermlineといえば、皆さん、Downing JRらによるNEJMのペーパーを思い起こすことでしょう(Zhang J. N Engl J Med 2015;373:2336-2346)。そのペーパーでは1120人の小児がん患者の発症時の検体を用いてcancer predispositionと関連するgermline遺伝子変異(と当時は呼んでいた)が調べられました。結果は95人(8.5% )で変異があり、多い順にTP53(半数は副腎皮質腫瘍)、APC、BRCA2、NF1、PMS2、RB1、RUNX1などが含まれました。白血病でも4%、脳腫瘍では8%、ユーイング肉腫では10%で変異がみられたという結果は衝撃的でした。ただし、そのペーパーでは二次がん、あるいは多重がんについては述べらていませんでした。

今回は、趣を変えて、5年以上生存している小児がん患者3006人から新たにDNAを採取し、WGSを行いました。解析時の年齢の中央値は35.8歳(7-69歳)と高く、さすがSt. Judeです。ただ、白人が83%と大部分を占め、疾患も白血病が32%、脳腫瘍は11%、リンパ腫は19%(うちホジキンが13%)と、現在のアメリカの患者の人種構成とは異なっています。また日本に比べてホジキンが多く、そのホジキンに二次がんが多いのは有名だったりで、かなり特徴のある集団ではあります。

結果は3006人中、439人(14.6%)で 多重がんが.みられました。興味深いのは、多重がんのことをsubsequent neoplasms (SN)と言っています。二次がんはよくsecond malignant neoplasms (SNM) と訳され、紛らわしいですが、要は二次のみならず、三次などの多重がんという概念なのでしょう。家族性がんを引き起こす、あるいは引き起こしそうな(pathogenic or likely pathigenic: P/LP)遺伝子変異(60種類に限定した)は3006人中、175人(5.8%)でみられ、多い順にRB1、NF1、BRCA2、BRCA1、TP53など、32種類ありました。

このあと、どんな腫瘍がSNとして起こったか、放射線照射の影響があったかなどが述べられています。大雑把に言うと、乳がん、皮膚がん(メラノーマ以外)、甲状腺がんが多かった。全体としては照射有りの場合には遺伝子変異の影響はなく、照射無しの場合には遺伝子変異の影響が大きい。乳がんでは照射の影響が大きい(ホジキンを思い浮かべてください)。肉腫(大きなくくり!)でも照射の影響が大きいが、甲状腺がんではどちらとも言えない、など。薬剤としては乳がんはアンスラサイクリン系、肉腫はアルキル化剤の使用と関連がありました。

なお最後のFig 4に円グラフが6つありますが、総数3で円グラを描くなど、素人的です。この辺、いつもながらJCOは通すと決めたペーパーには甘いですね。

とはいえ、極めて重要なペーパーではありますが、皆さんは、「ちょっと待ってくれ。St. Judeのお家芸、MDS/AMLはどうなっているのか」という疑問を持たれると思います。それはSupplementのTable A3にあるのですが、なんと、SMの中で、AMLはわずか1例、MDSは0です。つまり、二次性MDS/AMLはあまりにも予後が悪かったということなのでしょう。それがこの論文の大きな限界だと思います。

先日のSIOPに際して熊本班の会議があり、アジア地区でgermline問題をどのように扱うかが議論されました。日本国内の研究もまだ始まったばかりです。民族差は当然あるでしょう。みんなで考える時期に来たのだと思います。熊本先生、石田先生、コメントをお願いします。

 

#509抄読会.pdf
PDFファイル 2.2 MB

■石田也寸志先生からのコメント■

 

愛媛県立中央病院小児科の石田です。
真部先生、貴重な情報をありがとうございます。
まだこの論文を読んでいないので詳細なコメントは避けますが、今回の対象症例が5年以上生存していた小児がん症例であることに注意して下さい。二次性のAML/MDSは我々が調べたコホートでも、ほとんどの症例が原発がんの診断後5年以内に発症し早期に死亡してしまいます。その意味では、5年以上生存していた(特にEFS)だと、ほとんどの二次性のAML/MDSは抜け落ちてしまいます。
その意味ではCCSS研究のように、5年以上生存していた症例を対照としたサバイバー研究では、二次がんの全貌はとらえていないという点を知っておいて欲しいと思います。
我々のコホートでは、その点を補うため二か月以上生存した症例を対照に検討しています。
その上で5年以上生存した症例と比較したりしています。下記論文のdiscussionの第3パラグラフです。参考になれば幸いです。より詳細にはsupplemental appendixに示しています。参考になれば幸いです。
Ishida Y, et al. Secondary cancers after a childhood cancer diagnosis: a nationwide hospital‑based retrospective cohort study in Japan. Int J Clin Oncol (2016) 21:506–516

■恒松由記子先生からのコメント■

真部先生
JCOの論文と解説有難うございました。
熊本班小児の遺伝性腫瘍の班でお世話になっている恒松です。
St Judegermline 解析今度は二次性腫瘍版ですね。 
膨大なデータをサプリメントを含めてざっと見ました。間違っていたらご指摘ください。
放射線照射群が、特に乳がんの発生で、特にP/LPを持つ者に早期に出ていることが注目されます。照射して最も早期に発症した乳がんは2例のTP53 バリアントの保有者だったのか知りたいところです。
Meningioma もほとんどが照射群からでていること我々も実感しますね。また日本人にはあまりありませんが非メラノーマ性皮膚がんも照射群からでていて、とくにP/LP群からでています。
サプリメントの表SJCPG60Survivor のサンプルからP/LPが認められものが遺伝子毎に分けて、最初の小児がん腫が出てます。RB1では大部分がRBから、APCの4サンプルのうち二つがhepatoblastoma 、NF1の22サンプルのうちほとんでがCNSであったことは納得がいきます。ミスマッチ修復遺伝子のうち、MSH6では6のうち4が血液腫瘍、PMS2の4つのうち全部が血液腫瘍であることは注目に値します。
SIOPの前日に熊本先生が招集した Cancer Predisposition meeting のときに 例のNEJMの論文の話が出て、Sharon Plon 先生はあれはバイアスだらけ、Garret Brodeur先生はそれらのgermline mutation が各小児がんの発生にどうやって寄与しているのかはわかってない。といってました。
ちなみに、私事ですが、昔の症例ですが、ユーイング肉腫のあとAMLで血縁者間BMTを行った後、長期生存して、今は放射線科医として働いている方がいます。遺伝検査については、TP53も調べていませんが。
St Jude のコホートからはまだ成人のがんが乳がんのほかほとんど見られて内容ですが、本文にあるように今後末長いフォローアップが大切ですし、家族歴のフォローアップ中にも再度とることが重要ですね。

■第485回■「急性白血病におけるMLL再構成」

 

平林です。第485回聖路加抄読会です。取り上げました論文は

 

The recombinome of acute leukemia in 2017, Leukemia 2018, 32, 273-284

 

です。初期研修医1年目の中込雅人先生と読みました。

 MLL再構成のあるALLとAMLがそれぞれ入院したのもあって取り上げてみました。MLLはKMT2Aとも呼ばれていますが、MLLの方がやはり馴染みがありますよね。多数のMLL再構成白血病を集め特徴を探した論文ですが、叙述的な展開で長文になっております。予後と関連したデータは直接触れられていません。なお2013年にも同様の内容で発表されており、そのアップデートになります。

 2003年~2016年の臨床データを有する2345例のMLL再構成が集められました。

 まず年齢構成の検討です。ご存知の通りMLL再構成ALLは乳児に多く、MLL再構成AMLは好発年齢のPeakはありません。パートナー遺伝子を見ていくと、ALLではAF4(57%)、ENL(18%)、AF9(13%)でした。一方AMLではAF9(30%)、AF10(16%)、ELL(11%)でした。AMLのFAB分類別では例えばM0ではELLが全く見られないなどの偏りもありましたが、そもそものMLLをもつAMLの発症数はM5, M4が多く、それ以外については比較的まれでした。

 続いてはMLL切断点の検討です。2192例(94%)の症例ではMLLエクソン9~11の間に切断点がありますが、全体では特定の決まったホットスポットが存在するわけではありません。しかし臨床データ別にみると、たとえばAF6とのfusionでは、MLL intron9の切断点が多く、乳児ALLのAF4、ENLとのfusionでは、MLL intron11での切断点が多いといった特徴がありました。それぞれの融合タンパクが持つ特異的な機能があるからこそ、このように病型ごとに好発する切断点が異なってくると考えられます。また年齢でみても切断点の偏りがあることが判りました。この後、MLL融合タンパク質が転写を活性化するメカニズムは複数あり、その点について紹介されておりますが難しいです、、。MLL融合タンパクの機能的な面については、臨床血液に日本語の総説もありますのでご参照頂ければ幸いです。

 テーブルにはこれまでに報告された合計135種類のMLL fusion全体像がまとめられています。そのうち84種類はfusionによってコドンのずれが生じないin frameパターンでした。10種類はfusionでコドンがずれて翻訳される out of frameパターン、6種類はパートナー遺伝子が見つからないものがあり、これらのMLL fusionによる病的意義は未知数です。残りの35種類は染色体レベルにとどまり、まだ分子レベルでの詳細な検討は成されていません。

 小集団としてT-ALLに注目するとAF6, ENLが多く見られたこと、治療関連白血病ではAF9が多く、他の病型ではみられないMLLが多かったなどとあります。

 Discussionです。2005年のPNASで発表されているlong-distance inverse PCRの手法を用いており、これを用いるとDNA上の切断点まで特定することができます。NGSによるRNA seq全盛期ですが、この手法でDNAの切断点まで求めることでMRDとしても使用できるメリットを強調しています。約100種類にも及ぶMLL fusionをその機能も含めて適切に分類し、新たな治療標的と出来ることが今後の目標であると結ばれています。

 ところで聖路加の自験例(非登録例)なのですが、Ig/TCRのMRDは陰性になったのですが、融合遺伝子のmRNAコピー数は陽性が続いています。やはりDNA切断点のMRDも見てみたくなりますね。

 以上有難うございました。

#485抄読会スライド.pdf
PDFファイル 2.3 MB

■第483回■「germlineのIKZF1変異と小児ALLに対するリスク

 

 

真部です。今回はわが友Mullighan(抄読会の上での友で、実際はさほど親しくはありません)の十八番、IKAROSの新しい研究を取り上げました。担当は医学部を卒業したばかりの内科系1年目レジデントの山原直紀先生です。聖路加にとっての山原君は日ハムにとっての清宮、エンゼンルスにとっての大谷のような。。。いずれにせよ、この若い先生がみごと、この長い長いCancer Cellの論文(12ページもある)を読み解いてくれました。今時の若者は優秀ですね。まとめを添付します。

なお、嬉しいことに、3月のTCCSGの例会で講演してくれたわが友、吉原宏樹先生もco-authorに名を連ねています。このペーパーはfacebookへのMullighanの投稿で知りました。そういう時代なのですね。

 

Churchman ML, et al.

Germline genetic IKZF1 variation and predisposition to childhood acute lymphoblastic leukemia.

Cancer Cell, in press

 

(真部解説)

IKZF1についてはみなさんも耳タコでしょうね。前回の第481回(第477回)抄読会でもIKZF1plus ALLは予後が悪いというBFMの論文が取り上げられていました。

 

IKZF1はリンパ系の分化に関わる転写因子であるIKAROSをコードします。今までの知見としては、

1)IKZF1のsomatic mutation (deletion)を有するALLは予後が悪い。Ph+ALLの80%以上でIKZFのsomaticな変異がみられる。

2)ALLのsusceptibilityを調べるとARID5BなどとともにIKZF1のSNPはALLの発症と関連がある。KevinらのTCCSGの研究でも示されました(第473回抄読会)。

3)原発性免疫不全(PID)の中のCommon variable immunodeficiency (CVID)でIKZF1の変異を有する患者が報告され始めた。昔St. JudeにいたConleyのNEJMの2016年の論文は第388回抄読会で取り上げました。その中に2例、ALLになった症例がいました。ついで2017年に東京医科歯科大の金兼弘和先生のグループがIKZF1のgermline変異がさまざまな免疫異常(B細胞の欠損から膠原病まで)をきたすことを報告しました(Hoshino A. J Allergy Clin Immunol 2017;140:223-231)。

以上より、IKZF1がからんだ家族性ALLがいてもおかしくない、とはみんなが思っていたことです。

 

さて、この論文ですが、まず、ドイツの家族性ALLの1家系においてIKZF1のgermline variantaionが同定されました。患者さんは5歳発症のPh+ALL。そのおじが4歳時にALLになって死亡したが詳細は不明。残りの4人の親族で同じvariationがみられたが、リンパ球の減少や免疫グロブリンの異常はあったが臨床的な問題は起きていない。がんとしての浸透率は低いといえる。

 

ついで、膨大な患者で網羅的な解析が行われました。

COGのハイリスクB-ALLの2225例、COGのハイリスクと標準リスクB-ALLの1634例、COGの標準リスクB-ALLの274例、そしてSt. Judeの全タイプのALLの830例の計4963例の解析。これらの患者集団にはもちろん偏りはあります。たとえば、T-ALLが少ないとか、ローリスクが少ないとか。でも、5000例あまりの小児ALLのgermline検体が網羅的解析に回っているというのは恐るべきことです。

結果は0.9%の43例でIKZF1のcoding領域のvariationが見つかりました!なお、今回の論文ではmutationということばは徹底的に排除され、すべてvariationとされています。

各variationは正常コントロールでは0%または最大でも0.001ということで、これらはSNPではなく、いわゆる稀な変異(失礼!)として扱ってよいと思われます。

Variationは27箇所でみられ、25はミスセンス、2はナンセンスでした。ホットスポットと言われるような部位はありません。患者のプロフィールには特別なものはありません。本文(5ページ目の30行目くらい)にはhigh hyperdploidが多い(21例中8例、38%)とありますが、付録の表(Table S2)をみると圧倒的に多いのはB-otherです(添付しましたが、小さくて読めないかもしれません)。

というわけで相変わらず、このような雑誌では見たい情報は付録に入っていますね。そのかわり、実験結果は詳しく記載されています。

1)今回のvariation部位は多岐にわたるが、いずれもheterozygousであり、homozygousのものはなかった。

2)IKZF1の構造上、DNA結合に関わるN末端側のzinc fingerとdimer形成に関わるC末端側のzinc fingerに作用は分かれるが、今回のvariantsはその部位から想像されるような異常が起こっていた。

3)IKZF1のvariationがあるとIKAROSの局在に変化が起こり、核内でなく、細胞質に存在することが多くなる。なんか、TP53に似ていますね。

4)IKZF1にvariationがあると細胞接着が亢進し、またマウスの実験では骨髄のnicheへの接着能も亢進する。

5)variationをもつ細胞株を用いて薬剤感受性試を行った。dasatinibとdexamethasoneに対する抵抗性が上昇するvariantがあった。またマウスへの移植実験でも生存に差がみられました。ただ、in vivoでのdasatinibの作用はよくわからず。

とにかく、莫大なエネルギーがつぎ込まれた仕事です。

 

以上から、これら27種類の部位の、うち22種類は機能解析で意味のありそうなdamagingなもの、残り6(5+家族例の1例)種類はbenignなものと考えられたが、実際、臨床的にはその両群には差はありませんでした(Table S3)。またGWASによるさまざまなSNPデータをみたがそれも特定の所見はありませんでした(Table S4)。なお、COGもSt. Judeも実際の患者の家族歴などは不明でした。

 

とにかく、大きな研究です。MulliganとJun YangらSt. Judeの面々が総力を挙げています。各症例のRNA seqのデータなども惜しみなく出しています。この論文の面白いところ、あるいは限界は、もちろんIKZF1のgermline variationの持つ意味です。家族例は1家系しかないのでなんともいえませんが、たとえばTP53のような、germlineはhetro、somaticにはhomoというようながん抑制遺伝子とは異なります。BRCA(FANC)のような役割なのかもしれません。これをpredispositionと呼ぶかどうか。おそらくpredisposeの概念もどんどん広がっているので、現状ではそう呼ぶのかもしれません。一方で、これらのvarriationにより、IKAROSの作用は減弱します。今回の機能解析では、DNA結合が障害される、IKAROSの局在が変わる、骨髄内でのhomingに影響が出る、薬剤耐性になる、などの機序が示されました。そうなると実際のところ、それらは予後に影響するような気はしますが、ALLが起こりやすくなることを説明しているとは思えません。このあたりは矛盾しないのか。

 

ともあれ、あまりにも大きなペーパーなので、私たちの読みも十分でない、あるいは、まちがって解釈している可能性も高いです。吉原先生、解説をお願いします。

#483抄読会スライド.pdf
PDFファイル 2.7 MB
#483抄読会スライドTablesSupple.pdf
PDFファイル 576.3 KB

■吉原宏樹先生からのコメント■

 

真部先生、TCCSGの皆様、

 いつも大変お世話になっています。今回の論文を取り上げて頂き、感謝申し上げます。真部先生の詳細な解説の後で恐縮ですが、ご指名ですので僭越ながら、議論になりそうな部分を中心に、少しだけ書かせていただきたく存じます。

 今回の論文は、Yang先生のラボのgermline解析技術と、Mullighanラボの機能解析のタッグから生まれました。筆頭著者のMichelle Churchmanは、Mullighanラボのスタッフマネージャーで、研究に関して実に博識であり、女性研究者のロールモデルの様な方です。これまでに、IKZF1に関するペーパーをいくつか出していますが、その続編になります。

Churchman ML et al., Efficacy of Retinoids in IKZF1-Mutated BCR-ABL1 Acute Lymphoblastic Leukemia. 2015 Cancer Cell.

Churchman ML et al., Synergism of FAK and tyrosine kinase inhibition in Ph+ B-ALL. 2016 JCI Insight.

 真部先生のご指摘の通り、今回の論文で焦点になるのは、IKZF1をtumor predisposition geneと呼んでいいものか、という事だと思います。今回のIKZF1は、GWASを通して見つかったものではありません。またTP53の様に、既知で家族性発がん症候群として知られているわけでもありません。

 そこで、tumor predispositionについて、Michelleに伺いました。それを考える上で、IKZF1のgermline variantと同じ変異を293T細胞やpre-B細胞に導入し、機能が失われていることに、注目して頂きたいです(Table 1の最右列)。論文では、みられたgermline variantによって生じるIKAROSの機能異常を詳細に紹介しています。Germline variantだけでは発症しないことは、分かっており、更なる多段階を経て白血病に至ると考えられます。さらにCharlesにも尋ねたところ、次のように回答されました。

“我々のみつけた家系、および過去の論文(Kuehn HS. Loss of B cells in patients with heterozygous mutations in IKAROS. N Engl J Med 2016;374:1032-1043、第388回抄読会)を参照する限り、IKZF1のgermline variantは、白血病、免疫不全症へのpredispositionを有する。Exome Aggregation Consortium databaseでは、germline variantが予想より頻回にみられた。また、PAX5のgermline mutationは、散発例はなく2家系においてのみ見られた。以上から、IKZF1にtumor predispositionがあると考えてよいであろう。”

真部先生の仰る通り、TP53などと同等に扱うことには躊躇してしまいます。仮に、ある患者家系に今回のIKZF1 germline variantの方が見つかったとして、どのように説明すべきなのか悩ましいです。ただMichelleによる、膨大な各variantの機能解析の結果を照らしあわせてみると、腫瘍発症にはやはり関わっているのではないのか、と想像してしまいます。

 Germline variationが正常コントロールでは0%~0.001%ということから、これをSNVとして扱うか、稀な変異として扱うか、という議論がありました。こちらもCharlesに尋ねたところ、区別することに重要性はあまりないと思われ、“変異”では一般的に機能異常を暗示することから、今回は慎重に“variation”という言葉を使ったとのことです。ちなみに、normal controlでのmaximum allele frequencyが0.0012であったG337Sのvariantについては、コンピュータの予測ではbenignに分類されたことから、正常variantか否か議論になりました。しかし、機能が失われていることを確認できたため、以後も詳細な解析を行いました。

 サブタイプとの関連についてですが、variationのあった症例ではB-othersが多かったのですが( Table S2 )、特徴的な変異等との関連はまだ分かっていないそうです。

 In vivo studyでdasatinibを用いていますが、IKZF1欠失におけるin vivoでの作用については、作用機序を完全には示しているわけではないのですが、選考論文があります(Churchman et al., Cancer Cell. 2015)。IK6 deletionがあると、dasatinib投与の効果が減弱し、IKZF1 haploinsufficiencyがそれを増長します。これらの阻害は、STAT5やCRKLのリン酸化には影響していないことから、ABL1を通して生じたものではなく、dasatinibが直接的に阻害したと考えられます。

 以上、簡単ではありますが、追記させて頂きました。稚拙な解説ですが、どうかご容赦ください。

 

 

■真部淳先生からのコメント■
吉原先生
早速のお返事をありがとうございます。
Mullighanの説明が完璧にはわかりませんでしたが、新たなタイプのpredispositionと考えてよさそうですね。
先生が担当したのはcell adhesionのあたりですか?
■吉原宏樹先生からのコメント■
お返事ありがとうございます。
Mullighan先生のpredispositionである主張は、ALL患者検体の機能解析に基づく部分が強く、正常集団の裏付けが不十分かもしれません。
理想としてはGWASを用いて、IKZF1 variant/mutationがSCID, ALLの発生につながることを証明する必要があるのだと思います。
今回、寛解時骨髄の検体があったため、clonal hematopoiesisを否定するためにもstromal 細胞のみを培養で増やしgermline DNAを抽出し解析する、という事を担当しました。
私としてはcell adhesionにも興味があり、その手法をMichelleに教わっています。
■真部淳先生からのコメント■
ありがとうございます。
やっぱり新たな理論を作っていく現場はexcitingな雰囲気があってよいですね。
先生もこれからも頑張ってください。

 

 

■金兼弘和先生からのコメント■

 

真部先生とは少しだけdiscussionしていたのですが、皆様にもお知らせします。

私たちはIZKF1のgermline mutationがCVIDをきたすことをNIHのグループに遅れて発表しましたが、基本的には彼らと同様にhaploinsufficiencyで生じることを証明したつもりでした。

実はその中の1例はカリニ肺炎の既往があり、臨床的にはCVIDとは異なることに気づいてはいましたが、実験的には他の症例とほぼ同じ結果であったため、そのままhaploinsufficiencyとして報告しています。

その後ESIDでネッケルのグループがIKZF1でカリニ肺炎を合併した私たちの1例とよく似た2例を報告しており、遺伝子変異部位が同じであることに気づき、症例を集めて解析しようという話になりました。

その後ネッケルだけでなく、NIHでも同様の症例があることがわかり、最終的にはIKZF1がdominant negativeに働いて複合免疫不全症をきたすという結果にたどり着きました。先日JCIにacceptされたとの連絡をいただきました。

機能解析がいかに重要かということですね。WESで簡単に変異が見つかる時代になりましたが、機能解析をきちんとできるラボでないとtop journalには届かないということです。

■真部淳先生からのコメント■

 

金兼先生

すごい発見ですね。

やはり、SCIDになる遺伝子variantは、本物の「変異」と呼べそうですね。


概要 | プライバシーポリシー | Cookie ポリシー | サイトマップ
Copyright c Tokyo Children's Study Group. All rights reserved.