■第417回■

聖路加平林です。取り上げました論文はGermline activating TYK2 mutations in pediatric patients with

two primary acute lymphoblastic leukemia occurrences, Leukemia, 22 November 2016です。研修医1年目の鈴木隆宏先生と一緒に読みました。今話題のALLにおけるGermline異常、Genetic predispositionについての内容でオランダのグループからの報告です。

 

 毎度出て参りますが、第372回聖路加抄読会(Germline Mutations in Predisposition Genes in Pediatric CancerN Engl J Med. 2015)でも取り上げましたように小児がんにおいて生殖細胞系列がクローズアップされました。小児ALLにおいては369回聖路加抄読会で森山先生が報告したETV6変異も記憶に新しいと思います。

 著者たちは複数回腫瘍を発症した症例、とくに原発が同じ臓器、すなわち白血病を2回発症した場合は、安易に再発と判断してしまっていたのではないかとの考えに至り、2回白血病を発症した5例について網羅的解析を行って新たなGermline異常を同定しました。その5例中4例はT細胞系ALL2回、1例はB細胞系ALL2回発症しています。いずれの症例も1回目と2回目の発症の間は5年以上の間があります。

 まず前提として1回目と2回目の白血病は、Immunoglobulin/T-cell receptorの遺伝子再構成が異なっていることや、共通する同一の体細胞遺伝子変異がないことから、起源は全く別物であることを確認しています。

 次に1回目と2回目の体細胞変異の詳細を見ると(Table1)、患者3では、変異部位は異なるのですがPTEN変異を繰り返したり、患者4でも変異部位の異なるPHF6変異を繰り返したりと、同じ遺伝子に体細胞変異を生じくるのは、やはり何らかの素因があるのではないかと考えられます。

 次にGermline変異に注目し病的意義のありそうなものをみました(Table2)。そうすると複数の患者(患者1と患者5)でみられたものが、TYK2でした。以降TYK2に注目して話が進みます。TYK2JAKキナーゼファミリーに属し、T-ALL発生に関わることが報告されています。

 90例のT細胞系ALL338例のB細胞系ALLTYK2変異をスクリーニングしましたが、報告のないバリアントが1つ見つかったのみでした。患者1と患者5で見つかったTYK2変異のあるコドンは近接しており、DPGモチーフという重要な部分に蛋白の立体構造を変化させます。他のJAKキナーゼファミリー(JAK1,JAK2,JAK3)と相同性がある部分で塩基配列が同じです。一方、先ほどの報告のないバリアントはJAKキナーゼファミリーでは相同性がなく、病的意義がないと考えられました。

 機能解析としてHEK293細胞に変異を形質移入しました。今回の患者1と患者5の変異ではTYK2の自己リン酸化が活性化され、下流のシグナル経路であるSTATの活性化も確認されました。さらにJAKキナーゼ阻害薬で自己リン酸化とSTATの活性化が抑制されました。

 Discussionとして、TYK2Germline異常の影響はGWAS解析などで自己免疫、免疫不全症で知られていたり、ホモの変異はHyper-IgE症候群でも知られていることから、TYK2変異の部位やタイプで表現型が異なると思われます。今回の結果ではTYK2以外にも面白そうなSomatic,Germline変異が得られていますが、今後の検討課題です。

 最後になりますが、患者1はT細胞系ALLなのですが、実は患者5B細胞系ALL2回繰り返した患者でした。B細胞系ALLにおけるTYK2の関与についての深い考察はありません。T細胞系ALLTYK2については山梨大学の赤羽先生が本年の小児血液がん雑誌に寄稿して下さっております。

 研修医1年目の先生が素晴らしい添付を作ってくれました。彼は病棟ではちょっとつまらなそうな顔をしていたのですが、この抄読会を担当したことで分子生物学が身近になり本当に面白かったと別人になっていました。臨床でもやる気を起こさせるように精進したいと思います。

 

 

■第415回■

聖路加の長谷川です。毎度おなじみ抄読会報告です。

先日、平林が報告したDUX4再構成ALL論文を皮切りに、St. JudeからNature論文が連発しています。

その中から今回はCBF-AMLに関する論文を選びました。

担当は広尾の日赤医療センターから期間限定(昨日が最終日)で研修に来られていた西袋剛史先生です。

 

The genomic landscape of core-binding factor acute myeloid leukemias.

Faber ZJ, Chen X, Gedman AL, Boggs K, Cheng J, Ma J, Radtke I, Chao JR, Walsh MP, Song G, Andersson AK, Dang J, Dong L, Liu Y, Huether R, Cai Z, Mulder H, Wu G, Edmonson M, Rusch M, Qu C, Li Y, Vadodaria B, Wang J, Hedlund E, Cao X, Yergeau D, Nakitandwe J, Pounds SB, Shurtleff S, Fulton RS, Fulton LL, Easton J, Parganas E, Pui CH, Rubnitz JE, Ding L, Mardis ER, Wilson RK, Gruber TA, Mullighan CG, Schlenk RF, Paschka P, Döhner K, Döhner H, Bullinger L, Zhang J, Klco JM, Downing JR.

Nat Genet. 2016 Oct 31. doi: 10.1038/ng.3709.

 

相変わらず共著者が多いですが、ドイツのウルム大学内科との共同研究のようです。

前述のDUX4論文で第一著者の座に収まったZhangは今回も共同責任著者になっています。

ラストオーサーはMullighanの親分のDowningです。

 

対象は小児&成人(それぞれ87&78例)のCBF-AMLで、t(8;21)に由来するものが85例、16番染色体逆位ないし染色体内転座に由来するものが80例でした。

全ゲノム/エクソームシーケンスで1症例あたり平均9.86個の遺伝子変異を検出していますが、CBFB-MYH11よりもRUNX1-RUNX1T1の方が(7.74 vs. 11.86)、そして小児よりも成人の方が(7.44 vs. 12.56)変異数は多かったとのこと。

 

既報通りRAS経路に関係する遺伝子変異の頻度が高く、約2/3の例にNRASKITFLT3などの変異を認めていますが、これらの有無は特に予後に影響しませんでした。

CBF-AMLといえばKIT変異と予後が常に議論されており、昨年JCOに掲載されたt(8;21)AMLの国際共同後方視的解析では予後と関連しない、という結論に終わっていました(第371回抄読会 Klein K, et al. J Clin Oncol. 2015 Dec 20;33(36):4247-58)。

今回の解析ではKIT変異全体は予後に影響しないものの、エクソン17の変異に限るとEFSおよびOSの低下を認めました(Suppl. Fig 9)。

KIT変異自体はCBFB-MYH11にもありますが、エクソン17変異はRUNX1-RUNX1T1に多かったようで(15 vs. 3. CBFB-MYH11はエクソン8変異が多い; Suppl. Fig 7)、JPLSG AML-05症例を解析した徳舛先生の論文(Tokumasu M. Adverse prognostic impact of KIT mutations in childhood CBF-AML: the results of the Japanese Pediatric Leukemia/Lymphoma Study Group AML-05 trial. Leukemia. 2015 Dec;29(12):2438-41.)の結果と合致していました。

 

あとはいままで指摘されていなかった遺伝子の異常がいくつか見つかっています。

先日のSIOPT-ALLにおける関連も指摘されたMYC、そのMYCシグナルに関係するMGAMYCシグナルの下流にいるCCND2(サイクリンD2)、スプライシングに関係するDHX15、クロマチン修飾に関連する諸遺伝子 (ASXL2, EZH2, KDM6A, EED, SETD2, KMT2D, KMT2C, CREBBP)、コヒーシン関連遺伝子(SMC1ASMC3RAD21)、ZBTB7A(またの名をPokemonetc…

 

上記のうち、クロマチン修飾関連遺伝子であるKMT2C変異を有する4例中3例は早期再発、1例も寛解導入後芽球残存していたとのこと。

マウスモデルでは化学療法抵抗性に関係することが示唆されているそうですが、CBF-AMLの予後に影響を及ぼしている可能性はあるのかもしれません(4例中3例がRUNX1-RUNX1T1だったことも気になります)。

その他の変異は特に予後とは相関していなかったそうです。

 

診断時-再発時のペア検体があった8例では病期進行に際してのクローン変化がとらえられていますが、再発に特異的な異常などは特にみつかっていません。

 

個人的に興味深かったのはRUNX1-RUNX1T1ではさまざまな遺伝子の変異を有しているのに対し、CBFB-MYH11NRASKITなどの変異以外にリカレントな変異が少なかったことです。

同じCBF-AMLという括りでも比較的予後のよいCBFB-MYH11と、予後が良いものと悪いものが混在してそうなRUNX1-RUNX1T1の違いを垣間見たような気がしました。

これらの結果からRUNX1-RUNX1T1の層別化に繋がるとよいですね。

 

 

■第414回■

真部です。明日からJPLSG/班会議です。みなさま、忙しくされていると思われますが、よろしくお願いします。

今回は、わがTCCSGから出た記念すべきペーパーを取り上げました。担当は内科の1年目ジュニア研修医の内山竣介先生です。彼が作ってくれたまとめを添付します。

Kato M, Ishimaru S, Seki M, Yoshida K, Shiraishi Y,  Chiba K, Kakiuchi N,  Sato Y,  Ueno H, Tanaka H, Inukai, T, Tomizawa D, Hasegawa D, Osumi T, Arakawa Y, Aoki T, Okuya M, Kaizu K, Kato K, Taneyama Y, Goto H, Taki T,  Takagi M, Sanada M,  Koh K, Takita J, Miyano S, Ogawa S, Ohara A, Tsuchida M, and Manabe A: Long-term outcome of 6-month maintenance chemotherapy for acute lymphoblastic leukemia in children. Leukemia, in press

 

(真部解説)

ここ数年、TCCSGの会で話題になっていたL92-13extended studyL92-13E)のペーパーが、いよいよpublishされました。

TCCSGL92-13研究は1992年1995年に行われました。すべてのリスクで治療期間を1年間に短縮するという大胆な計画で、その結果、全体の5.5年EFSは60%で、SR(標準危険群)、HR(高危険群)、HEX(超高危険群)のいずれの群のEFSも約60%でした。再発した症例は再び寛解に入るものが多く、最終OSは全体では82%で、SRは91%、HRは80%、HEXは72%であったが、移植を受けた例が多かったというものです。これは計画当初の予想とはちがって問題でもあったのですが、きわめて重要な研究ということで、2000年にJCOに掲載され(Toyoda Y, et al. J Clin Oncol 2000;18:1508-1516)、TCCSGのレジェンド的な業績となったのでした。歴史とは面白いものです。

ところで、そのペーパーについては当初から、全体の結果はよくないとして、逆の見方をすれば60%はたった1年の治療で治ったのだから、それが誰なのかを示してくれ、とは、PuiSchrappeらから再三言われてきたことなのですが、当時はまだ核型の解析がうまくいっていなかったとか、そもそもETV6-RUNX1自体(1995年のpublish)はまだ見つかっていなかったとか、検体保存システムがなかった、など多くの理由でわからなかったのでした。わかっていたのは女児のEFSは男_児より有意に良好ということと、男児には睾丸再発がかなり多かったということでした。

 

しかし、時代が進むとテクノロジーが進歩するものです。初診時の骨髄スメアから回収されたDNAを用いて核型が分かる時代になったのでした。今回は132例の患者さんについて初診時のスメアからDNAが中央値で500ng得られました。このDNAを用いてgenomic microarrayにより染色体の数の異常が、target intron-captureと次世代シークエンスにより転座の同定(ETV6-RUNX1TCF3-PBX1BCR−ABLMLL再構成)が行われました。すごい技術ですね。

結果ですが、まず、今回は発症後中央値16.7年の予後がわかりました。12年のEFSは59%、OSは80%で、前の発症後5.5年の結果とほとんど変わりません。すなわち、この1年間の治療では、後期再発や後期のイベントがきわめて少ないことが示されました。女児は男児に比べて格段に予後がよく、核型ごとにみると、ETV6-RUNX1TCF3-PBX1DFS(治療終了後)は90%を超えて良好だったが、染色体51本以上のhigh hyperdiploidは57%と不良でした。ペーパーをお読みいただけると、このほかにも面白い情報が満載であることがわかると思います。

素晴らしいペーパーです。以前、私が教育講演などで使ったALLの予後因のスライドを添付しますが、その中に2004年にPuiN Engl J Medに掲載した総説にあった図があります。従来、ETV6-RUNX1high hyper diploidはよく知られた予後良好とされる2群ですが、今回、両者の予後に差が出たことは重要です。この両者においてさらに感度の高いMRD検出を行えばそれに差が出るのか、なども興味深いです。この点も含め、今後、Rondomaizationを含む前方視的研究が行われるべきでしょう。なお、10月のSIOPではこのTCCSGの結果をSteve Hungerが重点的に解説していたとのこと。日本でやらないと、アメリカでやられてしまう可能性もありますね。

 

今回の成果については、筆頭著者の加藤元博先生のアイデアうと実行力に負うところが大きいですが、各施設の若手を中心にデータやスメアを掘り起こしたことも大きかったです。教訓としては、臨床研究では患者の長期のフォローアップと検体保存はやはり重要であることです。とはいえ、この長期のフォローアップ中に、TCCSGの多くの先生(2000年の論文の筆頭著者の豊田恭徳先生を含む)が鬼籍に入ってしまわれました。そんな、こんなを思い起こさせる論文でした。

 

 

 

■第413回■

聖路加平林です。今回取り上げました論文は、Deregulation of DUX4 and ERG in acute lymphoblastic leukemia. Nat Genet. 2016 Oct 24.です。

 

この週末にJCCGの会議があり、その前に急ぎご報告できればと思ってアップさせて頂きます。あのSt.Jude Mullighanラボからのペーパーです。我らが吉原先生も共著者で重要なお仕事をされました。吉原先生に研修医時代にお世話になった現在6年目の松井俊大先生と拝読致しました。

 

BCP-ALLETV6-AML1Hyperdiploidのようにサブクラスに分類され、遺伝子発現プロファイルもそれぞれ異なります。その中においてERG欠失を伴うことが多く、特徴的な遺伝子発現プロファイルをとる群(ERG群)が知られておりました。このERG群がなんと第387回聖路加抄読会で取り上げました東大の間野先生のグループが報告したDUX4融合遺伝子と関連していたという報告になります。

 

結果です。まずFigure1a,1bにありますようにERG欠失を伴うことが多い特徴的な遺伝子発現プロファイルの群(ERG群)が示されます。Figure1c,1dに実際のERG欠失について示されていますが、多くがExon3-9領域の遺伝子内欠失となっています。このERG群のみにおいてDUX4の発現が高いことがFigure2aに示されます。またこれらの全例においてトランスクリプトーム解析やRT-PCRgenomic PCRvalidationを通してDUX4-IGHfusionが実際に生じたことが確かめられ、発現が高まっていることが示されました(Fgure2b-d)。ここにERG群改め、DUX4/ERG群が新たなに確立されました。

 

このDUX4/ERG群がどのようなgenomic landscapeを取るかということがFigure3に示されています(このFigure3だけで昔なら1本のNature geneticsになりそうですが)。IKZF1異常が36.7%で見つかりましたが、他のサブクラスのBCP-ALLと異なり予後不良とは関連ありませんでした。その他RASシグナルの異常、エピジェネティック調節の異常などに関連する遺伝子異常が見られています。

 

DUX4/ERG群のDUX4の発現が高まっていることは前述にありましたが、ERGの発現は変化ありません。しかしERGに転写の調節異常が生じていることが判明しました。Figure4aにありますように、通常と異なるExon6領域(Exon6  altと命名)が現れ、そこから転写が開始され、Figure4bのように短いERG蛋白 (ERG alt)が形成されます。それ以外にも異常な転写パターンがあり、無機能な転写もふくめて示されています(Figure4c)。こういったERGの転写調節異常はDUX/ERG群に特徴的に生じており、ETV6-RUNX1群やBCR-ABL群でみられたとしても、無機能な転写パターンのみ観察されます(Figure4d)。

 

DUX4/ERG群では、これまでに示したようにDUX4再構成とERG転写調節異常の二つの事象が確認されました。では一体この二つはどのように関連するのか。ChIP-seqによってDUX4ERGExon6 altに結合することが確認されました(Figure5a)、openクロマチン領域を特定できるATAC-seqでも同Exon6 alt部位にピークがあり、ERG altが発現していることを確認できます。DUX4異常によるDUX4の過剰発現が、ERGの転写異常をもたらしていると考えられましたが、これを証明するため、造血幹細胞にDUX4異常を形質導入したところ、通常と異なるExon6 alt によるERGの転写異常が生じました(Figure5b, 5c)。DUX4異常からERG転写異常という流れがわかりました。

なおERG欠失の位置づけについて説明しておくと、ERG欠失の多くはExon3-9の欠失になるので、Exon6  altは生じておらず、欠失のない ERGExon6  altが生じていることになります。ERG欠失は必須のものではなく、全例に生じているわけではありません。またサブクローンのみに欠失が認められたり、再発して欠失が顕在化したりという結果とあわせると、ERG欠失はsecondary eventと考えられます。

 

最後にWild-type ERGERG altの関係です。Transcriptional reporter assayではERG altWild-type ERGにたいして競合的に阻害していました。次のWild-type ERGERG altを比較したマウスの実験は、私はお手上げです。Lin- Arf-/- の細胞にWild-type ERGまたはERG altNRAS,IKZF1の異常を一緒に入れると、Wild-type ERGではマウスの中でerythromegakaryoblastic leukemiaに至るのに対して(文献25でも報告されている)、ERG altだとLymphoid leukemiaに至る結果になります(Figure6a-6d)。ERG-altが直接にリンパ性白血病を至らしめることができることが証明されました。

 

以上なんとか結果を述べました。大変なご苦労があったと思いますが、吉原先生、補足など何卒お願い出来れば幸いです。

 

 

■吉原先生からのコメント■

平林先生、松井先生、論文を取り上げてくださり、感謝申し上げます。また詳細に解説して頂き、ありがとうございます。僭越ながら、少しだけ補足させていただきたく存じます。

 

 今回の論文で新しい点は、

1. ERG遺伝子発現プロファイルを示すALLでは、DUX4/IgH融合遺伝子がみられる。

2. 腫瘍の特徴は異常蛋白(ERGalt)であり、DUX4の過剰発現によって同蛋白の発現が誘導され、リンパ系の腫瘍を発症させる。

ことを示したことにあると思います。

 

 過去の報告から、ERGは、巨核球系・赤芽球系前駆細胞で発現する、造血幹細胞の維持に必要、AML(成人)ではその発現が予後不良因子である、といったことが示されています。ALL発症におけるERGの役割については不明でした。

 これまで、ERGの欠失が多くみられる固有の遺伝子発現プロファイルをもつALLの一群があることは分かっていましたが、他にどのような異常があるかは不明でした。高リスクBCP-ALLの遺伝子発現プロファイルを分類したROSEクラスターでは、ERG欠失のクラスターは、IKZF1欠失やRAS変異があるにも関わらず予後良好である、と報告されています (Harvey RC et al., Blood, 2010)

そこで、54例のERG-ALLのトランスクリプトーム解析を行うと、すべての症例でDUX4/IgH融合遺伝子がみられました。さらに、RNAseqWestern等の解析で、ERGの異常蛋白が発現することが分かりました。

この異常蛋白の発現の仕方が特徴的です。ERGのイントロン6の特定のATGから転写が始まり、普通には見られないスプライシングをはさんでエクソン7以下の蛋白、ERGaltが発現します。ERG-ALLではERG欠失(エクソン3-73-9等の欠失)が半分以上の症例で見られるのですが、欠失はheteroに生じるため、もう片方のalleleは存在します。ERGaltは、正常alleleを利用して発現が誘導されるのです。

 DUX4融合遺伝子の検出とERGaltの発現が同時に起きていることから、両者の関係を調べました。まず、DUX4ERGaltの発現を誘導するかを検討しました。ChIP-seqでは、DUX4ERGのイントロン部位(ERGaltの転写開始部位)に結合することが示されました。また、臍帯血造血幹細胞、白血病細胞(ETV6-RUNX1陽性のReh細胞株)に対してDUX4を導入すると、ERGaltが発現することが分かりました。

 次に、ERGaltが腫瘍を発生させるかを検討するために、ERGaltを導入した血液細胞の移植実験を行いました。Lin-Arf-/-マウス未分化細胞にERGwtあるいはERGaltを形質導入し、放射線照射したマウスに移植すると、ERGwtは赤芽球形の腫瘍をおこし(Carmichael CL et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2012)、ERGaltはリンパ球系、bi-phenotypic、あるいはB-lymphoidの腫瘍を発症しました。すなわち、ERGaltALL発症に寄与していると考えられます。

今回の論文で明らかにすることができなかった事は、DUX4融合遺伝子がERGaltの異常発現を誘導する中、ERG欠失がどのように関連するかについてです。DUX4/ERG-ALL症例では、ERG欠失が必ずあるわけではありません。ただ、ERG欠失は、ヒト検体を移植したマウス、初発時と再発時を比較した再発検体のみ、で見られており、二次的な現象であることが推測されます。早期に起こった場合は、clonalに増殖し、ERG欠失症例となると考えられます。

 

余談ですが、ERGのプロジェクトはMullighan先生がポスドクの時から続けてきた、思い入れのあるプロジェクトでした。アクセプトされた時は、ボスであるJim Downingにあてて、” Jim - 12 years!”とメールで喜びを語っていました。

 

 

■第412回■

聖路加の長谷川です。毎度おなじみ聖路加抄読会報告です。

今回は支持療法に関する論文です。担当は外科系初期研修医2年目の栗原智樹先生です。

 

Strategies for Empiric Management of Pediatric Fever and Neutropenia in Patients With Cancer and Hematopoietic Stem-Cell Transplantation Recipients: A Systematic Review of Randomized Trials.

Robinson PD, Lehrnbecher T, Phillips R, Dupuis LL, Sung L. Sheehan W.

J Clin Oncol. 2016 Jun 10;34(17):2054-60.

 

2012年のJCOに小児FNに対するガイドラインが掲載されています (Lehrnbecher T, et al. JCO. 2012 Dec 10;30(35):4427-38.)が、小児がん領域におけるFNRCTが少ないこともあって、主に観察的データに基づくエビデンスレベルの弱い推奨に終わってしまっていたそうです。

本論文は最近のRCTの結果も踏まえ、FNに対する経験的治療についてのシステマティックレビューです。

詳細は栗原先生作の添付資料をご覧いただければと存じます(彼は外国生活が長かったのでオール英語のスライドです)

 

68の研究(3,892例でFN7,265エピソード)が解析され、多くは入院での経静脈的抗菌薬についての評価でしたが、一部は外来治療や経口的抗菌薬のみを対象にしています(添付スライド12-13)。本邦からは北大の市川先生の論文 (PBC 2011)と北楡病院の佐野先生の論文(PBC 2015)が取り上げられていました。

 

結果は以下の通りで、主にtreatment failureについての比較です;

 

・単剤投与 vs. アミノグリコシド併用

  差なし (添付スライド14-15

 

・抗緑膿菌ペニシリン単剤 (TAZ/PIPC) vs. 第4世代セフェム

→  差なし。しかし第4世代セフェムは抗菌薬使用日数が0.81日だけ少なかった(p=0.02)。第4世代セフェムとしては主にCFPMが用いられていました(添付スライド16-17)。

 

・入院治療 vs. 外来治療

対象となった4つの研究のうち3つは低リスクFN(予測される好中球減少期間が7日以内、臨床的に安定、合併症なし)についての研究でしたが、差なし。外来管理された低リスクFN例で感染症関連死亡は観察されませんでした (添付スライド18-19)。

 

・経口投与 vs. 経静脈投与

この比較も対象となった8つの研究のうち7つが低リスクFNについてでしたが、やはり差はなく、経口投与例で感染症関連死亡は観察されず(添付スライド20-21)。

 

CSF製剤の有無

→ CSF製剤は入院期間を1.42日短縮させたそうです (p <0.001) (添付スライド22)。

 

以上より、FNに対する抗菌薬は基本的には単剤投与でよさそう(耐性GNRの検出頻度が高い施設では併用も一考)ですが、何を用いるかについては施設で検出される細菌の感受性(アンチバイオグラム)を踏まえて考える必要があります。

以前にコクランレビューでCFPM使用例の死亡率が高いという衝撃的なレポートがあったようですが、今回のレビューも含めこれまでに再現されておらずCFPMの使用を制限する根拠にはならなさそうです。

一方、本レビューで第4世代セフェムの抗菌薬使用日数がゾシンに比べて0.81日少ないという結果が得られましたが、臨床的に意味のある結果ではないと述べられています。

同様にCSF製剤使用群での入院日数の短縮 (-1.42)も臨床的には意義不明と結論しており、統計結果に振り回されていない本レビューの姿勢には好感が持てます。

 

低リスクFNに対する経口抗菌薬による外来管理は有効かつ安全であることが示されました。

入院管理中心の日本ではコンサーバティブになりがちですが、患者さんの状態も踏まえて検討しても良いのかもしれません。

 

支持療法に関しては施設間の差異が大きいことはご存知のとおりと思います。

これまでもTCCSGセミナーなどで各施設の支持療法の比較が試みられてきましたが、FNの定義(リスクわけも?)、抗生剤開始基準、血培採取方法などを標準化したうえでTCCSG施設におけるFN管理について前方視的に調べてみるのも興味深いかもしれません。

 

■第410回■

真部です。みなさま、血液学会、お疲れ様でした。立派な血液内科の生成がたに伍して頑張っている若い小児科の先生たちをみていると、ジーンときてしまいました。僕も年をとったものです。さて、今回はSt. Judeから出たAMLの対する新薬の治験の報告を取り上げます。担当は3年目レジデントの山本薫先生です。彼女が作ってくれたきれいなまとめを添付します。

 

Alexander TB, Lacayo NJ, Choi JK, Ribeiro RC, Pui C-H, Rubnitz JE. Phase I study of selinexor, a selective inhibitor of nuclear export, in combination with fludarabine and cytarabine, in pediatric relapsed or refractory acute leukemia. J Clin Oncol, in press

 

(真部解説)

最近の白血病の新治療は、抗体療法あるいはCART細胞などの免疫を利用したものが多かったのですが、久しぶりに本流ともいうべき経口投与できる小分子薬剤が登場しました。exportin 1XPO1)は細胞の核からp53p73p21p27NPM1FOXOI-kBなどのたんぱく質を核外に排出する分子で、AMLを含む多くの悪性腫瘍細胞で発現が高いことが知られています。今回治験に用いられたselinexorKPT-330)はXPO1の阻害剤で、 in silico molecular modeling strategyにより見出されました。今回の論文のちょっと前にマウスを用いた研究成果もpublishされましたが(Etchin J, et al. Activity of a selective inhibotor of nuclear export, selinexor (KPT-330), against AML-initiating cells engrafted into immunosuppressed NSG mice. Leukemia 30:190-199, 2016)、なんと、last authorDana FarberTom Lookです。leukemic stem cellに効果があるというのが売りのようです。ただ、Lookは昨年末日本に来ましたが、こういう話はなかったような気がします。薬を作ったのはマサチューセッツのKaryopharm Therapeuticsで、今回の治験においては薬剤を無償で供与したようです。また、同社の社員は著者には入っていませんが、PK/PDは同社で行われました。Puiをはじめ、St. Judeの著者にはCOIはないようです。それにしても著者は少ないですね。わずか6人!ゲノム研究との違いが大きいですね。

さて、詳しくは山本先生のまとめを見ていただければわかるとおもいますが、この論文はstraight forwardです。

18人の難治性AML患者(1歳から19歳、10人はすでに移植を受けている)に対してDay1,3,8,10selinexorが単剤(Day1ITはある)で投与されました。まずDay15で評価を行い、selinexorは引き続きDay15,17,22,24に投与されますが、今度はDay15,16,17,18,19fludarabine (30mg/m2/d)とcytarabine2g/m2/d)が併用されます。ただし、病勢が急であればday15前にもfludarabinecytarabineを開始してもよいとのこと。selinexorの投与量は30mg/m2, 40mg/m2, 55mg/m2, 70mg.m2DLTがなければ増やしていきます。2人はfludarabinecytarabineを早く開始したので、有害事象などの評価が可能だったのは16人でした。

さて、その有害事象ですが、doseが少ないうちは無症候性の低Na血症と低K血症くらいで、大したものはありませんでしたが、最大量の70mg/m2が用いられた5人中2人で可逆性の小脳失調がみられました。MRIでも変化あり。このことからMTD55mg/m2に決定されました。と書けばなんともなさそうですが、textを読むとけっこう焦った感じもあります。Phase I試験はやっぱり大変ですね。なお、好中球の回復はmedianday49でしたが、最初の14日はselinexorの単剤投与であったことを考えると4914=35日は悪くないかもしれません。初発AMLECMでも35日くらいかかっていると思います。なお、G-CSFは用いられませんでした。

さて、Phase Iとはいっても治療反応が気になるところですが、驚いたことに7人がCR/CRiの入りました!CRiは輸血は必要だけど寛解ということです。2人はDay15ですでにCR、しかもMRDも陰性になりました。そのうち1例はt(6;9)という超難治性AMLです。最終的には11例が移植を受け、6例が生存中(312ヶ月)です。

このほかPKのデータがあり、selinexor単独でもfludarabinecytarabineと併用してもあまり変わりませんでした。PDとしては末梢血細胞(これはなんの細胞かは示さず)において、XPO1mRNAが増加したとあります。XPO1がタンパクレベルで阻害されると反応性にmRNAが上がるようですね。また、治療後の骨髄をみると芽球の減少のみならず細胞の分化もうかがえると書いてあり、スメアの写真も示されていますが、正直なところ、分化についてはわかりませんでした。

St. JudeにいたTom Lookが前臨床試験を行い、St. JudePhase I試験を行い、でもけっこう効果もあり、という絵に描いたようなストーリですね。

翻って国内の状況をみるに、国内で開発された新薬の治験はほとんどなく、小児がんの治験を全部ひっくるめても10件以下のようです(がん研究センターの小川先生による)。国内でも今回のような賢い治験ができる日が来ることを願って報告を終わります。

 

 

■第409回■

聖路加の平林です。取り上げました論文はBiochemical and imaging surveillance in germline TP53 mutation carriers with Li-Fraumeni syndrome: 11 year follow-up of a prospective observational study Lancet Oncol 2016; 17: 1295305 です。J2レジデント堀越先生と一緒に読みました。

Li-Fraumeni症候群(LFS)は生殖細胞系列のTP53変異を背景としたがん素因をもつ疾患です。 年代にLi先生とFraumeni先生が、がんを発症する濃厚な家系に注目し、年になって主因としてTP53変異が同定されました。第372回聖路加抄読会(Germline Mutations in Predisposition Genes in Pediatric CancerN Engl J Med. 2015)でも取り上げましたように小児がんにおいて生殖細胞系列のTP53変異がますます重要になっております。

問題となるのが、未発症の患者さんや一度がんを発症して治癒した患者さんのフォローをいかにして行うかというのが議論になっておりました。定期的なサーベイランス(血液検査、全身MRI、内視鏡など)の意義をいち早く訴えたのが、2011年のLancet Oncolで発表したトロントのグループです。今回はその続編になり、2004年の研究開始から最長11年間の観察期間を経ての結果になります。

このスタディではTP53変異陽性のLFS患者はサーベイランス群(サ群)か非サーベイランス群(非サ群)を自己選択できます。途中で群を変更することも可能です。サーベイランスの内容は、血液検査、全身MRI、頭部MRI、乳房MRI、マンモグラフィー、腹部・骨盤エコーと内視鏡から成ります。小児では乳房MRI、マンモグラフィー、内視鏡は行いません。

39家系、89人の患者さんを対象としました。49人が非サ群、40人がサ群を希望しました。非サ群19人は、途中で何らかの腫瘍が見つかったのを契機にサ群に移行しています。小児は選択権なくサ群に入りますが、発端者の小児で最初のがんを発症して、後日LFSと診断された小児は非サ群に入っています。両群の背景、性別や年齢などに有意差はありません。サーベイランスのコンプライアンスは良く、studyからの離脱者はいませんでした。

中央値32か月で、サ群59人のうち19人に40の非症候性腫瘍が見つかりました。一方で非サ群49人のうち43人に61の症候性腫瘍が見つかりました。腫瘍の見つかったサ群19人のうち16人(84%)が生存に対して、同じく腫瘍の見つかった非サ群43人のうち21人(49%)の生存に留まり、サーベイランスで初期病変や前がん病変を捉え、ひいては生存に貢献しているとのことです。1人で複数の腫瘍を発生する場合もあることから、サ群か非サ群での個々の腫瘍の予後という視点で、Figure1のカプランマイアーは書かれています。サ群で見つかった腫瘍は有意に予後が良いという結果でした。実際にサ群で見つかった非症候性腫瘍40の内訳がPanel2に記載されています。良性3例、低悪性度22例、悪性15例です。一方で非サ群の腫瘍の内訳が記載されていないのが不親切です。Table2から自力で数えますと症候性腫瘍61は、良性4、低悪性度4、悪性53になるかと思います。

 感覚的にはサ群で腫瘍が見つかる人がサーベイランスをしているにも関わらず、19人と少ないなというのが印象です。やはりランダム化されていない影響なのでしょうか。

サーベイランスを行ったことで偽陰性は2回(サーベイランスで捉えられず発症)、偽陽性(局所の外傷、炎症のため)は2回との結果でした。サーベイランスを繰り返すことでの精神的負担を評価はしていませんが、他の文献を引き合いに出しながら安心感が得られると論じています。Discussionでは副腎がん、乳がん、大腸がんなど個々のサーベイ方法について検討していますが、このトロントグループ以外にはPETCTを取り入れてサーベイを行っているグループもあり、何が最適のサーベイランスは常に検討がなされています。

今後、分子遺伝学の進歩により生殖細胞系列のTP53変異を有した小児の増加が予想されますが、サーベイランスがきちんと検討、整備されることは急務と考えます。今度のTCCSG総会でも遺伝カウンセリングの話題が取り上げられますので、皆様ぜひお越しください。

とりとめがなく申し訳ありません。この叙述的な文献を前に苦戦しました。

 

 

■第407回■

聖路加長谷川です。毎度おなじみ抄読会報告です。今回はちょっと血液・腫瘍学を離れてみました。

担当は6年目になって不思議な貫禄が漂う代田惇朗先生です。

 

Acetaminophen versus Ibuprofen in Young Children with Mild Persistent Asthma. Sheehan WJ, et al. N Engl J Med. 2016 Aug 18;375(7):619-30.

 

本論文は医療系ニュースを配信するMLなどでも触れられていたので、ご存知の先生もいらっしゃるかもしれません。かくいう私も馴染み深い薬についてのNEJM論文ということで飛びついてしまいました。

 

もともとはアスピリンやNSAIDsによる気管支攣縮がイブプロフェンを処方された小児(6ヶ月〜12歳)でも生じるのかを検証するRCTを行った際に、予想に反してコントロールアームのアセトアミノフェン群において外来受診を要する喘息症状が多発したことが最初の報告のようです (Lesko et al. Pediatrics 2002;109(2):E20)

その後、00年代を通じてアセトアミノフェンの使用は喘息の発症に関連するという報告が数多くなされ、Lancetにも乳児期のアセトアミノフェン使用がその後の喘息(のみならず鼻炎・結膜炎・湿疹なども)発症に寄与するだろうという論文が掲載されています(Beasley R, et al. Lancet 2008;372:1039-48)

肝心のメカニズムとしてはアセトアミノフェンによって抗酸化物質の産生が減り酸化ストレスによる炎症が引き起こされたりTh2細胞が活性化されたりすることなどが考えられているようですが、あまり明確には示されていなさそうです。

 

今回の論文は喘息コントロール治療を長期にわたって受けている12−59ヶ月の小児を対象に、発熱や疼痛などに対する頓用薬としてアセトアミノフェン(15mg/kg)とイブプロフェン(9.4mg/kg)のシロップ(味と見た目と量と包装を同じにして供給)の無作為割付二重盲検パラレル試験を行い、48週の間にステロイド全身投与を要するほどの喘息発作がどれだけあったのかを比較しています。

解析対象はアセトアミノフェン群 150vs. イブプロフェン群 148例です。両群の背景因子に差はなく、だいたい3歳くらいの、1年に6回ほどぜいぜいして3回くらい救外にかかっているような子どもたちです。

結論は、両群の喘息の症状の変化には差は認められませんでした。

興味深いことに解熱鎮痛剤の服用回数が多いほど喘息増悪頻度は増加しましたが、アセトアミノフェンでもイブプロフェンでも同等の増悪頻度でした。つまり解熱鎮痛剤そのものではなく解熱鎮痛剤を要するようなイベント(おそらく多くは気道感染でしょう)の方が喘息の増悪に関連しているということなのでしょう。そらそうだ、という気がしなくもありませんが。

ただし、解熱鎮痛剤の使用頻度中央値がアセトアミノフェンで7回、イブプロフェンで4.5回(統計学的有意差なし)ですので、この程度の服用がどれだけの影響を及ぼすのかという印象が残ります。試験期間が48週間と限られており長期的な影響についても明らかにされていません。

 

なんとも微妙な読後感を残す論文ですが、とりあえずはこれまで通りアセトアミノフェンを処方してもよさそうです。

 

 

■第406回■

真部です。台風がいっぱいきた夏も終わり、秋に入るかと思ったらまた台風の連続ですね。ひょっとして、南の国の雨期に相当するのでしょうか。。。

今回は、再発ALLの論文を取り上げました。担当は卒後5年目で先月までチーフレジデントだった瀬谷恵先生です。全訳を添付します。

Irving JA, et al: Integration of genetic and clinical risk factors improves prognostication in

relapsed childhood B-cell precursor acute lymphoblastic leukemia. Blood 2016;128:911-922.

 

(真部解説)

再発ALLの論文といえば、先月、長谷川先生が取り上げて物議を醸した名大小児科のものがありました。彼らは59例の名古屋地区の再発ALLの検体を次世代シークエンスで解析したもので、MEF2D-BCL9という新たな融合遺伝子が見つかったというものでした(Suzuki K, et al. JCO 2016)。今回の論文はUKの小児ALL研究の本家の一つがどこまで迫れたかという興味もあり、読んでみました。正攻法というか、Bloodに載りました(8月18日号)。

 

対象は有名なR3プロトコール研究(Parker C. Lancet 2010mitoxantroneが有効だった!)に乗って治療を受けた再発B前駆細胞型ALLBCP-ALL)の患者449人です。患者はまず、UKお得意のcytogeneticsFISH含む)によるリスク分類で分けられます。すなわち、good riskCYTO-GR)はETV6-RUNX1と高高2倍体(high hyperdiploidy: HeH)、intermediate riskCYTO-IR)はTCF3-PBX1IgH転座とB-others、そしてhigh riskCYTO-HR)はBCR-ABLKMT2AMLL)転座、near haploidylow hypodiploidyiAMP21TCF3-HLFから成ります。一方、clinical risk groupsも用いられています。すなわち、late(治療終了6ヶ月以後の再発)の髄外再発はSRIRlateでも骨髄に再発したもの、earlyで髄外単独または合併再発、その他はHRです。HRは移植、そのほかもはMRDによって移植が決まります。このうちSR+IRIntReALL2010でいうSRHRIntReALL2010HRにあたるといえば、皆さまにもおなじみと思います。というように、このペーパーの著者はBloodの読者を信じてか、細かい説明は省き、とにかく多くのデータを示しています。患者は2003年から2013年に再発した1歳から18歳の小児で、UKのみならずアイルランド、オランダ、オーストラリア、ニュージーランドから登録されました。

 

さて、このペーパーではこれらCytogeneticsでリスクが決まった患者をさらにclinical riskで分け、主にMLPAを用いて得られた遺伝子欠失と変異のデータを取り込み、予後との相関をみています。ですので、手法としてはさほど先端的ではありませんが、再発ALLとして患者数が多いことと、治療もR3という定評のある一つのプロトコールで行われたというのが売りです。

結果ですが、とにかく膨大なデータをなんとか表に押し込めているのですが、それをあまり起伏のない本文と照らして読むのがとても大変で、読み進めるのに根気というか、眠気覚ましが必要です。瀬谷先生はそれをほとんど全訳してくれたのは偉いです。

 

以下、この論文のメッセージを述べます。Cytogeneticsが可能だった427例中48%がCYTO-GRでした。ずなわち、再発例の約半分はETV6-RUNX1あるいはHeHでした!初発におけるCYTO-GRの割合より少し少ない程度です。そして、Figure 2にありますが、結局、初診時のcytogeneticsによるリスク分けは第1再発後の予後ときれいに相関しました。すなわち、CYTO-GRの5年Overall survivalOS)は68%ともっとも良好で、CYTO-IRは47%、CYTO-HRは26%でした。IntreALLでいうClinical SR(今回のIRにあたる)ではCYTO-HRの予後がきわめて不良でした。またClinical HRではCYTO-GRCYTO-IRCYTO-HRも予後は不良でした。この群では移植ではなく、他の治療が必要であることが示唆されます。

次にFigure 3Cytogenetics と遺伝子の欠失と変異がclinical riskとどのように相関するかが示されています。Clinical SRで有意に多かったのは、ETV6-RUNX1HeHETV6 deletionPTPN11 mutationでした。一方、clinical HRで有意に多かったのは、t(1;19)KM2AMLL)転座、haploidylow hypodiploidyt(17;19)TP53の変化、NRAS変異、NR3C1欠失でした。なお、B-othersSRにもHRにも多く、かなりヘテロな集団です。またCDKN2A/Bの欠失とIKZF1の欠失はSRでもHRでもかなり多く、やはりヘテロな集団であることが示されました。興味深いですね。要は、IKZF1欠失は再発の因子としてつとに有名ですが、いったん再発すると、もはや予後因子にはならないということなのでしょう。またt(1;19)は現在予後良好因子と考えられていますが、その一方、再発する症例の予後は不良ということです。早期再発が多いのです。TP53の変化はやはりclinical HRに多いのですが、今回はlow hypodiploidyはわずかに1例で、ほかはHeHETV6-RUNX1TCF3-PBX1KMT2Aなどでした。またTP53の変化は、germlineを調べた3例では陰性で、somaticのみの変化であった、とありますが、残りの26例ではgermlineは調べられていません。NR3C1欠失とBTG1欠失はステロイド感受性と関連するようだ。というように、この論文は、時間をかけてじっくり読めば、きわめて味わい深いものといえます。ただし、どんどん細かく場合分けをしていくと、当然ながらそれぞれの箱に入る症例数はどんどん小さくなってしまいます。

 

解説はこの辺で終えますが、St. JudeMullighanらの先駆的で圧倒的な成果は、それはそれですごかったのですが、いよいよ時代は移って、その大発見の意義を臨床的に明らかにすることが可能になってきました。TCCSGでも清河ラボからZNF384転座の膨大な知見が発表されましたが、それらは今回の論文には書かれていません。まだまだcomprehensiveな解明は可能ですし、また必要でしょう。またそれらは民族や人種によって異なるかもしれません。このUKの論文は、そのような文脈でとらえると、相当奥深く、面白いものだと思わされました。

 

■第405回■

聖路加平林です。取り上げました論文はClinical impact of minimal residual disease in children with different subtypes of acute lymphoblastic leukemia treated with response-adapted therapy.  Leukemia. 2016 Aug 18. です。初期研修医一年目の川口健悟先生と読みました。抄読会を失念していて3日前に論文を決定したのですが、しっかり読み込んで頂きました。

おなじみSt. JudeDr. PuiによるTotal XVMRDの結果です。2015年第339回聖路加抄読会でも取り上げられておりますが、この時はLancet OncologyDay19Day46MRDでのリスク層別化とWeek7, 17, 48, 120でのMRD結果を示したものでした。この際は染色体異常によるサブタイプに注目した解析がなされていなかったのですが、今回のペーパーはその点について報告しています。

早速結果ですが、まずDay19MRDでサブクラスごとの有意な結果をまとめます。サブクラス毎と言っても、ETV6-RUNX1HyperdiploidOther NCI standard-risk B-ALL, TCF3-PBX1, T-ALL, NCI high-risk B-ALL6サブクラスでの解析です。Table23を見て頂ければわかるのですが、各マスに当てはまる患者数が一ケタになる場合もあり、全体が482例での解析は限界かもしれません。

Day19 MRD0.01%以下のETV6-RUNX1Hyperdiploidは極めて予後がよく1.9%と3.8%の再発があるのみでした。一方、Day19 MRD0.01%以下でもNCI high risk B-ALL23.4%の再発率でEFS76.6%となっておりました。

hyperdiploidにおいてはDay19 MRD1%以上ある場合、再発率が23.5%、EFS76.5%でした。しかしほとんどがSalvageされOS90.0%で落ち着いています。一方でT-cell ALLNCI standard-risk B-ALLDay19 MRD1%以上あれば再発率55%と52%OS68%と76%と良くありません。

Day46MRDレベルはNCI standard risk, NCI high riskの再発率、予後をきれいに振るい分け、予測することができました。またDay46 MRDが陰性でもNCI high risk, T-cell ALLでは予後不良となる結果でした。

TCF3-PBX1は患者数が少ないためMRDによる有意な結果は出ていないのですが、全体として中枢神経再発が多いのでが、全例salvageされたという結果でした。

Discussionについては一言でまとめるならば、MRD評価は, より強い治療を必要とする患者を同定することと, 一方で本来必要のなかった治療の副作用を避けることで, ALL治療をよりいっそう効果的なものにするとのことでした。Day19におけるMRD評価⇒治療のde-intensificationに有用、Day46におけるMRD評価⇒NCI standard-/high-risk B-ALLの再発率を反映できるとのことです。

治療を減弱できるといっても、具体的にはどこのパートの治療をどのように減弱できるのでしょうか。具体的に行おうとすると簡単ではないのかも知れません。また、素直でない白血病、すなわちMRDが陰性でも再発してくるものどうすればよいのか、解決の一つは高感度MRDと本文中でも述べられていますが、今後に期待です。

有難うございました。

 

 

■第402回■

聖路加の平林です。

取り上げました論文はSAMD9 mutations cause a novel multisystem disorder, MIRAGE syndrome, and are associated with loss of chromosome 7 Nat Genet. 2016 Jul;48(7):792-7.です。6年目?の代田先生と読みました。

MIRAGE症候群というものをお聞きになったことがあるでしょうか。全く知らなかったのですが、本邦の小児内分泌領域から確立された病気です。先天性副腎低形成症(Adrenal hypoplasia)を主症状として、Myelodysplasia, Infection, Restriction of growth, Genital phenotypes, Enteropathyから名づけられています。ラストオーサーでもある慶応大学小児科長谷川教授が名づけられたそうです。その原因遺伝子がSAMD9であることが確認され、機序が解明され報告に至りました。

ここでSAMD9と言えば別名KasumiSAMD9Lと言えば別名Titanです。第270回聖路加抄読会でも取り上げました広島大学稲葉教授が同定され、SAMD9/SAMD9Lendosomeの機能を保つ作用があり、骨髄異形成症候群の発生にも関わると2013年のCancer Cellに報告されています。このお話も出てきて私にはすでにgive upです。

引き続き今回の論文についてです。背景ですが、先天性副腎低形成症は本邦で1000人程度の患者さんおり、その30%で原因遺伝子は同定されていませんでした。その原因が特定されていない患者さん24人の検体でWESを行い、11人でSAMD9のヘテロ変異を同定しました。臨床症状を見たところ、上記で述べたMIRAGEが共通してみられました。

機序を調べるためHEK293細胞でSAMD9遺伝子異常を導入したところ、wild typeでは細胞増殖がわずかに遅くなった程度なのですが、mutant typeでは細胞増殖が強力に抑えられており、皮膚線維芽細胞でも同様の結果でありました。一方で細胞周期の比率やアポトーシスは変異の有無で変化はなく、増殖スピードのみが抑制されている結果でした。

患者由来の皮膚繊維芽細胞を解析すると、小胞によって細胞内へと取り込まれた様々な物質の選別・分解・再利用などを制御するエンドソーム系に異常があることがわかりました。細胞内で小胞を分配する初期エンドソームと、細胞内の小胞を分解に導く後期エンドソームから構成されますが、患者細胞では後期エンドソームが巨大化して多数存在しています。

SAMD9 遺伝子異常によりエンドソームの形成過剰を引き起こし、細胞が障害されていることが確認されました。

ここまででも良いのですが、さらに追加データです。骨髄異形成症候群(MDS)を発症した2例ではいずれもモノソミー7でした。しかも、いずれもSAMD9の変異が乗っかっている側の7番染色体が欠失していたのです。これは細胞増殖抑制作用を持つ異常SAMD9

遺伝子を除去し、細胞増殖速度を高めたと考えられました。筆者らはそれだけでなく他の重要な7番染色体上の遺伝子(がん抑制遺伝子)なども欠失したことも合わさり、MDSを発症したと推察しています。

 もう1度整理が必要です。実は2006年にヒトではSAMD9のホモ変異が常染色体劣性遺伝の家族性腫瘍状石灰化症 (NFTC)の原因であることが報告されていました。今回のMIRAGE症候群はSAMD9ヘテロ変異によります。この違いは変異部位によって、機能低下型、機能亢進型になるとの説明です。SAMD9は細胞増殖を抑える機能を持ち、細胞培養の結果から、MIRAGE症候群の遺伝子異常によりこの機能が亢進し細胞増殖が抑えられ副腎をはじめとして低形成になる、一方で家族性腫瘍状石灰化症の遺伝子異常では細胞増殖の抑制機能は高まらないと説明しています(SAMD9がなぜ腫瘍状石灰化と関係するかまた別にストーリーがあるようです)。

 そして広島大稲葉先生の結果をお示しします。ヒトではSAMD9SAMD9LSAMD9 like)が存在するのですが、マウスではSamd9Lのみです。Samd9Lノックアウトマウスはヒトの-7/7q-に似たMDSを呈します。Samd9Lのヘテロ欠損マウスもホモ欠損マウスも生後1年頃にMDSになり、やがて死にます。SAMD9/SAMD9Lの機能としてエンドソーム系の機能制御、初期エンドソームの融合を促進する働きを持つと報告しています。  

いろいろ混乱するのですが、SAMD9のヘテロ変異はMIRAGE症候群になり、そして造血細胞においてはSAMD9のノックアウト(稲葉先生)または欠失(本論文)が骨髄異形成症候群にいたるきっかけになるということで良いでしょうか。

 MIRAGE症候群の発見も本当に素晴らしいことである上に、モノソミー7のなぞに近づいたかもしれないということが、本当にワクワクした次第です。

以上ありがとうございました。

 

 

 

■第400回■

聖路加の長谷川です。

毎度おなじみ抄読会報告がついに400回を迎えました。

これもひとえに皆様のご愛顧の賜物と心より感謝申し上げます。

 

当初は熊本先生が体調不良で読めなかったという「生禁」論文を準備していたのですが、400回記念ということでこの8年間執拗に追いかけ回したあの人達の最新作を取り上げました。最新作とはいえ2月には公表されていたのですでにお読みになられている先生方も多いかもしれません。

今回の担当は卒後1年目の内科系レジデント松田和樹先生です。

東大卒で、ポリクリ時代には加藤元博先生の薫陶を受けたそうです。

 

Truncating Erythropoietin Receptor Rearrangements in Acute Lymphoblastic Leukemia.

Iacobucci I, Li Y, Roberts KG, Dobson SM, Kim JC, Payne-Turner D, Harvey RC, Valentine M, McCastlain K, Easton J, Yergeau D, Janke LJ, Shao Y, Chen IM, Rusch M, Zandi S, Kornblau SM, Konopleva M, Jabbour E, Paietta EM, Rowe JM, Pui CH, Gastier-Foster J, Gu Z, Reshmi S, Loh ML, Racevskis J, Tallman MS, Wiernik PH, Litzow MR, Willman CL, McPherson JD, Downing JR, Zhang J, Dick JE, Hunger SP, Mullighan CG.

Cancer Cell. 2016 Feb 8;29(2):186-200.

 

MullighanSNPアレイを用いて小児ALLのゲノム異常について切り込んだのが2007年ですので、ほぼ10年が経ちました。

この間にIKZF1異常の重要性を明らかにし、CRLF2再構成やJAK変異の意義に光をあてつつ、Ph-like ALLの概念を分子生物学的ならびに臨床的に確立しましたが、今回の論文はPh-like ALLの一部を占めるEPOR (エリスロポエチン・レセプター)の異常について徹底的に解析しています。

 

詳細な内容については松田先生作成の資料をご参照ください。

50枚の大長編ですが背景から論文内容までほぼ完璧に美しくまとめてくれていて必見です。

 

BCP-ALL 3115例中19例にEPOR再構成を認め、全例がPh-like ALLの発現プロファイルを呈していました(全Ph-like ALL8.9%)。

EPOR再構成の多くはIGHまたはIGKと隣接していましたが、1例で染色体内逆位によるEPOR-LIAR1 fusionが生じていました(松田スライド14-17)。

これらの再構成によりEPORexon 8が切断されてしまいますが、切断点は原発性家族性先天性多血症というすごい名前の疾患でみられるEPOR変異とほぼ同じようです(松田スライド20)。

EPOR再構成を有するALL症例では、exon 8を欠くEPORRNA発現および細胞表面への発現が亢進します。

exon 8より上流にはSTAT5結合部位があり、exon 8にはレセプターを負に制御する機能がありますので(松田スライド20-21)、exon 8を喪失することでレセプター機能のブレーキが外れてしまうことが推測されます。

実際に細胞株や患者検体を用いて調べると、EPOR再構成を有する細胞はリガンド(EPO)刺激のない状態での恒常的活性化は呈しませんが、リガンド刺激後のレセプターのダウンレギュレーションが起きないので活性化状態が遷延し、レセプター下流のJAK-STAT系シグナルが増強されます(松田スライド28-33)。CRLF2異常ではTSLP刺激がなくてもJAK-STAT系の恒常的活性化が起きてしまうのですが、それとはすこし違うようです。

 

このEPOR再構成を導入したマウスArf-/-B前駆細胞をマウスに移植するとマウスにBCP-ALLが生じ(松田スライド37-42)、EPOR再構成自体が白血病を来すイベントであることがわかります。

EPOR再構成は白血病細胞以外に骨髄球系細胞でも認められるようで、骨髄球系にもリンパ系にも分化しうる段階の細胞において生じ、その後の付加的異常(IKZF1PAX5?)によりリンパ系に運命づけられるのだろうと考察されていました。

 

EPOR再構成によるJAK-STATシグナル亢進やマウスでの白血病発症に対してJAK阻害剤であるruxolitinibの効果が示されています(松田スライド31, 42, 44, 45)。EPOR再構成を有するALL症例に対してruxolitinibは一過性効果しかもたらしませんでしたが(松田スライド48)、ruxolitinibDEXVCRDNRは相乗効果を示すことが示唆されており(松田スライド46, 47)、今後はJAK阻害剤併用化学療法の臨床応用がすすむのでしょう。日本ではまだまだハードルが高そうですね。

 

というわけで小児ALLにおけるEPOR再構成の機序からALL発症への影響、さらには治療標的としての可能性までを網羅的に掘り下げた、さすがはMullighanラボといえる大作でした。

今週土曜日の例会ではBCP-ALLの分子生物学についてのご講演がありますが、その前に多少は頭をアップデートできたような気分です。

 

最後に、この論文のファーストオーサーのIacobucciはもともとイタリアのボローニャでPh-ALLの研究をしていましたが、Mullighanとのcompeteに敗れ2008年のBloodではconclusion”During the manuscript revision, Mullighan et al described a deletion of IKZF1 involving exons 4 to 7, which are responsible for the generation of the Ik6 transcript variant isoform in Ph+ ALL”と書かされる憂き目に遭っています(Iacobucci I, et al. Expression of spliced oncogenic Ikaros isoforms in Philadelphia-positive acute lymphoblastic leukemia patients treated with tyrosine kinase inhibitors: implications for a new mechanism of resistance. Blood. 2008 Nov 1;112(9):3847-55.)。

ここ数年でSt. Judeチームに合流したようですが、マリガンの寝首を掻こうとしているのか、そしてキャサリンロバーツと仲良くやっているのか、まったくどうでもいいのですが気になってしまいました。

 

 

■第399回■

真部です。そろそろ夏本番でしょうか。みなさま、お元気でいらっしゃいますか。今回は、何かと話題の多いPD-1関連の論文を取り上げました。担当は卒後3年目、九大出身のシニアレジデントの山本俊亮先生です。まとめを添付します。

 

Aberrant PD-L1 expression through 3-UTR disruption in multiple cancers.

Kataoka K. Nature, in press

 

(真部解説)

最近、PD-1は腫瘍が生体の免疫監視機構を逃れるメカニズムに密接に関わっていることが明らかにされました。PD-1を発見した京大免疫の本庶佑先生はつい先日、京都賞を受賞されたのだそうです。PD-1のリガンドであるPD-L1を発現するがん細胞は、これを免疫チェックポイントとして細胞障害性T細胞(CTL)に発現しているPD-1と結合し、免疫監視を回避して増殖できる、というからくりです。Nivolumabはこの結合を阻害する抗体として開発され、すでにメラノーマと非小細胞肺がんに対する適応が取れていることはみなさももお聞き及びのことでしょう。さらに、先日、Nivolumabを適応外で使用して有害事象で死亡した例が公表されました。無制限にこの「高価な」薬を使わないようにとの空気もあるのだと思います。

ともあれ、今回の論文は、日本から、それも私たちにとても親しい京大の小川誠司ラボからでました。小川先生はあらゆる種類の血液腫瘍に取り組んでいますが、昨年はATLをとりあげ、細胞内のシグナル伝達のメカニズムが明らかにされたようです(Kataoka K. Integrated molecular analysis of adult T cell leukemia/lymphoma. Nat Genet 2015;47:1304-1315. すみません。ちゃんと読んでいませんが、きっとすごい研究だと思います)。その研究過程でみいだされたのだと思いますが、ATL患者49例のうち、13例(26%)で染色体上の9q24.1の近くに切断点が見つかりました。9q24.1PD-1Lの3’部位に位置します。この部位において、いわゆるnon-coding sequenceの構造変化(SV: stryctural variation)が起きており、それらはlarge deletion(1例)、tandem duplication(4例)、inversions(4例)、そしてtranslocation(4例)でした。このうちの12例でPD-1Lの著しい高発現がみられました(ほかの1例は腫瘍の割合が低くてよくわからず)。メカニズムとしては、PD-1Lの通常の3’部位(UTR: untranslated region)がこのSVによって置換されることにより、poly-Aが導入されるなどの変化が起こり、短くなったPD-1Lの発現が増加するということでした。PD-1Lの発現はタンパクレベルでも高くなっていましたが、その場合にはN末端を認識する抗体を用いる必要があり、C端末を認識する抗体では検出できません。

次に著者たちはなんと、10,210ものがんサンプルに挑みます。とはいってもCancer Genome Atlas (TCGA) のデータベースに入って検索したわですが、その結果、12種類のがん種の31例でこの、PD-1L3-UTR領域にSVが見いだされました。これがすごい手法なのか、単なるコンピューターが計算してくれるだけなのかはわかりませんが、数は膨大ですね。このメカニズムを多く利用しているがんはDiffuse large B-cell lymphomaDLBL)(4/48例)、 胃の腺癌(9/415例)でした。。

さて、このように、PD-1L3-UTRSVが導入されることによってPD-1Lの発現が高くなる(難しい概念ですね)として、そうすると何が起きるかも示されています。すなわち、PD-1L高発現腫瘍は CTLの標的として認識されやすい反面、実際にはCTLに殺されることはなく、攻撃からescapeします(この解釈は怪しいです)。

ウイルス発がんについての知見もあります。HPVは子宮頚がんでPD-1Lの増幅を来し、EBVは胃の腺癌でPD-1L 3-UTRに入っていました。ウイルスはこれらのがん細胞が免疫監視から逃れるのを助けているということで面白いですね。

最後に細胞株にこのSVを導入して機能解析が行われています。SVの導入によりPD-1Lの発現が上がり、マウスに腫瘍を移植した実験では、CTLによる攻撃を逃れました。また、PD-1Lに対する抗体を用いると、このescapeはなくなり、腫瘍は縮小しました。

とにかく、すごい研究です。小川研究室は手がける領域すべてで世界をリードする成果を上げるのは驚きです。今回の結果は今後、臨床の現場でPD-1抗体治療におけるバイオマーカーの開発にも役立つと思われます。文字通り、シャッポを脱がされました。

詳細は山本君が作ったまとめのスライドをご覧ください。でも言葉足らずだったり誤った解釈もあると思われます。そのあたり、共著者の吉田健一先生、元聖路加におられたよしみで、解説と訂正をお願いします。

 

 

 

■吉田健一先生からのコメント■

京大腫瘍生物学の吉田です。

今週は出張が続いており、お返事が遅れまして申し訳ありません。

私たちの論文をとりあげていただきありがとうございます。

 

真部先生の解説で特に修正するところはありませんが、

以下少し補足させていただきます。

 

>次に著者たちはなんと、10,210ものがんサンプルに挑みます。(中略)これがすごい手法なのか、単なるコンピュ

>ーターが計算してくれるだけなのかはわかりませんが、数は膨大ですね。

これは最近よく行われている手法で、pan-cancer analysisと呼ばれますが、特定の遺伝子異常や現象を一つのがんにとどまらずたくさんの癌種で解析してみようという手法で、主に今回私たちも利用したTCGAのデータが使用されます。TCGAのデータは公開されていて、利用申請を行えばだれでも利用できますが、今回行ったようにシーケンスデータをダウンロードして、再度自分たちで再解析するというのはデータの量や計算量などを考えるとかなり大変で、どこの実際にはどこの研究施設でもできるというわけでもありません。今回の研究では東大医科研の宮野研の先生方に大変お世話になり、医科研のスパコンで解析を行っていただいています。

 

>すなわち、PD-1L高発現腫瘍は CTLの標的として認識されやすい反面、実際にはCTLに殺されることはなく、攻撃

>からescapeします(この解釈は怪しいです)。

このあたりは確かにややこしいのですが、PD-L1高発現腫瘍はおそらく遺伝子変異が多いなどの理由でCTLに認識されるがん特異的抗原(ネオアンチゲン)が多いため、CTLに殺されないように今回報告した3’-UTRSVなど(他にはコピー数増加や転座などが知られています)のメカニズムでPD-L1高発現により攻撃からescapeしていると考えられます。

 

プレスリリースで作成した資料がありますので、興味がある方はこちらもご覧ください。

http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2016/documents/160524_1/01.pdf

 

どうぞよろしくお願いいたします。

 

■第397回■

聖路加の細谷要介です。第397回聖路加抄読会報告をお送りします。今回は、米国のSt.JudeCOGの共同研究によるALL治療における膵炎の臨床的遺伝的リスク因子に関する論文を取り上げました。

 

Liu C, Yang W, Relling MV, et al.

Clinical and Genetic Risk Factors for Acute Pancreatitis in Patients With Acute Lymphoblastic Leukemia

J Clin Oncol. 2016;34:2133-2140

 

一緒に読んでくれたのは、当院の後期研修医、山本一希(やまもとかずき)先生です。山本先生作成の資料を添付致します。

昨年、第352回聖路加抄読会において、真部先生と山本一希先生がL-asparaginaseのアレルギーに関する論文を取り上げました。

 

Fernandez CA, et al.

Genome-wide analysis links NFATC2 with asparaginase hypersensitivity. Blood 2015;126:69-75.

 

St. JudeCOGの症例を対象にGWASを行いリスク因子を検索したのですが、NFATC2HLA-DRB1*07:01が関連すると行った結果でした。その報告において真部先生が「asparaginaseで興味深いといえば、なんといっても重症膵炎なのに、このペーパーでは膵炎について全く触れられていないのは問題だ」とコメントされていましたが、今回取り上げた論文は、その注文に応えるようなものになっております。

 

asparaginaseによりALL治療中の2?18%に急性膵炎が合併すると言われていますが、その機序はいまだはっきりはしません。リスク因子はasparaginaseintensityと年長児と言われていますが、確定的ではありません。例えばアルコール性膵炎の遺伝的リスク因子としては遺伝子多型/変異トリプシン活性化につながるものがいくつか指摘されていますが、Asparaginase関連ではまだ不明でした。そこでSt. JudeCOGの連合軍は、過去最大の症例数を対象にGWASを用いたリスク因子同定を目指しました。

 

対象はSt. JudeCOG7つのプロトコールで治療された初発ALL 5958例の内、DNAが利用可能だった5185例をコホートとして解析しました。膵炎(CTCAE v3.0G2以上、あるいはv2.0ではG3以上)を発症したのは117例です。

 

またCOGAALL0331症例は、別のcase-control studyとして用いられており、71例の膵炎症例と、年齢とAsparaginase量をマッチさせたcontrolを解析しています。

 

コホートの解析では、9割方の膵炎が治療開始後一年以内に発症しており、診断から膵炎発症までの中間値はコホートの症例では106日、AALL0331では78日でした。多変量解析では、年長児、Native American、アスパラギナーゼ高用量がリスク因子でした。レアなvariantsあるいはnonsense variantsを解析していくと、6つの遺伝子が同定され、なかでもCPA2nonsense SNP (single-nucleotide polymorphism)が最も強い関連を示しました。CPA2はカルボキシペプチダーゼA2の前駆体をコードする遺伝子で、このSNPCPA2蛋白のearly terminationを起こすようです。解析された3469例中わずか2症例がこのnonsense SNPをもち、二人とも早期に膵炎を発症しています。

commonSNPの解析ではリスク因子としてプリン代謝遺伝子領域FHITを特定しました。またトップ20のうち7つのSNPが細胞骨格に関わる遺伝子上の多型でした。

膵炎のリスクと考えられる283遺伝子のシークエンシングをすると、CPA2380variantsが同定され、16の変異が膵炎と関連していました。これらの変異を一つ以上もつ24例のうち13例が膵炎を起こしています。

また膵炎関連遺伝子のgene-level解析ではHOGA1CPA2が膵炎発症のリスクでした。

カルボキシペプチダーゼは腺房細胞から前駆体として分泌され十二指腸においてトリプシンにより活性化されます。なぜCPA2の変異が膵炎を生じるのかはまだわかりませんが、CPA2isoformであるCPA1が慢性膵炎に関わることがわかっており、興味深いところです。

HOGA1活性低下はシュウ酸カルシウムによる尿路結石を生じる事が知られていますが、同じようなメカニズムによりシュウ酸過剰となって、それが膵炎につながるのか?もしれません。

FHITはプリン代謝に関わる遺伝子ですので、ALL治療に重要な役割を果たすチオプリンと何か関係するかもしれません。

また、細胞骨格に関わる遺伝子が膵炎に関係しているとすると、細胞骨格の崩壊が膵炎と関連するのかもしれません。

 

こうやってみてくると、膵炎の発症はとても色々な要素が複合的に影響している可能性が示唆されます。非常にまれではありますが影響力の大きいCPA2などの変異と、比較的頻度の高いけれど疾患発症に対しての影響力があまり大きくはない遺伝的要素が双方とも絡んで、膵炎のリスクを高めているのではないかという推論が立ちます。

 

 

■第396回■

真部です。今回は、例の、血友病の画期的な論文をとりあげました。担当はベテランシニア研修医の代田惇朗先生です。まとめを添付します。

 

Shima M, et al. Factor VIII-mimetic function of humanized bispecific antibody in hemophilia A. N Engl J Med 2016;374:2044-2053.

 

(真部解説)

重症の血友病Aについては第VIII因子製剤を週3回以上静注しなければならないとか、30%以上の例でインヒビターができてしまうなどの問題があり、取り扱いに難渋することがありますが、それを解決すべく開発されたのが、このemicizumabというbispecific抗体です。これはFactor VIIIの代わりにFactor XFactor IXaをつなぐ作用があります。ヒト化されているのでそれに対する抗体もできないくい、という賢い製剤なのですが、その開発については20番の文献(Kitazawa T. Nat Med 2012;18:1570-1574)に報告されており、本ジャーナルクラブでも第236回でとりあげました。日本の中外製薬と奈良医大との共同研究です。今回はヒトにおける第II相臨床試験の結果が報告されたというわけです。雑誌も高級なら、筆頭著者も奈良医大の御大、嶋緑倫という豪華な布陣です。12歳から59歳の日本人の重症血友病患者18名が対象となりましたが、うち11名はインヒビター陽性でした。また1名はHIV陽性、2名はB型肝炎あり、11名はC型肝炎ありです。重症で本当に困っている患者さんがエントリーしたことがわかります。週1回皮下注で12週間投与されました。3つのdoseそれぞれを6名に投与しました。

結果は代田先生のまとめにゆずりますが、dose dependentに血中emicizumab濃度は増加しました。3つのどのdoseでも、出血エピソードの大幅な減少がみられ、またその効果はインヒビターの有無に関係ありませんでした。問題となる_副反応もほとんどありませんでした。また期間中、emicizumabに対して抗体ができた例もありませんでした。

Straight forwardな結果で、実に素晴らしいと思います。夢のような製剤です。著者には中外製薬の社員も含まれており、その役割も書かれており、また各著者のCOIもしっかり書かれています。Lancet事件の反省が生かされているのだと思いますが、そもそも、あまりにも明白な結果ですから、そのあたりを気にする必要さえなさそうです。なお、この論文には Quick Takeという2分弱のヴィデオがついており、無料で見ることができます(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1511769)。嶋先生におききしたところ、現在、国際第III相臨床試験が行われているとのことです。日本発のインテリジェントな薬剤の将来に期待したいと思います。

 

 

■第395回■

毎度おなじみ抄読会報告です。

今回の山本は、じゃなくて担当は小児科後期研修医の山本俊亮先生で、論文化が待たれていたあの臨床研究について取り上げました。

 

Dexamethasone and High-Dose Methotrexate Improve Outcome for Children and Young Adults With High-Risk B-Acute Lymphoblastic Leukemia: A Report From Children's Oncology Group Study AALL0232.

Larsen EC, Devidas M, Chen S, Salzer WL, Raetz EA, Loh ML, Mattano LA Jr, Cole C, Eicher A, Haugan M, Sorenson M, Heerema NA, Carroll AA, Gastier-Foster JM, Borowitz MJ, Wood BL, Willman CL, Winick NJ, Hunger SP, Carroll WL.

J Clin Oncol. 2016 Apr 25. pii: JCO624544. [Epub ahead of print]

 

COGNCI-HR群に対して寛解導入療法におけるDEX 10mg/m2 x14vs PDN 60mg/m2 x28日、強化療法におけるCappizzi MTX (CF rescueなしのMTX dose escalation) vs HD-MTX (BFM5g/m2)2x2 RCTを行ったCOG AALL0232試験の結果がついに論文化されました。

「ついに」といいますのも本研究結果は2011年ごろから発表されており、TCCSG MLでも富澤先生の2011St. Jude Viva Forum報告と2011COG Fall meeting報告において詳細に紹介されており、実はその内容は我々TCCSG会員がすでに知るところでもあるのです。

ということで、以下は富澤先生の紹介文からの引用が多々含まれておりますが何卒ご了承下さい。

ディティールは添付した山本俊亮作成のまとめもご参照頂ければと存じます。

論文自体は数字の羅列ですが、資料的意義は高いと思います。

 

本研究PILarsen(の話を聞いた富澤先生)によると、この試験が組まれた背景として全身化学療法が強化されたことで相対的にCNS再発の割合が高くなってきたため、DEX寛解導入療法とHD-MTXの意義を検証したかったようです。

 

結果としては、HD-MTX群がCapizzi MTX群と比較して骨髄再発率、中枢神経再発率とも少なめで、EFSもよかったようです。

治療反応別にみると、早期治療反応良好群(RER)ではEFSの差はほとんどなく、反応不良群(SER)ではmarginalながらHD-MTX群がよかったという結果です。

 

    HD-MTX   Capizzi

BM再発  7.0%     8.6%

CNS再発     2.9%     4.1%

5y-EFS     79.6%    75.2%

(RERでは84.9% vs. 82.8%SERでは57.8% vs. 49.4%)

5y-OS       88.9%    86.1%

(RERでは91.8% vs. 90.7%SERでは77.9% vs. 71.2%)

 

粘膜炎は10歳未満ではHD-MTX群の方が多かったものの、10歳以上ではCapizzi MTX群の方がわずかに多く、全体でみるとほぼ同等。

一方、FNCapizziの方が多いという結果で、ロイコボリンレスキューがないこと、L-ASPの相乗効果などが考察されておりましたが、どうなんでしょう。興味深かったのはHD-MTXで虚血性脳血管障害が5例もでたということですがあまり考察で触れられていません。L-ASPとの絡みで考えるとCapizziの方に生じそうなものですが。

 

一方、DEX vs. PDNRCTに関しては、10歳以上のDEX群で骨壊死が頻発 (24.3% vs. 15.9%)したためRCTが中止され全例PDNに割り付けられ、10歳未満でのみ継続されたのですが、RCTの対象となった全体では差がなかったものの、HD-MTX群に限ればDEX群が5EFSにおいて91.2% vs 80.8%と勝ったとのことでした(OS4群ほぼ重なっています)。

BM再発は大差なかったもののCNS再発は少なそうです(2.0% vs. 5.0%)。

DEX群でFNが多かったものの寛解導入中の死亡は増加しませんでした。

また、10歳以上のうち途中までRCTされた症例のEFSを比較するとDEX 73.1%PDN 73.9%とまったく差はありませんでした。

 

結論としては、HR-BCP-ALLでは、1-9歳はDEX寛解導入とHD-MTXが標準治療、10歳以上ではPDN寛解導入とHD-MTXが標準治療、ということになるかと思います。

CapizziHD-MTXに負けた悲しさからか、考察には「AALL0232は北米のclinical practiceを変えてしまった」と宣言されていました。

RERではHD-MTXの優位性は示されなかったので、そこだけでもCapizziにしてもいいような気もしますが。

 

さて、富澤先生の2015COG Fall meeting報告によると、T-ALLではCapizzi MTXが勝ったようです。

T-ALLではpolyglutamationが起きづらい、という従来の理論と合わないような気がします。こちらの論文化も待たれます。

 

ステロイド問題でいえば、393回抄読会で取り上げたAIEOP-BFM2000の結果が記憶にあたらしいかと思います。そこではDEXは再発率を減らすものの寛解導入中死亡が多いため、OSに差はありませんでした。

 

週末の班会議では、本邦の次期治療研究においてどのような方向をとるのか聞けるかもしれません。

 

 

■第394回■

聖路加の平林です。卒後1年目の内科レジデント武石先生と読みました。

取り上げました論文は、Danazol Treatment for Telomere Diseases.  N Engl J Med. 2016 May 19;374(20):1922-31. です。Neal Youngラボからの報告です。

テロメアとテロメラーゼと言えば2009年にノベール生理学医学賞を受賞していることから一躍有名になりました。小児血液領域におけるテロメア、テロメラーゼと言えば、先天性骨髄不全の一つとしての先天性角化不全症(DC)が有名です。テロメラーゼの障害によりテロメアが短くなって、種々の症状と血球減少やがん化を来す病気です。近年、原因となる遺伝子変異の報告が続いています。汎血球減少に対する治療は、造血幹細胞移植ですが、蛋白同化ステロイドであるダナゾールの効果が知られていました。今回は27例の先天性角化不全症に対してダナゾール投与のphase1-2前向き試験を行った結果です。800㎎のダナゾールを12回にわけて2年間内服し、テロメア長をqPCR法やFISH法で測定、血算や副作用といったデータ収集されました。

 

健常人のテロメアは年間60bpほど短くなるそうですが、DCでは年間120bpほども短くなるようです。単純に考えれば2倍速く老いてしまう計算ですね。この試験においては、DC患者でテロメアの消耗を20%防げれば効果ありと定義して、年間96bpよりも短くならないことを判定ラインとしています。Table1は患者背景で、27例のDCで、そのうち21例に遺伝子異常(TERT,TERC,DKC1,RTEL1)が同定され、6例で遺伝子異常が不明です。結果はFigure1にあります。27例のうち2年後にテロメア長を測定できたのは12例しかいませんでしたが、全例で年間96bpよりも短くならず治療効果がありました。しかし内服を2年で終了した後は再びテロメア長が短くなることが示されています。Figure2は個々の患者の治療効果ですが、遺伝子変異の違いによる差はないようです。Figure3は貧血、HbANCPltともダナゾール投与中は改善していますが、ダナゾールを終了するといずれも再び低下してしまいます。以上からダナゾールの効果が明らかだとしています。DCでは肺線維症を来しますが、そちらに関しては効果はありませんでした。ダナゾールの副作用に関しては41%で肝障害、33%で筋けいれん、26%で浮腫、26%で脂質異常です。

 

Discussionlimitationとして著者らは以下4つを上げていました。①変異が同定されてない患者がいる、 ②テロメア長の測定は変動しやすい、③高容量のダナゾールを使用している、 ④randomizedでなくcontrol群がいない。

 

ところでメカニズムになりますが、ダナゾールがTERT遺伝子の発現やテロメラーゼ酵素活性を上昇させることがin vitroやマウスの研究で証明されています。また疫学的にはホルモン代謝とテロメア長の関連が証明されていたりするそうです。

 

しかし実際にDC患者で、正常よりも減少していることもあり造血幹細胞でのテロメアの活性を直接的に調べることはできていません。今後、長期予後や、MDS/AMLに至る率、低用量のダナゾールではだめかなど検討の余地があるとの議論になっています。

以上ありがとうございました。

 

 

■第392回■

毎度おなじみ抄読会報告です。

先週のGATA2論文に続いて、今週はGATA1です。

担当は小児科後期研修医の山本一希先生です。

余談ですが、いま当科には山本姓が3人もいてしばしば混乱を来しております。

 

Systematic Cellular Disease Models Reveal Synergistic Interaction of Trisomy 21 and GATA1 Mutations in Hematopoietic Abnormalities.

Banno K, Omori S, Hirata K, Nawa N, Nakagawa N, Nishimura K, Ohtaka M, Nakanishi M, Sakuma T, Yamamoto T, Toki T, Ito E, Yamamoto T, Kokubu C, Takeda J, Taniguchi H, Arahori H, Wada K, Kitabatake Y, Ozono K.

Cell Rep. 2016 May 10;15(6):1228-41.

 

今回の論文は日経新聞電子版などでも紹介されておりご覧になった先生方もいらっしゃるかと思います(http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG30H0R_Q6A430C1TJM000/)。

阪大小児科のグループによる素晴らしいお仕事です。

 

ダウン症候群 (DS)の1割ほどが出生時にTAMを来たし、そのうちの約20%が数年以内にAMLを発症するということは皆様よくご存知のことと思います。

小川ラボの吉田先生たちの網羅的解析によりTAMの発症にはGATA1変異の存在が重要であることが改めて確認されていますが(第271回抄読会)、なぜ+21GATA1変異が生じやすいのか、そしてそれらがどのように協働してTAMが生じるのかは明らかにされてきませんでした。

TAMにおけるGATA1遺伝子変異の発見から14年を経て、iPS細胞とゲノム編集技術を縦横無尽に駆使して+21GATA1変異の関係について明らかにしたのがこの論文ですが、内容を文章だけで伝えるのには限界がありますので、添付した山本一希作成資料をご参照しつつ以下の解説をお読み頂ければ幸いです。

 

筆者らは21番染色体数とGATA1変異の有無の異なる複数のiPS細胞を作成しました。

TAM児からは21番染色体 (chr21) x3/GATA1変異(短縮型GATA1なので、以下GATA1s)とchr21 x3/GATA1wt2種類のiPS細胞を樹立し、コントロールには臍帯血から作ったchr21 x2/GATA1wtの細胞を用いました。さらに21番染色体の本数の影響を検証するために、chr21 x2/GATA1wt細胞をゲノム編集してchr21 x2/GATA1s細胞を作成しただけではなく、別のTAM児から作成したchr21 x3/GATA1s細胞とchr21 x3/GATA1wt細胞を継代している過程で21番染色体がダイソミーになった(!)chr21 x2/GATA1s細胞とchr21 x2/GATA1wt細胞をも用いています(資料スライド4&14)。

もうこの時点で読むのが辛くなってきたかと思いますが、どうぞお付き合い下さい。

 

まずchr21 x2/GATA1s細胞とchr21 x3/GATA1s細胞を比較し21番染色体が3本あるとGATA1s発現が亢進していることがわかりました(資料スライド6)。

さらにchr21 x2/GATA1wt細胞とchr21 x3/GATA1wt細胞の比較から、21番染色体が3本あると造血前駆細胞および赤芽球系細胞、骨髄球系細胞が増加することが示されます。コロニーアッセイでもchr21 x3/GATA1wt細胞にて各種コロニー数の増加が確認され、トリソミー21そのものが早期造血を亢進させることがわかりました(資料スライド7-9)。

同様の所見は過去にも示されており、iPS細胞を用いた系(Maclean GA et al. PNAS. 2012)のみならず、非TAMDS児でPBに芽球や赤芽球が出現するなどの異常を伴いやすいことが知られていました(Roberts I et al. Blood. 2013;第294回抄読会)。

 

次いでGATA1sを有するiPS細胞から生じた造血細胞の解析より、GATA1sがあるとCD34+/CD41+の未分化巨核芽球の割合が増加することが明らかになり(資料スライド11-13)、GATA1sは巨核球系の分化を障害することがわかりました。

 

トリソミー21細胞を造血細胞に分化させる際に遺伝子発現が亢進している4Mb領域があることに目をつけ、この4Mbを1コピー分だけ欠失させた部分トリソミー21細胞(=4Mb領域部分だけダイソミー)を作成したところ、この細胞では造血前駆細胞も赤芽球系細胞も骨髄球系細胞も増えず、トリソミー21で早期造血が亢進するにはこの4Mb領域が必要であることを明らかにしました(資料スライド17-19)。

この部分トリソミー21細胞ではGATA1sがあっても発現亢進がおこらずCD34+CD41+の割合が増えませんが、レンチウイルスによってGATA1sを強制発現させるとCD34+CD41+の割合が増えたことより、4Mb領域がトリソミーになることでGATA1s発現が亢進し、巨核球分化に異常が生じるものと考えられました(資料スライド21-22)。

 

この4Mb領域にはRUNX1ETS2ERGなど造血に関与する遺伝子が存在しており、これらの遺伝子のコピー数の影響を調べたところ、トリソミー21による造血亢進にはRUNX1が、トリソミー21&GATA1sによる巨核球系分化障害にはRUNX1ETS2ERGが、影響しているようでした(資料スライド24-26)。

 

ということで、トリソミー21RUNX1の過剰)によって造血が亢進しているところに、(RUNX1ETS2ERGの過剰によって)発現が亢進したGATA1sにより巨核球系の分化障害がおこることで異常な巨核芽球が増加したものがTAMであるということがわかりました。

非ダウンTAMでも後天的トリソミー21GATA1変異が加わることによって発症することと合致するものと考えます(Ono R et al. EJP 2015)。

 

ここ数年、生物の教科書を通読するかのように様々な網羅的遺伝子ものの論文を読んできましたが、ひとつひとつの疑問についてモデル細胞を使って丁寧に解明を試みる本論文は難しい数学の大問の解説・回答を読んでいるようであり、たまにはこのような論文もよいものです(かなり骨が折れましたが)。

 

私の解説ではおぼつきませんので、阪大からのプレスリリース(http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2016/20160429_1)や、Crispinoらによる解説(McNulty M & Crispino JD. iPSCs Offer a New Look at GATA1-Trisomy 21 Cooperation. Cell Stem Cell. 2016 May 5;18(5):563-4.)などもご参照頂くほうがよいかと存じます。

 

本論文によってトリソミー21GATA1変異がどのように協働してTAMが生じるか明らかになりましたが、+21になぜGATA1変異が生じやすいのかはまだわかっていません。TAMやその後のML-DSの臨床像の多様性についても解明が進むことを願います。

 

来週の抄読会はGATA3…ではないと思います。